一枚の絵画に描かれているオブジェクト、人物、その構図や風景。そこに込められた作者からの秘密のメッセージ。小さな空間に編集された果てなき思考と想像の世界へご案内。第5回は吉田紳平。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)
※小誌オンラインストア『Numero CLOSET』にて掲載作家の作品を一部取り扱い中。

見知らぬ家族の情景を今際の祖母の目線と重ねる
絵を描く楽しさを母親から教わり、幼少時から一緒にスケッチをしていた吉田紳平にとって、描画は身近で自然な行為だったという。一時期は描く目的や動機を見失うが、祖母の死にまつわる経験から「ひとが他者へ向ける親密さとそのまなざしのあり方」を問い始める。
以来、今際にある祖母が人生の最期に見た景色としての吉田と祖母との距離感が重なる、穏やかな色彩と曖昧な輪郭の画風となる。その後、ドイツ滞在時にフリーマーケットで見つけた古いファミリーアルバムから着想を得て架空の家族のありふれた日常を描くことで、彼らの人生や歴史を作品化するシリーズを継続して発表している。

描いているのは家族の父親が見た風景で、寝室で就寝の挨拶をしたときにこちらを振り向く娘の顔や、数年後にその娘がとった無意識の手の動作の1コマなど、数十年にわたる家族史のワンシーンをランダムに採用。作品を見る者は、家族の何げない時間や親密さを父親のまなざしで追体験することになる。吉田の「過去に存在した人々を包んでいた空気や、自分が理由もなく惹かれるものを伝えたい」という深い思いは、全ての制作行為に共通している。
Text:Akiko Nakano Edit & Text: Masumi Sasaki
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