松尾貴史が選ぶ今月の映画『ツーリストファミリー』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『ツーリストファミリー』

スリランカでの困窮を極める生活に見切りをつけて、命がけでインドに密入国した4人の家族。身分を偽り、言葉で素性がバレないように近所との接触を控えながら、新天地での生活を始めるが…。映画『ツーリストファミリー』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)

インドに密入国した家族の運命は

この10年ほど、「海外旅行に行くならどこへ行きたいですか?」という質問には必ず「スリランカか南インド」と答えている私です。下北沢でカレー店を営んでいる身として、かの地域のカレーやビリヤニ、スパイス料理を食いまくりたいという野望が燃え続けています。

北インドも好きですが、ニューデリーの料理学校に超短期留学をして、「次は南だ」と心に決めているのです。北インドは小麦粉が主食になる場合が多いのですが、南インドはバスマティライスなど米食文化なので、カレーライスが大好きな私には憧れの地域なのです。スリランカも同じくカレーとライスの組み合わせの国なので、馴染み深いのです。スリランカのスパイスは、トゥナパハというローステッドスパイスが香り高く、毎日食べても飽きないものです、個人的な意見ですが。

スリランカの首都は? と聞かれて即答できる人はどれくらいの割合いるでしょうか。「スリジャヤワルダナプラコッテ」が正解です。今は落ち着いていますが、内乱のせいで長い間、国内の経済が低迷していました。

この映画に出てくる家族も、そうした困難な状況の中、非合法的に難民としてインドのタミルナードゥ州に辿り着き、棲家を得ます。今、アメリカでも日本でも国のリーダーによる外国人に対する誤解が広められています。世界中で排外主義が台頭し、「他所から来た人たち」に対する風当たりが強くなっていますが、この家族の運命はいかに進んでいくのでしょうか。

もちろん、難民であることは秘密にしなければなりません。特に、言葉の違いを近所の人たち相手に、どう誤魔化していくのかも見せ場のひとつです。

作品全体に、心にポッと火が灯るような優しさ、温かさが充満しています。深刻で困窮する一家ですが、なぜか絶望の臭いはなく、どこかユーモラスに切り抜けていくのではないかと思わせてくれるムードを纏っています。

シリアスなテーマではありますが、日常の出来事がうまく構成されていて、癒やしと笑いを提供してくれています。子役のこまっしゃくれたキャラクターも、どこか憎めず、時に一休さんを思わせる難問解決の妙を見せてくれるのも面白いところです。

他者への思いやりや助け合うことの重要さを形にして見せてくれるのですが、まったく説教くさい味付けにならず、差別や偏見の愚かしさを際立たせています。

もちろんインド映画ならではの踊りのシーンは過不足なく取り入れられています。無意味に脈絡なく踊るのではなく、踊らざるを得ない頓知の効いた演出も心憎いところです。主要な登場人物の人格設定が巧妙で、ついつい肩入れしてしまうのも一興です。

『ツーリストファミリー』

監督・脚本/アビシャン・ジーヴィント 
出演/シャシクマール、シムラン、ヨーギ・バーブ
全国公開中
https://spaceboxjapan.jp/touristfamily/

©Million Dollar Studios ©MRP Entertainment

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史 Takashi Matsuo 俳優、タレント、創作折り紙「折り顔」作家など、さまざまな分野で活躍中。毎日新聞のコラムの書籍化第6弾『違和感気質』が3月末に発売。5・6月、東京・北海道・大阪にてミュージカル『アイ・ラブ・坊っちゃん』に出演予定。カカレー店「パンニャ」店主。@Kitsch_Matsuo
 

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