話題作への出演が相次ぐなか、俳優・土居志央梨は立ち止まり、考えることをやめない。NHK連続テレビ小説『虎に翼』で演じた山田よね役では、役を決めつけないことで、凛とした存在感を生み出した。バレエで培った身体性と、思考を止めない姿勢を携え、彼女はいまも余白のある表現を模索し続けている。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)

何にでもなれる余白を、手放さない
──NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期)で、男装の女性弁護士・山田よねを演じました。ヒロイン寅子の同級生であり、生涯のソウルメイトとして多くの視聴者に愛されたキャラクターです。
「よねは最初、共感できるキャラクターではなかったんです。3週目で過去が描かれるまでは、なんでこんなに怒っているんだろう、ただ当たり散らしているだけの乱暴な人だったらどうしようと戸惑いました。でも台本を読んで、根はただただ情熱のある真面目な人で、不器用な形で外に出てしまっているだけなんだとわかってからは、『普通の人じゃん』って。親からひどい扱いを受けて、ちゃんとしたコミュニケーションを知らないだけの人。そう理解してからは、すごくやりやすくなりましたし、脚本家の吉田恵里香さんが本当に身を削って書いてくれていることを感じました」
──土居さんが役作りで大切にしていることは何ですか。
「現場でほかの役者さんと実際にお芝居したときにどう感じるかがいちばん大事なので、余白を残すようにしています。よねは笑わないキャラでしたが、そう決めて入ったわけではなく、対峙していて怒りが湧き上がって、結果そうなっただけ。歩き方や姿勢も決めない。よねの凛とした姿勢も、舐められないように、負けないようにと感じたから自然とそうなっていきました」
──最終週の、裁判官が15人居並ぶ最高裁大法廷で、尊属殺重罰規定の違憲を訴える長い弁論は圧巻でした。
「あの弁論には実際にモデルの方がいらっしゃって、ほぼ同じ言葉をしゃべっているんです。しかもクランクアップの日で、1年間やってきた最後でした。いろんな思いがありすぎて、集中しているのに気持ちがたかぶり、落ち着かないと、と必死で。エキストラの方が息を呑む音とか大きなセットで自分の声が響くのとか、すべて鮮明に覚えています。あの場面をやれたことで、めちゃくちゃ強くなれた気がします」
──よねさんと轟(戸塚純貴)とのバディも人気でしたね。
「性別関係なく、フラットで対等な関係性の二人に憧れる人は多いだろうなと思います。同性同士でも異性同士でもなく、本当にただの人と人でしかないという感じが、すごくいいんだろうなって」
──3月には、『虎に翼』のスピンオフ『山田轟法律事務所』が放送されますね。
「台本を読んで、ハードだなと思いました。戦時中、よねが寅ちゃんと再会するまでの空白の時間を描いているんですが、私が想像で補っていた部分が明確に言葉で書かれていて、こんな経験をしていたのかと。本編の撮影から期間が空いたこともあり、撮影中は体調を崩してしまって。あのときの感覚に急に戻したから体がついていかなかったんだと思います。それだけ大変な役なんだなとあらためて感じました」
──『虎に翼』の共演者の方々はどんな存在ですか。
「仲間、同志ですね。ある時期一緒に戦っていた人たちだから、全部話さなくてもわかってくれる何かがある。(伊藤)沙莉さんは最後まで本当にすごいなと思いました。若手からベテランまでたくさんいる中で、1年間パワフルに現場を引っ張って。沙莉さん、森田望智さんとは昨年もクリスマスパーティをしたんですよ。久しぶりに友達ができた現場でした」
逃げた先で芽生えた「楽しい」
──土居さんのお芝居の軸には、バレエを3歳から15年続けた身体能力の高さもあると思います。大学進学を機にやめたそうですね。
「人生でいちばん大きな決断でした。周りから『もったいない』と散々言われましたが、心が本当にもうやれないところまで行っていて。大学に入るのも、お芝居がしたかったわけではなく、普通の生活がしたかったから。半分逃げでした。でも逃げた先でお芝居に出会って、バレエ時代に忘れていた『楽しい』という感情がまた芽生えた。それが今も続いているだけです」
──土居さんにとって“選択”とは。
「決断って大きなジャンプが必要なイメージがあるけど、そんなに大きいことじゃないのかも。違うと思ったらまた戻れるし、何度でも選択すればいい。逃げても、好奇心で動いてもいい。リラックスした心の状態でいることが一番大事で、そのための試行錯誤は何度だっていいと思っています。執着があまりないんですよね。それがいい感じです」
全身で表現する喜び
──「いちばん呼吸できる場所は舞台」とおっしゃっていますね。
「バレエを15年やっていたので、全身で表現することが体に馴染んでいるんです。お客さんの前で何かをやるという状態がいちばん生きている感じがする。映像作品は最近までカメラを前にすると縮こまる感覚があったんですが、やっとそれが取れてきました。2月公演の舞台『黒百合』は見たことのない台本で、ト書きに想像もできないことがいっぱい書いてあって。演出の杉原邦生さんならきっと形にしてくれると思って、好奇心でやりますと言いました」
──Netflix映画『10DANCE』では見事なダンスも披露されています。
「踊っているとやっぱり楽しくて。当時の自分を俯瞰して見ることもできて、頑張っていた自分に対してちょっと答えが出た感じがしました。15年間バレエに捧げてつらかったけど、良かったなって。当時の自分に言葉をかけるとしたら、『頑張ってくれてありがとう』ですね」
──これからどんな表現者でありたいですか?
「面白がってもらえる人がいいですね。常に余白を持って、何にでもなれる状態でいたい。SFが大好きなので、全編グリーンバックとか特殊メイクに8時間かかるような役もやってみたい。限定されない、幅のある役者でいたいです」
──最後に、ご自身のクリエィションでいちばん大事にしていることとは。
「楽をしないことですね。お芝居に正解はないし、書かれてある言葉をしゃべるだけの仕事。だからこそ考え抜いて、何度も疑って、最後まで思考を止めない。仕事を続けていると自分の習慣や癖が出てくるから、それを毎回疑う。めちゃくちゃ考えて、結局最初にやったものとあまり変わらなかったとしても、その過程で何かが変わると思っています」
『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』
放送日時/2026年3月20日(金・祝)21:30〜22:42(72分・全1回)
出演/土居志央梨、戸塚純貴 ほか
URL/https://www.nhk.jp/g/ts/LG372WKPVV/
Photo:Keiichiro Nakajima Fashion Director:Ako Tanaka Hair & Makeup:Toru Sakanishi Interview & Text:Wakako Takoh Fashion Associate:Makoto Matsuoka Edit:Saki Shibata
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