活況を呈する日本のアートシーンで、いま注目のアーティストを紹介する連載。第三回は、仏教に魅せられ、身近なモチーフから再解釈する彫刻家の長谷川寛示。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載)
現代における“聖域の境界”を求めて

言葉を超えた感覚に触れるとき、人は新しい視点を得る。長谷川寛示の彫刻は、その瞬間を形にしようとする。仏教に「自分の身に引き付けて考える生活の哲学」を感じ、大学院修了後に永平寺で修行を積み僧侶となった長谷川。修行僧時代に「常花」と呼ばれる蓮の花を象った仏具を手入れしているとき、それが“聖域の境界”を示すものだと耳にし疑問が湧いた。それは自身の考える仏教にとって本当に必要なものなのか、と。
「儀礼的に境界を示すシンボルではなく、むしろ各人が境界とは何かを考えるための彫刻が必要だと感じ、現在のような作品の制作を始めました」

還俗後は木彫や陶器などを素材に、時間や視点をずらす表現を探究している。
「彫刻を介した非言語のコミュニケーションに興味があります。社会における常識や価値観は彫刻より寿命が短い。作品を通じて、普段とは異なる時間の流れや視点を感じてもらえたらと思います」

そう語る彼が選ぶのは、ゲーム機のコントローラーや靴、空き瓶、植物など身近なモチーフ。誰もが知る対象だからこそ意味が変わる面白さがある。
「制作や鑑賞を通して自身の内側に起こる変化を共有することに作家としての意義を感じています」
Select & Text:Asuka Kawanabe Edit:Miyu Kadota
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