今年、新曲「Mood Board」で大きな話題を呼んだミュージシャンの歌代ニーナ。雑誌編集者、モデル、スタイリストなどさまざまなキャリアを持つ彼女は、音楽だけでなくファッションやヘアメイクほか、あらゆる面から自身の世界観をストイックなまでに作り込む。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)

一言で言語化する
左:Marni 2025SS 右:Mukcyen 2026SS
──エディトリアルやファッションなどさまざまな表現を経て、現在は音楽を中心に活動していますが、どのように“自己編集”していますか。
「キャリアの起点が雑誌編集なので、音楽制作もエディトリアル思考です。EPは雑誌の『号』のようにコンセプトを決めて、そこからファッションストーリーのように曲を組み立てます。スタッフィングも雑誌と同じように『このストーリーは透明感が欲しいからこの人にお願いしよう』と、全てがその感覚なんですね。
今の時代、音楽性だけではなく、MV、ステージ演出、グッズ制作、SNSなど、アーティスト本人が全てのクリエイティブディレクションを担う必要があります。ビヨンセなど世界のポップアイコンはすでに実行しているし、アーティスト性が明確だからこそ、長年ファンに支持されている。そうなるためには『自分は何を売っているのか』を一言で言語化して、チーム全体が共有する必要があります。まずは自分の独自性を徹底的に見つめる作業です」


──“自分らしさ”ということですか。
「よくそう言われますが、実際『自分にあって他人にないもの』ってそんなに多くないですよね。でも、自分は何がスペシャルなのかを理解していれば、それをパッケージするのはそんなに難しいことじゃない。それが『ブランディング』だと思います。『ターゲティング』じゃない。誰かに共感してもらおうとして表現するのは詐欺だと思うんです。私が好きなアーティストは、自分をさらけ出し、心の叫びをそのまま提示する人。それに共鳴する人が自然と集まってくる。私もそうありたいです」
常に新しい強さを求めて

──今、ご自身のクリエイションの中心にあるのは?
「『強くなりたい』。昨日の自分より強くなる過程を作品で見せています。1stEP『OPERETTA HYSTERIA』では、ヒステリック性から脱却する過程を公開する『強さ』。根底にあるのはいつも『強さは素晴らしい』というシンプルな信念です。私は『人間らしさ』よりも『超える』ことに興味があります。強さを求めると孤独や誤解を背負うことになるし、結局いつか人は死ぬ。それでも強さを選びたい。それを時代に合った形で落とし込むのが私の表現です。ファッションや音楽もそのためのツール。私のファンの皆さんは、その根底の部分に共鳴してくれるんだと思います」


──それに気づいたきっかけは?
「幼い頃から。いつだって世界は最悪で、誰も助けてくれないなら、攻撃されないぐらい強くなるしかない。これをちゃんと言語化できたのは7年ほど前。それ以来、誰に嫌われてもいいから、自分自身を裏切らないと決めています。自分の“記憶”に汚点を残さない潔癖さで、決めたことは完遂する。ダイエットでもダンスの練習でも、他者からの称賛よりも自己達成のほうが圧倒的に気持ちいい。スタイリッシュでスマートであることも、私にとっては『強さ』の一つ。
ただ、強さの定義は常に変化していて、最近は母性の包容力とすごみと、いつの間にか人を懐柔するようなユーモアの強さにも興味があります。友達になりたくなるような魅力も強さだと思う。今はそんな新しい強さを手に入れるフェーズなのかもしれません」
『Mood Board』
『mood:bored』
『The Devil Wears Dior』
Interview & Text:Miki Hayashi Edit:Mariko Kimbara
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