泡のようなガラスが呼吸しながら増殖していく。「生命」をテーマに据える、ガラス彫刻作家、寺澤季恵の作品は、艶のあるガラスと錆の浮いた金属という異素材の調和が、忘れがたい存在感と美しさを漂わす。ガラスという素材でどのように作品へと昇華させていくのか。石川県金沢市のアトリエにて、濃密なコンセプトや素材選びの意外な動機を聞いた。

思考の中でテーマを掴む
──心臓をモチーフとした代表作『Heart Beat』シリーズの着想源は?
「呼気で膨らむガラスの動きが自分の心臓、身体とつながっているように感じたことがインスピレーションになっています。そこから徐々に朽ちていく、腐りかけた果実の様子に重ね、生命には終わりがあることを表現しています」
──一見、ブドウのようですが、よく見ると生々しさを感じます。純粋な美しさとグロテスク(奇妙な美しさ)が紙一重のような印象を受けました。
「粒や網目といった細かい集合体が多いので、人によっては苦手とされるように思います。血管や心臓といった生々しいものを題材にし、捉え方によってはグロテスクかもしれないし、死や腐敗はマイナスのイメージですが、ガラスという素材自体の美しさによって、そういった題材からも美を見出せるのではないかと考えました」

──1月に東京・Art+Craft Gallery蚕室で開催された個展では、白い作品も発表されていました。何を象徴しているのでしょうか。
「白い心臓の中には赤い核があります。赤い心臓が心臓そのものだとすれば、白い心臓は魂や精神といったものを象徴しています。吹いて膨らませるという行為を繰り返す中で、日常の繰り返しとリンクして、祈りのようなものを感じるようになりました。さらに発展させていくつもりですが、精神のように、形のないものの形を模索していきたいと思っています」

──炎のようにも見える作品のタイトルは「果実」ですが、どんなイメージですか、。
「実在していない空想の果実です。吹きガラスで面白い表現が見つかったと思ってつくりました。この作品を購入いただいた方の一人が、『仏壇に飾る』とおっしゃっていました。生の花だといつか枯れてしまうので、枯れない花ということで置いていただいたのです。その方は、『果実』のモチーフが生命であることはご存じなかったと思うのですが、良い意味で作品が一人歩きすることもあるのだなと感じています」
ガラスの身体性に惹かれて
──どうやってこの表現に行き着いたのでしょう。
「多摩美術大学を卒業した後、ガラスを突き詰めたいという気持ちから富山ガラス造形研究所に入り、そこでコンセプトを固めることに時間を使うようになりました。『自己の存在理由』といった哲学的な命題を追い求めるようになり、そんな思考の中で『生命』というテーマが生まれたのだと思います。心臓の作品を構成しているような赤い泡は、ガラスを始めた時から作っていましたが、作品が本格的に変わったのは、金工ワークショップに参加したのをきっかけに金属を使いはじめた頃です。金属はガラスよりも素直だなと感じ、その違いに魅力を感じました」
──作品の中で金属の役割は?
「もともと廃墟が好きで、剥き出しの配管や錆びた鉄パイプなどの朽ちているイメージをカッコいいと思っていました。それに身体の血液の中には鉄分があり、地中にも水道管などが血管のように埋まっているなど、金属がどこかしら生命のイメージと結びついていることに気づいたのです」

──元々、もの作りには興味があったのでしょうか。
「高校ではデザイン科でしたが、デザインはやっぱりプロダクトなので、作品がどこかの時点で自分の手から離れてしまう。作るなら全て自分で完結させられるものがいいなと思ったこともあり、伝統工芸に興味を持つようになりました。最初は漆がやりたかったのですが、大学の工芸学科で学ぶうちに、ガラスの身体性に惹かれるようになったんです」

──寺澤さんの考えるガラスの身体性とは?
「息で膨らむ吹きガラスなど、作り手の動きに反応する点で、ガラスには身体性があるように感じました。私は昔から柔道や競技一輪車など、スポーツや身体表現をしてきたので、身体の動きに反応して瞬発的なアプローチができるガラスが合っているのだと感じました。漆に比べてスピード感があるのも良かったんでしょうね」
──面白いですね。ご自分の中で伝統工芸とガラスは結びつきましたか。
「そこは結びつかなかったですね。多摩美に入学してガラスを専攻してからは、伝統工芸よりもコンテンポラリーアートの方が自由に創作できるな、と思うようになりました」
ガラスの「不自由さ」という魅力
──多摩美を卒業後、富山ガラス造形研究所へ入所し、その後、卯辰山工芸工房に入られましたが、どういった学びがありましたか。
「ガラスを扱っていると、ガラスがきれいだということを見失いがちだと気づきました。技巧にばかり目がいったり、ガラスらしくないものをつくる中で、ついガラスの美しさを忘れてしまうのです。工房でいろいろなことに挑戦する中で、ガラスをやりたい気持ちが更に大きくなりました。他の工芸を学ぶ中で、ガラスの性質は自分のつくりたいものを実現させてくれることを実感したのです」

──ガラスで制作する上での気づきはありましたか。
「加工する時のガラスは熱くて、陶芸の粘土や木彫の木材などとは違って触れません。コントロールの効かない部分がありますし、熱を帯びている時は、まるで別の生命体のように見えます。ただ私は、コントロールできない部分に惹かれています。私にとっては不自由な素材の方が作りやすく、ままならないガラスの声を聞き、ガラスが『なりたがっている』形と対話するのが楽しい。今の作風に近づいたのは、そのことに気づいてからだと思います。これからもガラスの有限性の中で可能性を追求したいと思います」

──ガラスと対話できるようになったのですね。
「はい。もともと絵を描くなど、手を動かすことが好きだったので、ガラスの技術を教わりながら手を動かしていくことで、素材と対話して共鳴できるようになったのだと思います」
──設計図やラフなどを描いて制作していくのでしょうか。
「一応描くのですが、想定通りになることはないですね。例えばオブジェなどは、ガラスのパーツを生け花のように組み合わせてつくります。バランスを意識してはいますが、それよりも感覚を重視していて狙ってつくるわけではなく、偶発性に任せて創作しています」
Numero CLOSETにて販売中の寺澤季恵の作品。左上から時計回り:ガラス彫刻オブジェ「Heart Beat」¥70,000 ガラス彫刻オブジェ「いちご」各¥22,000 足付きグラス¥20,000〜22,000 ぐい呑みグラス¥14,300
──寺澤さんが作る器は独特の造形です。オブジェを制作するのとどう意識は違いますか。
「器はプロダクトデザインですし、使う人のことが頭に浮かびます。もともと吹きガラスは器のために生まれたのだと思いますし、器をつくるのは好きでなので、グラスも使える彫刻という感覚でつくっています。でも一方では、器でも『何かしたい』という気持ちがあるので、個性のある作品を制作していきたいですね」

──これからどんな作品を作り、どんなことに挑戦したいですか。
「いろいろあるのですが、西洋美術において生の儚さの寓意であるヴァニタス画(16〜17世紀の髑髏、朽ちる花などをモチーフにした静物画)からインスパイアされた新作なども考えています。最近は小さいものをつくっていたので、大きめサイズのものを作りたいですね。1月に東京都調布市の深大寺北町にある数寄屋造りの玄趣庵に展示していたのですが、自分の作品が和室の空間の力に負けておらず、ホワイトキューブでない場所にあっても大丈夫なんだと実感しました。今後は空間と対話した作品もつくってみたいと思っています。でも『生命』をテーマにして作品をつくることには変わらないでしょうね」
Photos:Eri Kawamura Text:Akiko Nakano Interview&Edit:Masumi Sasaki










