
混沌と洗練が強烈な熱量をもって混ざり合う、進化の目覚ましいバンコク。この地で、ひときわ異彩を放つのが地上314メートル、78階建ての超高層ビル「キングパワー・マハナコーン」だ。まるでデジタルグリッチを起こしたかのようなピクセル状の摩天楼。その中に、アジア初の旗艦ホテルとしてオープンしたのが「ザ・スタンダード・バンコク・マハナコーン」だ。このホテルに滞在すべき理由は、デザイン、ロケーション、そして規格外のダイニング体験にある。常識を軽やかに裏切る、遊び心満載のホテルをご案内。
バンコクの天空に浮かぶ最新デザインホテル

1999年に、アンドレ・バラズ氏によってウエスト・ハリウッドに誕生した「ザ・スタンダード」。コンセプトは「Anything but Standard(スタンダード以外は何でもあり)」で、ホテルを単なる宿泊施設ではなく、デザイン、アート、ファッション、ナイトライフが交差する「カルチャーハブ」としてとらえている。

現在ニューヨークやマイアミ、ロンドン、モルディブへとホテルを拡大させ、近年はハイアットグループに参画。アンダーズなどと同じく、ライフスタイルカテゴリに位置付けられている。

2022年7月にオープンした「ザ・スタンダード・バンコク・マハナコーン」は、バンコクというカオスでエネルギッシュな街と、ブランドが培ってきた洗練されたデザインが見事に融合したホテルだ。その実力は折り紙付きで、「ミシュランガイドホテルセレクション2024」にて1ミシュランキーにも輝いているほど。

空間デザインは、スペインの鬼才ハイメ・アジョン氏によるもの。レトロフューチャーな曲線が多く取り入れられており、大胆な色彩で満たされたデザインが印象的だ。ホテルオーナーのアイテムなどもディスプレイされており、ロビー階にはジョアン・ミロの作品が鎮座するなど、館内各所にアートピースが散りばめられている。

ホテルのハブとなる「ザ・パーラー」は、タイ料理をメインにしたカフェレストラン兼バーだ。緑豊かな植物がオアシスのように配置され、カラフルなミッドセンチュリー調の家具が心地よいリズムを生んでいる。

昼間はロビーラウンジとしてゆったりくつろぐ人や仕事をする人、夜はDJブースから流れる音楽に身を委ね、カクテルを片手に語り合う人々で賑わう。

155室ある客室もまた、ハイメ・アジョン氏の美学が貫かれている。私が滞在した客室は、二面ガラス張りでシティビューが楽しめる56平米のコーナーキング。柔らかなニュートラルカラーを基調としながらも、床から天井までの大きな窓、コーナーに丸みをもたせた壁、オブジェのような照明がコージーな可愛らしさを演出している。

6階には緑に囲まれたテラスプールやホットジャグジー、プールバーや24時間営業のジムがある。バンコクの摩天楼を眺めながらスイミングをしたり、黄色のパラソルの下で、軽食やカクテルを味わうのもいいだろう。
バンコクを一望する展望レストラン! スターシェフ監修のモダンメキシカン「Ojo Bangkok」

このホテルを訪れる最大の理由の一つが、76階に位置する「Ojo Bangkok(オホ・バンコク)」だ。スペイン語で「目」を意味する名の通り、地上300メートルからバンコクの街を見渡す、まさに天空のレストランとなっている。

エレベーターの扉が開いた瞬間、息をのんだ。目の前に広がるのは、金と宝石の色調で彩られた、レトログラムで官能的な空間。古代ラテンアメリカ文明の神秘主義と、貴金属のきらめきにインスパイアされたというそのモダンでグラマラスな空間は、窓の外に広がるバンコクのパノラマと相まって、現実感を失わせるほどの力強さを持つ。

料理を監修しているのは、2024年度の「ラテンアメリカのベストレストラン50」で12位に輝いたメキシコ「アルカルデ・レストラン」のフランシスコ・パコ・ルアーノ氏。メキシコ料理にタイ料理やアジア料理のエッセンスを取り入れた、モダンメキシカン料理が味わえる。

シグネチャーのワカモレは、マッシュしたアボカドに、イクラとサーモンが輝き、ハーブが香る。想像するワカモレとはまったくの別物だ。続くセビーチェには、日本の鰹だしが香り、パクチーやディルが複雑な層をなす。ソムタムのように青パパイヤをロール状にした前菜、グリーンチリのサルサで味わうポークリブ。そして圧巻は、バナナリーフで2時間スロークックしたラム。それらをトウモロコシのトルティージャで、思い思いに包んで味わう。伝統的な技法に、タイの食材と洗練された感性が加わり、どの皿も驚きに満ちていた。

デザートも独創的だ。テキーラを効かせた酸味のあるミルクアイスや、ライスパフをミルクで戻し、シナモンクランブルと混ぜていただくアイスクリーム。一口ごとに、既成概念が心地よく解体されていく。ここは、バンコクの美食シーンの最先端を体感できる場所だ。
地上314メートルの高さを誇るビルの最上階に位置する、バンコクで一番高い屋外ルーフトップバー「スカイビーチ」

「Ojo Bangkok」での食事の後はさらに上階、78階の「スカイビーチ」へ。ここは、バンコクはもちろん、東南アジアで最も高い場所にあるルーフトップバーの一つで、地上314メートルの高さを誇るビルの最上階に位置する屋外ルーフトップバーだ。しかも「Ojo Bangkok」で食事をした人は、本来約5,000円かかる「スカイビーチ」への入場料が無料になるという特典がある。今回せっかくなので、昼と夜の両方足を運んでみた。

遮るもののない360度のパノラマは、圧巻の一言。昼間は視界が開けているので、高さにリアリティがある。しかもここには真下が丸見えのガラス床があり、明るい時間は特に怖さが増す。

夜はカップルシートを押さえて、お酒を片手に大パノラマの夜景をゆったり楽しむのがおすすめ。バンコク屈指のミクソロジスト、ミルク・タナワォラチャヤキット氏が監修するカクテルのほか、クラフトビールやワインなどが味わえる。
NY仕込みのアメリカン料理をバンコクで再解釈した「ザ・スタンダード・グリル」

「Ojo Bangkok」が天空の非日常なら、5階の「ザ・スタンダード・グリル」は、地に足のついたNYの熱気をバンコクに持ち込んだ場所だ。ニューヨークのミートパッキング地区にある本店の名を冠した、伝統的なアメリカンフードに、タイのエッセンスを加えたダイニングだ。

アーチ型の天井、真鍮のディテール、レザーのブース席、1セントコインが敷き詰められたアンティーク調のフロアなど、映画の登場人物になったかのような内装にも浮足立つ。

料理は薪火を使ったスモーキーな料理が目白押しだ。シュリンプカクテルは、チポトレや大葉、レタスがアクセントになっていて、アジアン風味。カリカリのチップスを合わせたビーフタルタルや、香ばしい自家製パンなど、前菜から薪火のダイナミックな調理法を感じさせる。

メインは270日間、穀物飼育されたブラックアンガス牛のステーキ。ビーフマーブルスコア5(日本のA5ランクのような立ち位置)という最高ランクのサーロインは、薪火で余分な脂が落ち、適度なサシが入ったやわらかく旨味の強い味わいだ。このほかにもフェンネルやアスパラガスのソース、イクラが添えられた鯛のグリルや、レモングレモラータというソースを合わせたラム肉のパスタといったシーズナルメニューなど、ひとひねり利いた料理が食欲をそそる。

デザートもアメリカンサイズ。焼きたてのシナモンロールは、冷たいアイスとバーボンクリームが添えられ、背徳的ながらもついつい食べ進めてしまう大人な味わいだ。
タイ料理や中華、ティーラウンジなど美食三昧が叶うホテル

ホテル内には、他にも魅力的なダイニングが点在。5階に位置するオールデイパブ「ダブル・スタンダード」では、朝食やランチ、ディナーが楽しめる。

朝食はハーフブッフェスタイルで、メインディッシュはソムタムなどの冷菜や、タイヌードルやタイ風オムレツなどタイ料理の温菜、エッグベネディクトやクロックマダムなどの西洋料理から好きなだけチョイスが可能。ブッフェ台には色とりどりのフルーツやサラダ、焼きたてのパンが並ぶ。テラス席は愛犬同伴もOK(ホテル自体がドッグフレンドリー)とあり、愛らしいワンちゃんたちの姿を目にすることもできる。

この他にもイノベーティブな広東料理の「Mott 32 Bangkok(モット 32 バンコク)」や、アフタヌーンティーが味わえる「Tease(ティース)」など、多彩な食の選択肢が存在する。

バンコクの熱狂的なエネルギーを感じつつ、自身のスタンダードが塗り替えられるような、刺激的な体験が満載の「ザ・スタンダード・バンコク・マハナコーン」。エキサイティングで洗練されたアーバンリゾートで、非日常へエスケープしてみては?
ザ・スタンダード・バンコク・マハナコーン (The Standard, Bangkok Mahanakhon)
住所/114 Narathiwas Road, Silom, Bangrak, Bangkok 10500
TEL/+66 2 085 8888
URL/www.standardhotels.com/bangkok/properties/bangkok
取材協力:ザ・スタンダード
※1 THB(タイバーツ)=4.85円(2025年11月26日時点)
Photos & Text: Riho Nakamori
