活況を呈する日本のアートシーンで、いま注目のアーティストを紹介する連載。第六回は、古典的な技法を用いて現代の街並みをドラマティックに描き出す画家の森本啓太。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)
“どこにも存在しない風景”から始まる、光と影の物語

夜。光に浮かび上がる都市の情景が、不思議な余韻を湛えてそこに広がる。
「日常の中にふと現れる『見過ごされがちな瞬間』を描いています」と森本啓太はいう。「誰もが知っているはずの風景なのに、どこか現実から少しずれて感じられることがあって、その違和感や余白のなかにある、人の記憶や感情が立ち上がる瞬間に惹かれます」

バロック絵画をはじめとする古典的な絵画技法、エドワード・ホッパーら20世紀初頭のアメリカン・リアリズムに深く関心を寄せながら、夜の街にたたずむ人々、自動販売機や電話ボックスを強い明暗のもとに描き出し、脚光を浴びた。その探求は「時間の流れや気配、沈黙のようなものまで感じられる表現を目指しています」という言葉のとおり、とどまることがない。10~20代をカナダで過ごし、独学で古典的な技法を学んだ目に、日本の街は格好の題材として映っていることだろう。
「虚構と現実の境界が少し曖昧になるようなインスタレーションや立体など、作品の体験そのものを広げていきたい」と意欲をみせる。「見る人それぞれが自分自身の記憶や感情を重ねられるような、開かれた空間を作ることができたらと思っています」
森本啓太の作品から放たれた静かな光が、一人一人の心へと浸透し、さらなる感傷をかき立てていく。
Select & Text : Keita Fukasawa Edit:Miyu Kadota
