温かく、甘く、深い。そして五感を捉えて離さない。媚薬のようなバニラや蜂蜜、スイーツなどのおいしそうな香調の“グルマン”と称されるフレグランスがこの秋は注目。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載)

バニラの香りで世界を虜に。100年を経て輝くアイデンティティ
1925年に3代目調香師ジャック・ゲランによって誕生した〈シャリマー〉。当時は珍しかったバニラの合成香料と出合ったジャックは、そのクリーミーで甘く強い香りに雷に打たれたようなインスピレーションを受け、調香に着手したという。ベルガモットのフレッシュさに、媚薬のようなバニラを融合したアンバーノートは、エレガントでありながら官能性も匂わせる——。
まるで襟ぐりの深いドレスのような、センシュアルな魅力を放つ唯一無二のフレグランスとして、象徴的なアールデコ調のボトルとともに世界中の女性を虜にしたのだ。今秋、誕生100周年を祝し、バニラへの賛美とオマージュを捧げた新作が誕生。マダガスカル産バニラチンキを加え、より深淵なバニラのファセットを描き出すことで、柑橘の軽やかさとバニラの包み込むような優しさがパウダリーな余韻を残す。100年の時を経て愛され続ける歴史的名香の描く“香りのモダンアート”を、今こそ感じてほしい。

シェイクスピアのヒロインから着想を得た、遊び心あふれる香り
日本本格上陸を果たしたジュリエット ハズ ア ガン。香水界ではすでに知られた存在で、ニナ・リッチの曽孫ロマーノ・リッチによって創設されたフレグランスブランドだ。印象的な名前の由来は、「もしシェイクスピアのヒロイン(『ロミオとジュリエット』のジュリエット)が、香水という誘惑の武器に喩えられた銃を持って21世紀にやってきたら⁈」という遊び心あふれるもの。悲劇のヒロインでありながらもチャーミングな面を持つ、ジュリエットの多面的な魅力を香りで表現する多彩なラインナップは、ムスクからグルマンまでバラエティ豊か。
ポップな配色のボトルもキュートな〈マイアミ シェイク〉は、ブランド初の本格的なグルマンノートとして誕生した香り。甘酸っぱいワイルドラズベリーで彩られた、ホイップクリームやアイスクリームコーンのスイートな香りは、甘いけれど決してチープではない洗練性が光るのも魅力。纏った瞬間から幸せ気分に!

ベリーが惹きつけてやまない。フルーティなグルマンの深みに没入して
ディオール パフューム クリエイション ディレクターのフランシス・クルジャンが、より甘美で濃密な輪郭とともに名香〈ミス ディオール〉を再解釈して描き出した新作。〈ミス ディオール〉を象徴するグリーンなジャスミンから始まるシプレーの核はそのままに、フルーティでグルマンな深みを際立たせたリッチな香り。纏った瞬間に感じる、弾けるようなブラックベリーとエルダーフラワーの明るくポジティブなフルーティノートから、徐々にジャスミンやオークウッドが濃密さを重ねていき、やがて抗えない深みへと移り変わる大胆なノートは、さすがの芸術的調香だ。
肌と重なり合ってふわっと漂う甘い残り香は、自分だけの秘め事のようなインティメイトな喜び。秋に似合う深く甘いグルマンノートを欲している人にも、大人びたベリーやフルーツの香りを探している人にもおすすめ。
Photos:Iseki Edit & Text:Naho Sasaki
