紅茶のように、丁寧に。小林直己が見つめる“美しさ”と15年の軌跡 | Numero TOKYO
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紅茶のように、丁寧に。小林直己が見つめる“美しさ”と15年の軌跡

紅茶を淹れる時間は、小林直己にとって自分を整え、感覚を研ぎ澄ますための大切なひとときだ。紅茶文化の未来を照らす「THE TEAIST AWARD」の初代受賞者に選ばれ、また三代目 J SOUL BROTHERSが15周年という節目を迎えたいま、紅茶とともに育んできた“美しく生きる”という価値観と、これからの挑戦について語ってくれた。

丁寧に紅茶と向き合う時間が、日々の中で自然と
頭を切り替えるスイッチになっている気がします

──あらためて、「THE TEAIST AWARD」の受賞おめでとうございます。“紅茶文化の発展に寄与し、人々の暮らしを豊かにしてきた人物”として選ばれたことを、いまどのような気持ちで受け止めていらっしゃいますか?

「豊かにできていたら嬉しいですね。僕自身、紅茶と出会ったことで“豊かに過ごすこと”の大切さに気づかされたんです。最初はただ好きで飲みはじめただけで。でも、続けていくうちに、そこから受け取るものが本当にたくさんあると感じるようになって。紅茶を淹れる時間は、自然とスマートフォンを置く時間になります。たった5分の抽出時間なのに、何もしないでスマホを置く5分って、実は意外と難しいですよね。でも、紅茶を見ていると、茶葉がゆっくりと開いていく様子がとても美しくて、そこに香りがふわっと立ち上がって、部屋の空気まで変わっていく。そうすると自然と、自分自身の感覚に意識が向いていくんです。そんなふうに、僕が紅茶を通して感じているささやかな楽しさや豊かさが、誰かに届いていたとしたら——。今回の受賞のメッセージと、どこかで共通するものがあったら嬉しいなと思っています」

──紅茶に目覚めたきっかけは、ご友人から贈られた茶葉だったと伺いました。そのときに飲んだ紅茶のフレーバーは、今でも覚えていますか?

「アールグレイだったと思います」

──それは、それまでに体験してきた紅茶とは、まったく違うものだった?

「こんなに香りを強く意識した紅茶の体験は、それまでなかったと思います。当時はどちらかというとコーヒーを飲むことのほうが多くて、紅茶もティーバッグで手軽に飲んだり、お店で注文したりする程度でした。でも、その一杯は、そうした今までの紅茶のイメージとは少し違っていて。『あっ、これは別のものなんだ』と感じたのを覚えています。もう、数年前のことになりますが、あの体験が紅茶に向き合うきっかけでしたね」

──忙しいアーティスト活動の中で、あえて立ち止まる時間としてのティータイムはどんな意味を持ちますか?

「そうですね。日常に寄り添う存在という意味では、本当にいろいろな場面で紅茶を飲んでいます。朝起きたときや食事のときはもちろん、リハーサルの日もそうですね。『今日は長いリハになりそうだな』と思うと、紅茶を持って行ったり、途中で買ったりして、ちょっとした気分転換にしています。
あとは、忙しいなと感じるときは、スイーツと一緒に前から飲みたいと思っていた紅茶を選びます。家には、いわば“積み紅茶”の缶がたくさんあって(笑)。その中から気になっていたものを取り出して、ポットでゆっくり淹れてみる。そうやって丁寧に紅茶と向き合う時間が、日々の中で自然と頭を切り替えるスイッチになっている気がします」

──ご自宅には、どれくらいの種類があるんですか?

「今は、かなりありますね。取材などで紅茶についてお話しするようになってから、いただく機会も増えて。ちょうど昨日、家で紅茶を整理していたのですが、『これ、どのくらいあるんだろう!?』と自分でも驚きました。種類でいえば、40種類は超えているのかな」

──そんなにあるんですね! すべて、どこにあるか把握されているんですか?

「種類ごとには把握していますね。アールグレイだけでも、ブランド違いでいくつもありますし。それぞれの香りや個性も違うので。『これはこのブランドのアールグレイ』と、感覚的に覚えている部分も大きいです」

──ちなみに今日帰宅されたら、飲みたい紅茶はもう決めていますか?

「今日は、甘いものを飲みたい気分なので、ストロベリー系にしようかなと思っています」

──すごいですね、洋服を選ぶみたいな感じなのですね!

「それが楽しいんですよ! 紅茶って、たとえばフルーツボウルみたいな感覚に近い気がしていて。フルーツって、いろんな種類を少しずつ食べたくなるじゃないですか。ひとつだけというよりも、その日の気分で食べたくなる。ただ、フレッシュフルーツを揃えるのは意外と大変ですよね。その点、紅茶ならフレーバーとして気軽に楽しめる。朝にパッと目を覚ましたなというときは、少し濃いめに淹れてみたり。抽出時間を少し長めにするだけで、味わいも感じるものも変わってくるので、気分やコンディションに寄り添ってくれるのも、紅茶の魅力だと思います」

──ティーカップにもこだわりがありますか?

「ティーカップは、実はまだそんなに集められていないんです。自分の中では、これからという感じですね。ただ、ガラスのポットとティーカップだけはお気に入りのものがあります。茶葉が開いて、それが立ち上がっていく……お湯を淹れてから変化する、色のグラデーションをちゃんと感じられるものを選んでいます。たとえば、ベリー系の紅茶だと、いわゆる“紅茶色”ではなく、赤みがかった色になることもありますし、ものによっては少しグリーンっぽく見えるものもある。濃いもの、淡いものと、その表情はさまざま。そうした色の違いも楽しめるので、ガラスのポットやカップは、自然と手に取るお気に入りになっています」

──そういう時間が、ご自身の表現や活動のインスピレーションにつながることはありますか? 今年開催された三代目 J SOUL BROTHERS “KINGDOM”のLIVE TOURで、紅茶パフォーマンスの演出もありましたね。

「舞台演出を考えるときにも、『ここで、こんな香りが立ち上がってきたらいいのに』と紅茶を飲みながら想像することもありますね。今年のドーム公演のソロパートの演出は“覚醒”がひとつのテーマでした。あえていろんなダンスを取り入れて、最近あまりやっていなかったような、激しくてエネルギーのいる踊りも組み込みました。それは、自分自身がダンサーとしてもう一段階“目覚める”ような感覚を表現したくて。紅茶を飲んだ瞬間に、ぱっと感覚が開くようなあの感じ――あのイメージと、実はどこか重ねていました。そうした発想は、紅茶を飲みながら、ひとりで考えていたりもしたんです」

“頑張りきるための選択肢”のひとつとして、紅茶がある。
自分を整えながら、無理なく前に進むための大切な存在になっています

──紅茶は気持ちを和らげたり、リセットするという意味合いだけでなく、自分の中の何かを目覚めさせるような……“覚醒”という感覚をもたらすこともあるんですね。

「そうです、感覚を鋭敏にしたりとか。またシンプルに、朝目覚めさせるとか。午後疲れているときに、ちょっと活力を出すためとか」

──そこまで感じられるのは、すごいですね!

「そんなことないです(笑)。逆に、紅茶がすごいと思っています。僕はただ飲んでいるだけで。もともと、あまり切り替えがうまくないタイプだったので、そう言う意味で、キーアイテムとして紅茶というものが自分の人生に加わったのは良かったなと思っています」

──切り替えができなかったときは、帰宅してもずっと仕事のことを考えていた?

「頭から離れなくなったり、夢にまで出てきてしまうこともあります。それ自体は、決して悪いことではないと思うのですが、でもそれだけだと長距離を走り続けられるかと言われると、僕自身はそうではなかったという経験もあって。だから、『このプロジェクトを最後までやり切るためにはどうしたらいいのだろう』と考えたときに、自分を追い込みすぎるだけじゃなくて、ちゃんと甘やかしながら続けていく方法も必要なんだなと気づきました。その“頑張りきるための選択肢”のひとつとして、紅茶がある。自分を整えながら、無理なく前に進むための大切な存在になっています」

──紅茶は、温度や蒸らし時間をきちんと管理しないと、本来のおいしさを引き出すことができません。丁寧に淹れてこそ、その魅力が立ち上がるものだと思いますが、「丁寧に生きる」ということについて、直己さんはどのように感じていらっしゃいますか?

「丁寧に生きることには、すごく共感します。正直に言うと、油断するとすぐに丁寧じゃなくなってしまう性格で(笑)。服の扱い方ひとつにしても、時間を守ることにしても、結局は気持ちに余裕があってこそできることなんだなと感じています。身の回りを整えることも同じですね。以前は、『ちゃんとしなきゃ』と思う気持ちだけが先に立ってしまって、かえってうまくいかないことも多かったのですが、最近はそうではなくて、まず自分がリラックスできる時間を意識的につくることを大切にしています。ひとつでも、そういう時間があると、気持ちが整理されたり、頭がスッとリフレッシュされたりして、結果的にほかのことも自然とうまく動き出す。だからまずは、“ひとつだけ丁寧に”。それだけでも、丁寧な暮らしに一歩近づけている気がします」

──年齢を重ねるごとに、「これは手放してよかった」と感じられる習慣はありますか?

「全部をやろうとする気持ちを、少しずつ手放すようになりました。それはここ数年、2〜3年くらいのことだと思います。もともと欲張りなところもありますし、変に自信家な部分もあって(笑)。周囲から見られているイメージに、自分自身もどこかで寄せてしまっていたところがあったのかもしれません。でも、あるとき、限界はやっぱりあるなと思ったんです。時間にも、能力にも。それに気づけたこと自体は、決して悪いことじゃなかった。人に頼ることや、時間の優先順位をきちんと決めることによって、むしろクオリティが上がるという感覚もありました。だから今は、すべてを自分で抱え込もうとするのではなく、『何を大切にするか』を選ぶこと。そんなふうに、優先順位をつけながら向き合うようになった気がします」

──では逆に、「これは大切にしたい」と思えるものは?

「やっぱり、人とのご縁だと思います。それは、先ほどの話ともつながるのですが、ひとりでできることには限界がありますし、できること・できないことも、どうしても限られてくる。僕自身、不器用なタイプで、正直、できないことのほうが多いと思っています。それでも、周りの皆さんのおかげで、こうした場に立たせていただいている。紅茶が好きだと言い続けてきたことで、人が集まってくれるような環境に身を置かせてもらえていることも、本当にありがたいことだと感じています。だからこれからの目標としては、これまでお世話になってきた方々に、きちんと感謝を伝えること。そして、人の役に立てるようなことを、少しずつでもしていきたい。まだ時間はかかるかもしれませんが、そうした想いを大切にしながら、これからも歩んでいきたいと思っています」

──パフォーマンスはもちろん、ファッションや言葉選びに至るまで、直己さんは常に“美しさ”に対して強い意識を持っていらっしゃるように感じています。先ほどのお話にも通じますが、改めて、ご自身の中で大切にしている“美しさ”とは、どのようなものなのでしょうか。

「改めて振り返ってみると、“美しさ”というキーワードは、自分の中でとても大切にしてきたものなんだなと、今回あらためて感じました。少し重なる部分もありますが、鍛え上げられたものにしか宿らない美しさがある一方で、ナチュラルで、オーガニックな美しさも確かに存在する。その両方に、強い憧れを抱いている気がします。同時に、自分の中に『うまくやりたい』という気持ちがあって、それが絡まりすぎてしまう瞬間があることも、ちゃんと分かっている。一方で、肩の力を抜いたまま、素のままで美しく生きている人たちにも出会ってきました。そういう方々への憧れも、確かにあります。そんな経験を重ねる中で、『自分にしかできないこと』を、自分自身が認めてあげたい。ここ数年で、そう思うようになりました。それらをすべて含めて考えると、歳を重ねること、時間を重ねていくこと自体が、とても美しいことなんだと思うんです。それは結局、自分の“思い次第”なんですよね。美しく生きたいと思うことで、選択が始まる。そして、美しく選ぶ方向を選び続ける人生でありたい。そうやって生きていると、自然と同じ価値観を持った人たちが周りに集まってくる。それが、すごく楽しいなと感じています」

──これからどんな成長を積み重ねていきたいと思っていますか?

「ひとつは、『人の役に立てるような存在でありたい』という思いです。これまでお世話になってきた人たち、そしてこれから出会う人たちにとって、何かを託したくなるような、必要とされる人でいられたらいいなと感じています。もうひとつは、自分自身のこと。ライフステージが変わっていく中でも、どうしても達成したいことや、諦めきれない想いがあって。さらに、新しく出会ったものや経験を通して、『この景色を見てみたい』と思えるような、新たな夢も生まれてきました。だから今は、改めて“夢に挑戦したい”という気持ちが、以前にも増して強くなっています」

──今、どんな景色を見てみたいと感じますか?

「今は、紅茶が好きだという気持ちからはじまって、こうしてアワードという場所にまでたどり着いていることを、あらためて実感しています。だからこそ、自分が想い描いている世界観や、紅茶の文化そのものを、もっときちんと伝えていきたいと思うようになりました。そのひとつとして、オリジナルのフレーバーをつくったり、自分なりの視点で紅茶の楽しみ方を届けていきたいという想いがあります。まずは、そうした小さな一歩から始めていけたらと考えています」

──三代目 J SOUL BROTHERSのメンバーへ、直己さんが紅茶を淹れてあげるなら、どんな茶葉を選びますか?

「以前、差し入れをしたことがあるんですが、そのときは正直、そこまで興味がありそうな反応ではなくて(笑)。ただ、メンバーたちは見た目とは裏腹に、意外とそういうところはすごく自然で。『ちょっとカフェ行くけど、何か買ってくる?』みたいなことをよく言い合ったり、差し入れを共有したりするタイプなんですよね。だから、まずはすごくシンプルなものでいいのかなと思いつつ、それぞれの好みを聞きながら、メンバーごとにオリジナルブレンドをつくれたら面白いなという気持ちがあります。以前にAMAZING COFEEとコラボしてつくった紅茶を、リハーサルのときに差し入れしたことがあって。そのときは、もう本当にがっつり飲んで、あっという間になくなってしまって(笑)。じっくり味わうという感じではなかったんですが、あっという間に飲んでくれたということは、おいしかったんだと思っています(笑)」

──気づけば、2025年も終わりを迎えようとしています。今年は、三代目 J SOUL BROTHERSが15周年を迎えたという大きな節目の年でもありましたが、直己さんにとって2025年は、どんな一年でしたか?

「2025年はツアーもあり、パフォーマンスの機会にも恵まれた一年でした。三代目としてツアー初の単独スタジアム公演もあり、とても充実していたと思います。一方で、それ以上に印象に残っているのは、改めて自分自身の立ち位置や、周りにいる人たちの存在のありがたさを再確認したということです。そうした時間の中で、新しい夢が生まれたり、『周りの人に必要とされる存在でいたい』という想いが、よりはっきりと自分の中に根づいていきました。それは仕事だけではなく、プライベートも含めてのこと。これから先、どれくらいの時間があるのかは分かりませんが、だからこそ、楽しくて、笑顔にあふれていて、みんなと一緒に心から楽しめる日々を重ねていきたい。2025年は、そんなことを改めて強く感じた一年だったと思います」

──10月に開催された長居スタジオアムでの15周年記念スタジオライブを観に行かせていただき、心から感動いたしました。ファンの皆さんと一緒に時間を重ねてきたからこそ、そこに集まるすべての人が成長しているんだなということが自然と伝わってきて。その空気感も含めて、特別な時間だったと感じています。

「本当ですか、ありがとうございます。すごく嬉しいです。実は、ステージに立っているときも、まったく同じことを感じていました。この曲をつくっていた頃は、こんなプロモーションをしていたなとか、この楽曲には、当時こんな想いが込められていたなとか。一曲一曲に、自然と記憶が重なっていく感覚があって。当時は、『できるだけ大きなステージにも対応できる曲をつくろう』と思いながら制作していた楽曲が、いまではスタジアムという場所で、みんなと一緒に歌われている。そこまでの道のりを思うと、『本当に、ずいぶん遠くまで来たな』と感じて。同時に、目の前にいる皆さんに連れてきてもらったんだという想いが強く湧いてきて。そのことが、何よりも胸に残る感動でした」

──最後に、2026年の目標を教えてください。

「2026年はまだ発表できていないことも含めて、いろいろな準備を進めています。たくさんの方にパフォーマンスを届けられる機会や、直接お会いできる場も予定しているので、その一つひとつの時間を通して、できるだけ多くの笑顔を生み出せたらいいなと思っています。自分の中では、2026年は“挑戦の一年”。立ち止まることなく、次から次へと新しいことに挑んでいきたい、そんな気持ちでいます。その姿を、温かく応援してもらえたら、とても嬉しいです」

Photos:Akihito Igarashi Edit, Interview & Text:Hisako Yamazaki

Profile

小林直己 Naoki Kobayashi 1984年11月10日生まれ、千葉県出身。EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマー。ダンサーとしての確かな表現力と美意識を軸に、音楽・ファッション・カルチャーを横断した活動を展開。紅茶文化の発展に寄与し、人々の生活を豊かにする人物を表彰する「THE TEAIST AWARD」を受賞。
 

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