
2025年版の「The World’s 50 Best Hotels(世界のベストホテル50)」で第5位に輝き、シンガポールで初めて、そして唯一となる最高評価「3ミシュランキー」を獲得した「ラッフルズ・ホテル・シンガポール(以下、ラッフルズ)」。世界最高峰のラグジュアリーホテルでの滞在は誰もが憧れる体験だが、ダイニングへのビジター訪問でも、その格式ある流儀を十分に体感できる。最新フレンチから伝説のバーまで、名門の真髄を五感で味わい尽くす、8つの極上ガストロノミーをご紹介。
1. 伝説のシェフによる世界で唯一のフレンチ「1887 by André」

シンガポールのダイニングシーンで今最もホットと言えるのが、2026年3月31日にホテル本館にオープンしたフレンチレストラン「1887 by André(1887 バイ・アンドレ)」だろう。率いるのは、「Restaurant André」でシンガポールをファインダイニングの地へと押し上げた伝説的シェフ、アンドレ・チャン氏。ミシュランガイドや「世界のベストレストラン50」、「世界のトップ・シェフ100人」のすべてにおいてトップランクに名を連ねた唯一の台湾人シェフだ。

「自身の名を冠したレストランは世界で常に1店舗のみ」とし、50歳を迎えた節目に「ラッフルズ」へと帰還したアンドレ氏。
(左)パセリとガーリックをまぶしたエスカルゴのアミューズ (右)タラバガニの身と餅米を詰めたチキンウイング
料理は「コンテンポラリー・ヘリテージ・ガストロノミー」を標榜し、ホーカーやシンガポールの庶民的スナックにインスパイアされた料理から、フランス時代の思い出の料理や「ラッフルズ」の伝統レシピにちなんだ料理まで、自身のルーツと多文化を融合させて提供する。
(左)タイ人の妻に影響を受けた「タラバガニのグリーンカレー」
(右)タートルスープ
シグネチャーの一つが、100年前の「ラッフルズ」のレシピや1950年代のエリザベス女王戴冠式のメニューから着想を得た「“Turtle Soup” from 1887」。絶滅危惧種であるカメは使わず、手羽先やナマコなどを用いてその食感を巧みに再現している。

「Royale of Foie Gras」は、アンドレ氏が30年前に南仏での修業時代にコンクールで優勝した逸品だ。フランス伝統食材のフォアグラやトリュフを使用しつつ、自身のアジアのルーツを表現すべく日本の「茶碗蒸し」と組み合わている。

シンガポール名物の「ラクサ」とパエリアを融合させた「ラクサ・パエリア」は、魚介の旨味とカツオの風味が幾重にも重なる一皿。ホテルの歴史やアンドレ氏自身の軌跡を表現した料理の数々は、驚きに満ちたプレゼンテーションとともに五感へ響くはずだ。
2. ハワイ出身シェフの薪火グリル×珠玉のワイン「Butcher’s Block」

薪や乾燥ハーブを使った燻製、スローロースト、高温グリル、炭火(燠火)の中への埋め込み、吊るし焼きなど、あらゆる薪火料理が味わえるのが「Butcher’s Block(ブッチャーズ・ブロック)」だ。
(左)ズッキーニのタルトレット、マテ貝のグリル
(右)「ロミロミ」メバチマグロの昆布締め
厨房を率いるシェフのジョーダン・ケアオ氏はハワイをルーツに持ち、自然への深い敬意を示すアロハの精神から「食材廃棄ゼロ」の哲学を実践している。
(左)クロマグロのポケ タルトレット
(右)「フリフリ」ドライエイジング・ダック
ハワイ語で「力強く前進する」を意味する夏のディナーコース「IMUA(イムア)」では、クロマグロの「ポケ」にキャビアを添えたり、熟成鴨をハワイ名物「フリフリ」スタイルで焼き上げたりと、ハワイの伝統料理と洗練されたフレンチの技法が交差する。

最高級のブラックモア和牛のステーキでは、端肉を塩麹マリネや牛脂のフライドライス、ダンプリングへと変貌させてサイドディッシュに仕立てるなど、ゼロ・ウェイストの精神が息づく。
また、同店はシンガポールで4店しかない「ドン ペリニヨン ソサエティ」のメンバーであり、約800種、約2,000本の希少なワインがセラーに並ぶのも特長だ。料理に合わせて「ドン ペリニヨン2015」や、「ドメーヌ・ド・カンブ(2017年)」、希少なポートワイン「コプケ コルヘイタ(1978年)」などが供され、至福のひとときを約束してくれる。
3. 古典技法が光る芸術的なモダン中華「藝 by Jereme Leung」

人口の約75%を中華系が占めるシンガポールは、言わずと知れたハイレベルな中国料理の美食都市だ。その実力を証明してくれるのが、現代中国料理界のマスターシェフ、ジェレーム・レオン氏が率いるコンテンポラリー中華「藝 by Jereme Leung(イー・バイ・ジェレーム・レオン)」である。

店名の「yì」は中国語で「芸術」「クラフト」を意味する。広東料理の伝統的な定番から中国古来の美味まで、多彩な地方料理を現代風にアレンジし、アーティスティックなプレゼンテーションで振る舞う。
(左)つぶ貝ときゅうりの前菜
(右)魚の浮き袋やキノコを煮込み、ココナッツの殻を器にしたスープ
例えば、薄くスライスしたきゅうりを何重にも連なるリング状の塔のように立体的に盛り付け、つぶ貝とピリッと爽やかな自家製特製醤油ビネグレットソースで味わう冷菜は、見た目も味も芸術的。

上質な特製醤油で高級魚をふっくらと蒸し上げ、広東料理の王道を示す「ハタの蒸し物」はシンプルながら、その火入れや魚の処理に技術の高さが光る。

シグネチャーの「鴨の黄金ロースト」は、中国雲南省産の手搾り薔薇の花エキスを用いた、自家製の発酵豆ソースでいただく。味覚のみならず視覚でも楽しめる洗練された美食体験は、まさに芸術鑑賞のような感動をもたらしてくれる。
4. 1892年創業、シンガポール最古の北インド料理レストラン「Tiffin Room」

中華系に次いでインド系ルーツの人々も多く暮らす、多民族国家シンガポール。その歴史の面影を色濃く残しているのが、本館に店を構える1892年創業の「Tiffin Room(ティフィン・ルーム)」だ。シンガポール最古の北インド料理レストランとして、1世紀以上にわたり愛され続けている。

ここでぜひ味わいたいのが、ヒンディー語で「私の箱」を意味するセット「メーラ・ダッバ(Mera Dabba)」だ。インドの伝統的な銅製弁当箱「ティフィンボックス」にカレー、バスマティライス、タンドリーパン、チャツネやピクルスが美しく詰め込まれて提供される。
(左)パニプリ
(右)ジンガ ケバブ
カルダモンとインド産スパイスでマリネした車海老の串焼き「ジンガ ケバブ(マンゴーサルサ添え)」など、巨大なタンドール窯で焼き上げる料理も注文必至だ。

また、こちらは宿泊者専用の朝食会場にもなっており、セミブッフェを楽しめる。メインの人気は、シンガポール名物のカヤトーストやラクサ、ナシレマ、シグネチャーオムレツだ。
5. 壮麗なビクトリア様式の柱が並ぶコロニアル空間「The Grand Lobby」

「ラッフルズ」ならではの歴史ある優美な世界観に浸るなら、「The Grand Lobby」へ。床から天井まで続く壮麗なビクトリア様式の柱に囲まれ、1853年製の歴史ある大きな置時計やアンティークのオルゴールといった調度品に彩られ、紳士淑女気分を満喫できる。

おすすめは英国発祥の慣習を、ホテルの創設者であるサーキーズ兄弟がアジアへ持ち込み、このロビーで提供したことに始まるアフタヌーンティーだ。定番のクラシックなサンドイッチ、自家製スコーン、ケーキ、季節のスイーツを、「JING」のシングルガーデン・リーフティーまたはラッフルズ特製ブレンドコーヒーとともに味わえる。

アフタヌーンティーだけでなく、自家製パンやペストリー、卵料理などのアラカルトメニューもあり、朝食もビジター利用ができる。
6. シンガポール・スリング発祥の歴史的バー「Long Bar」

「ラッフルズ」で忘れてはならない場所と言えば、シンガポール・スリング発祥の地として知られる「Long Bar(ロング・バー)」だ。

1900年代初頭、女性が公共の場でアルコールを飲むことがエチケット違反とされていた時代に、中国海南島出身のバーテンダー、ニャン・トン・ブーン氏が、フルーツジュースに見せかけてジンやリキュールを使い「シンガポール・スリング」を作り上げたのが始まりだ。現在は伝統のレシピを守りつつ、地元シンガポール産の「ブラス・ライオン・シンガプーラ・ジン」をベースに、最高級のクラフト素材を使用して洗練された味わいに進化。さらに、2026年6月にはタンカレー0.0%をベースにした「シンガポール・スリング・ゼロ」も登場した。

そして、サービスのピーナッツの殻をそのまま床に投げ捨てるというのも、同店の伝統だ。ポイ捨てへの罰則が厳しいシンガポールにおいて、唯一ポイ捨て歓迎のスポットでもある。
7. ラッフルズゆかりの文豪たちに思いをはせる「Writers Bar」

「ラッフルズ」は、サマセット・モームやラドヤード・キプリング、パブロ・ネルーダといった数々の著名な文豪たちが滞在したことでも知られる。そんな文豪たちへのオマージュとして2019年に本館エントランス横でリニューアルオープンしたのが「Writers Bar(ライターズ・バー)」だ。

ヘッドバーテンダーのニコラス・アレキサンダー氏によるクラフトカクテルは、ラッフルズの滞在制作プログラム「ライター・イン・レジデンス」で選ばれる作家の作品や、文豪の個性にインスピレーションを得て作り上げられている。文学と美酒が交差する、大人の知的好奇心を満たす一杯に出合えるはずだ。
8. ハッピーアワーも! 緑豊かな都会のオアシス「Raffles Courtyard」

南国特有の心地よい空気を肌で満喫するなら、白亜のコロニアル建築に抱かれた屋外バー&ラウンジ「Raffles Courtyard(ラッフルズ・コートヤード)」へ。都会の喧騒を忘れさせる緑豊かな中庭で、ジューシーな蟹肉を用いたシンガポール・チリ・クラブケーキをはじめとする、本格的な東南アジアの小皿料理を味わえる。
おすすめは、午後3時から午後10時まで実施されているハッピーアワー。カクテルやワインなどを1杯14シンガポールドルから楽しむことができる、お得なサービスだ。さらに水曜日は厳選ワインが12シンガポールドルになる「ワイン・ウェンズデー」も開催されている。心地よい夜風に吹かれながら、テキーラをブレンドした爽やかな特製カクテルやモクテルを片手に、一日の終わりに優雅な乾杯を叶えたい。

「RAFFLES STANDS FOR ALL THE FABLES OF THE EXOTIC EAST.(ラッフルズは、異国情緒あふれる東洋のあらゆる寓話を体現している)」。かつて滞在した文豪サマセット・モームは、この場所をそう讃えた。ホテルという枠を超え、国の歴史や文化そのものが息づく「ラッフルズ」の真髄を、ダイニング体験を通して味わってみてはいかがだろうか。
ラッフルズ・ホテル・シンガポール
住所/1 Beach Road, Singapore 189673
TEL/+65 6287 1111
URL/www.raffles.com/ja/singapore/
取材協力:ラッフルズ・ホテル・シンガポール
Photos & Text: Riho Nakamori
Profile
















