一枚の絵画に描かれているオブジェクト、人物、その構図や風景。そこに込められた作者からの秘密のメッセージ。小さな空間に編集された果てなき思考と想像の世界へご案内。第6回は薄久保香。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)
※小誌オンラインストア『Numero CLOSET』にて掲載作家の作品を一部取り扱い中。

意識の「外」にあるものを描く
画面に視線を察知され、応答するように手を動かしていく。作家は絵を生み出す過程を知っているはずだが、振り返ると意識の外にある「なにか」に導かれていると気づくときがある。薄久保香は、そのような「描く」という動作や意識の外にある、コントロールできないものを写真、CG、油彩と3つの制作行程を経る独自の手法で描こうと試みるアーティストだ。

『the third path』は、そうした絵画制作において表れる偶然性や神秘性を一つの欠かせない動力として捉え、名もなく潜在する「場」へと描く行為を差し戻す。一方、静物画のシリーズ作品『Forgotten Verses 柚子と酢橘』では、置き去りにされた日用品や果実、偶然にも作家自らのもとに巡ってきたものなどをモチーフに、誰かの手や、時間や場所、人の記憶や意識からもこぼれ落ちたものを描く。それは「忘れられた」記憶を撫でるような、触れることのできないものに線や輪郭を与えていく行為なのかもしれない。
Text:Akane Naniwa Edit&Text:Masumi Sasaki
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