2026年秋冬のルメール(LEMAIRE)は、現代舞台芸術家ナタリー・ベアス(Nathalie Béasse)と共作した『mine eyes』としてショーを開催した。モデルたちが舞台上を歩く、ステレオタイプなランウェイショーではなく、人々の記憶や感情が交錯するひとつの劇作品だった。実用性と詩情、静けさと高揚感。その両極を行き来しながら、ルメールは服が人生をともにする存在であることを改めて教えてくれる。コレクションには、レザーバッグやドローイングを配したピース、貝を模したアクセサリーなど、アイコニックな人気アイテムもの最新作も多数出現。すぐにでも取り入れたいレイヤリングを多用したスタイリングも盛り込まれている。改めて、ディレクターズカットの動画とともに、最新コレクションのチェックを。
これまでも常識に囚われない表現方法でコレクションの発表をしてきたルメール。2026AWの披露も、彼ららしいアイディアによって行われた。舞台となったパリ・バスティーユのオペラ座。パリの中では比較的新しい建築物で、民主的で現代的なオペラハウスとして知られる。このロケーションからも、ルメールは限られた特別な誰かのためではなく、“人々の生活での営み”の上にある洋服作りに徹して来たブランドであることを再確認する。
演出を手掛けたのは、フランスを代表する現代舞台芸術家のナタリー・ベアス。彼女の舞台演出の特徴は、セリフや言葉で語るのではなく、演者の身体の動き、舞台上のオブジェ、音楽と沈黙、光と影、空間そのもので物語を紡いでいく。
『mine eyes』。直訳すると「わたしの眼」と題されたショーは、ウィリアム・シェイクスピアの詩『Sonnet 43』 に由来している。この詩は、冒頭「When most I wink, then do mine eyes best see…(まぶたを閉じるときこそ、私の目は最もよく見える)」という一節で始まる。

物々しい環境音の後、舞台に現れたのは、ロング丈のトレンチコートやジャケットを羽織った男性モデル。朗読の声に鳥のさえずりが重なって聞こえてくるなか、舞台の中央のカーテンから男性モデルたちが次々と登場する。男性モデルたちは皆、無彩色のスタイリングで、差し色は首元に見えるシャツのバターイエローのみ。スタイリングは装飾性を抑えかなり禁欲的。衣服として身を守るためにアウターを纏っている。生活者が街の広場に各々が集い、またそれぞれの目的地へ向かう。そんな情景がイメージできる。
続いて、脚を全て覆い尽くすほどのオーバーニー丈のロングブーツを履いた若い女性モデルが2名登場。あわせているのは、活動的なプルオーバーのような、ニットのオールインワン。斬新な提案のアイテムには、活動的でどこか未来志向なムードさえある。そこへ、オフホワイトのクラシックなロングコートにスリングバックパンプスを履いた、高齢の女性モデルが現れすれ違う。なんとも意味深な演出だ。
ルメールといえば、常に自らの創作にアーティストを招き入れて来た。今回は画家のロラン・トポール(Roland Topor)。映画『Fantastic Planet』(1973年)で知られる彼の絵画を大胆に配したブーツやスカート、トップスを着た女性たちが現れた。いずれもドローイングで描かれた鉛筆の線を刺繍やテキスタイルの毛足で表現し、アート作品を“立体的な装飾”として再構築している。

続いて、パンツスーツにスカートを差し込んだレイヤードスタイルや流れるようなドレープのカラーブロックのシルクドレス。舞台は段階を経て、華やかに変化していく。装うことの喜び、純粋でポジティブなエネルギーが会場に発せられる。レイヤリングは今シーズン取り入れたいスタイリングで、ジャケットやアウターの硬質な素材と柔らかなテキスタイルの光沢、重厚さと軽さのコントラストが美しい。

シルク地のバイヤスカットを生かした、動きのあるドレスに会場が釘付けになっているかと思うと、韓国人俳優のぺ・ドゥナが黒いフェザー風のミニドレスにショルダーバックを持って、自由に舞台から観客席へと歩みを進める。ボクシーなシルエットのロングジャケットの男女、さらにドイツ出身のダンサー、ジュリー・アン・スタンザックがバターイエローのドレスで舞台を軽やかに横切り、靴を手に持って裸足で回転しながら踊る。さまざまな感情のレイヤーが、テンポを少しずつ上げていく音楽とともに次々と立ち上がる。それに連れて、オーディエンスの期待も高まっていく。コレクションとしての新鮮さとともに、“それぞれの人生における記憶の断片”が頭を横切っていくような、心を揺さぶられる体験だった。


その後は、ジップアップのショート丈ブルゾンを身につけた男性モデルや、ベルテッドコート、ジャケットルックの女性モデルたちが続く。再び重厚な空気感になるが、ストレートなシルエットのパンツにはどこか素材感と色彩による温かみが感じられる。
それから、ブラウンとブラック、カーキなど、色を統一したルックの数々。一色のみを巧みに駆使しながら、ウェットな風合いのレザーに、スムースなサテン、クラッシュヴェルヴェッドなど金属のような微細な光沢、やや白みを帯びたパテントレザーや、革に見えるラッカーデニムのハーモニーなど、光が舞台の照明に効果的に呼応して美しい。素材の錯視も今シーズンを象徴する要素だ。
マットな素材のスーツやシャツ、コーティンコットンやドライシルクなど対照的な素材を駆使したルックも登場。ペールピンクやグリーン、アイスブルーなどランダムに入る差し色がアイキャッチーで、舞台の隅々まで視線が誘導されてしまう。これも、すぐにでも取り入れたいスタイリングだ。ルメールを代表する人気アイテムとなったレザーバッグの新作は、柔らかな質感、美しいカーブを描くフォルムにも注目したい。ジャケットやパンツなど、レザーのアイテムも豊富だ。

最後、舞台のカーテンが落ち、夕暮れの空模様のような淡いピンク色の舞台背景に切り替わる。モデル1人につき、1ルック。パーソナリティが際立つ、多様な出演陣が舞台に集結し、ショーを締め括った。10分弱ほどのショーだったが、ひとつの物語を見終えたような余韻と、寒い季節ではあるが秋冬が楽しみになる穏やかな明るいエネルギーを受け取ったように思う。

今回のショーについてクリストフ・ルメール自身も、「私たちの服は日常的で実用的なものだが、同時に芸術や詩情、ムードも大切にしている」と語る。日常と夢想。その両極を無理なく共存させることこそ、ルメールが長年追求してきたテーマだ。『mine eyes』は、その思想が豊かに結実したコレクションだった。

ルメールの新コレクションの立ち上がりは8月からを予定しているという。本コレクションの世界観を是非、店頭で目にして欲しい。
ルメール
URL/https://www.lemaire.fr/ja
Text: Aika Kawada






