世界の見方を変えた写真家、森山大道の一大回顧展が「KYOTOGRAPHIE」で開催 | Numero TOKYO
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世界の見方を変えた写真家、森山大道の一大回顧展が「KYOTOGRAPHIE」で開催

写真史に刻まれたその名前が、私たちに“いかに見るか”を問いかける。“アレ・ブレ・ボケ”と評される作風の衝撃、写真集など表現のあり方に至るまで。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」――機運高まる展示に向けて、伝説を追う。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年5月号掲載)

「プリティ・ウーマン」シリーズより  2017年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
「プリティ・ウーマン」シリーズより 2017年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

「アクシデント」シリーズより  1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
「アクシデント」シリーズより 1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

写真集『狩人』より  1967年、神奈川 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『狩人』より 1967年、神奈川 © Daido Moriyama Photo Foundation

「美しい写真の作り方・6 下高井戸のタイツ」シリーズより  1987年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
「美しい写真の作り方・6 下高井戸のタイツ」シリーズより 1987年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

『プロヴォーク』第2号より  1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
『プロヴォーク』第2号より 1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

写真集『光と影』より  1982年、神奈川・横浜 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『光と影』より 1982年、神奈川・横浜 © Daido Moriyama Photo Foundation

写真集『にっぽん劇場写真帖』より  1965年、神奈川・横須賀 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『にっぽん劇場写真帖』より 1965年、神奈川・横須賀 © Daido Moriyama Photo Foundation

「写真があって本当によかった」森山大道、その軌跡と現在地

各国を席巻し、イギリスで「年間最優秀写真展」(ガーディアン紙)に選ばれた一大回顧展がいよいよ上陸。雑誌や写真集が物語る革新性、熱狂を呼ぶその理由とは?写真家本人&キュレーターのコメントをもとに考えていく。

印刷メディアに着目し、世界を席巻した大回顧展

写真集『にっぽん劇場写真帖』より 1966年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『にっぽん劇場写真帖』より 1966年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

森山大道がいなければ、私たちの写真の見方、さらに世界の見え方も違っていたかもしれない。そう思わせるほどに、彼の写真は革新的だ。そんな世界最高峰の一人に数えられる写真家の60年に及ぶキャリアをたどる「森山大道:A Retrospective」(Presented by Sigma)が「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」にて開催される。22年にブラジル・サンパウロで開幕し、イギリス・ロンドンなど世界7都市を巡回してきた本展の京都版が、特別にデザインされた空間で展開されるという。

本展の最大の特徴は、森山作品の核心として雑誌や写真集などの印刷出版物に焦点を当てていること。その理由を、展覧会企画者であるモレイラ・サレス研究所(ブラジル)のキュレーター、チアゴ・ノゲイラは次のように説明する。「森山は写真を雑誌やテレビ、報道といったマスメディアのなかで複製され、流通する媒体として受け止めた世代の一人です。この世代のエネルギーは、編集者やデザイナーといった関係者を含む出版界と結び付いていました。写真家たちの心臓部は印刷メディアにあったのです」

戦後から1970年代にかけて読者層を拡大したカメラ雑誌は、プロ・アマ問わず作品を掲載する目標となっており、当時の日本の写真家たちにとっての主戦場だった。60年代中頃に雑誌デビューを果たした森山は、当時を次のように振り返る。

「僕が写真を始めた頃、日本には多くのカメラ雑誌があり、有名な写真家の作品が掲載されていました。自分の写真もそこに載せたいと思ったことが、写真を撮り始めたきっかけです」

写真作品は時には発行部数が数十万部にも達するような刊行物に掲載され、幅広い読者がそれを楽しんできたが、それは「西洋写真の伝統とは異なる、非常に特別な文脈」であるとノゲイラは指摘する。欧米において写真家が目指す到達点は、美術館に飾られることだからだ。

森山の印刷メディアへのこだわりは現在に至るまで変わることはなく、72年から出版してきた個人写真誌『記録』は、今年発行の最新号で第62号を数える。

「僕はそもそも、写真は印刷されるべきものだと考えているので、雑誌であれ写真集であれ、撮った写真を出版するということはとても大切なことなんです」(森山)

挑戦し続ける写真家・森山大道の軌跡

『プロヴォーク』第3号より  1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
『プロヴォーク』第3号より 1969年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

森山の作品スタイルが醸成されていく過程で、大きな役割を果たしていたのがまさに印刷メディアだった。例えば、象徴的な“アレ・ブレ・ボケ”の作品スタイルは「思想のための挑発的資料」を標榜する同人誌『プロヴォーク』第3号(72年)での野心的な試みにより確立したといわれる。スーパーマーケットに商品パッケージが並ぶ写真は、アンディ・ウォーホルによる“スープ缶”の作品を連想させるが、強い粒状感によるアレ、手ブレやアウトフォーカスによるボケをあえて採用したハイコントラストなイメージは不穏な雰囲気を醸し出し、社会に対する批判的視点が表れている。

写真集『狩人』より『三沢の犬』  1967年、青森 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『狩人』より『三沢の犬』 1967年、青森 © Daido Moriyama Photo Foundation

また、一貫してストリートでの撮影にこだわってきた理由について「僕が魅力的だと思うものはすべて街にある、路上にあると考えているからです」と語る森山。彼に大きな影響を与えたのが、ジャック・ケルアックの小説『路上』だった。雑誌『カメラ毎日』では国道を走る車中から撮影したポートフォリオ群を発表し、『アサヒカメラ』では旅先での刹那を切り取った「何かへの旅」を連載。これらの作品を名編集者・山岸章二と共にまとめた写真集『狩人』(72年)には、“さまよえる写真家の自画像”として幾度となく参照されてきた『三沢の犬』も収められている。

そして、最も大きなターニングポイントといえるのが、72年刊行の写真集『写真よさようなら』だろう。

「写真とは何か? と漠然と考えたときに、何が写っていても写真は写真じゃないか? と自分なりに考えて作ったのがこの写真集です。一度写真というものを解体してみようと思ったわけです」(森山)

失敗とみなされてきたようなネガやフィルムの端を集めた本書は、何が写っているのかもわからない破滅的なイメージで埋め尽くされている。この作品で森山は、現実をそのまま写し取り、無限に複製可能な写真の性質を突き詰めることで、真のリアリティを追求したといえるだろう。

没入感あふれる三次元展示で、写真活動の全体像に迫る

写真集『にっぽん劇場写真帖』より  1966年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『にっぽん劇場写真帖』より 1966年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

森山作品に初めて出合ったときのとまどいを「写真や写真集を見てもまったく理解することができなかったことが、リサーチを始めた理由でした」と告白するノゲイラ。印刷メディアを重視する日本特有の写真文化のなかで独自の表現を追求した森山の写真は、西洋の側から見れば一層不可解で、ゆえに衝撃的でもあるという。海外での熱狂といえるほどの森山人気が衰えないのもそのためだろう。またこれが日本人写真家への注目度を高める契機となっていることも確かだ。

写真集『サン・ルゥへの手紙』より 1990年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation
写真集『サン・ルゥへの手紙』より 1990年、東京 © Daido Moriyama Photo Foundation

本展では他にも、寺山修司との共作で森山の出世作ともなった写真集『にっぽん劇場写真帖』(68年)や、ロバート・F・ケネディ暗殺事件をきっかけに報道写真やセンセーショナリズムに疑問を投げかけた「アクシデント」(69年)、雑誌『写真時代』で81年から連載を開始し、スランプからの復活を遂げた「光と影」、カラーおよびモノクロで路上や広告の中の女性を捉えた「プリティ・ウーマン」(16~17年)などのシリーズが出品され、変化し続ける作家の全体像が提示される。

そして、工夫が凝らされた展示の手法についても要注目だ。展示室は写真集や雑誌などのまとまりで区切られるが、ページを平面に展開するように写真作品が壁面を覆い、その実物の書籍や印刷物も同じ展示室内で紹介されるという。質・量ともに圧倒的な森山の作品世界が三次元空間として構築されるのだから、期待は高まるばかりだ。

最後に、写真に対する現在の心境を「写真があって本当によかったと思っています」と語ってくれた森山。フィールドとしてきた東京・新宿で、今も徘徊しつつ写真を撮り続けているという。

 

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」
美術館や、寺、町家など京都の街を会場に毎年行われる、日本を代表する国際写真フェスティバル。第14回となる今年のテーマは「EDGE」。「森山大道:A Retrospective」(Presented by Sigma)は、メインプログラムの一つとして京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階で開催される。チケット情報、開館日などの詳細や最新情報はサイトを参照のこと。

会期/4月18日(土)~5月17日(日)
会場/京都市内各所
URL/www.kyotographie.jp/

Text : Akiko Tomita Edit : Keita Fukasawa

Profile

森山 大道 Daido Moriyama 1938年、大阪府生まれ。64年にフリーの写真家として活動開始。67年の日本写真批評家協会新人賞をはじめ、フランス芸術文化勲章シュヴァリエなど受賞多数。サンフランシスコ近代美術館(アメリカ、1999年)、テートモダン(イギリス・ロンドン、2012年)など国内外で大規模個展を開催、日本を代表する写真家として世界的に評価を高める。
www.moriyamadaido.com/
 

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