アートが映す装飾のゆくえ | Numero TOKYO
Art / Feature

アートが映す装飾のゆくえ

伝統や様式と対峙して、世の中の“当たり前”を書き換えてきた現代アートの世界。アートは単なる飾りであってはならないーーならばアーティストは装飾といかに向き合い、自らの表現を打ち立ててきたのか。アートと装飾の関係を、作品と言葉でひもといてみよう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載

小瀬村真美 | Mami Kosemura

──表現において装飾とは?
「絵画という虚構のなかで過剰に盛られ、ねじ曲げられた奇妙な美の形」

『餐 Banquet』ジクレープリント(2018年) © Mami Kosemura
『餐 Banquet』ジクレープリント(2018年) © Mami Kosemura

『A Scene - Still Life with Fruit, Oysters and a Porcelain Bowl』ヴィデオインスタレーション(2023年) © Mami Kosemura
『A Scene - Still Life with Fruit, Oysters and a Porcelain Bowl』ヴィデオインスタレーション(2023年) © Mami Kosemura

『粧 Guise Ⅶ』ジクレープリント(2018年) © Mami Kosemura
『粧 Guise Ⅶ』ジクレープリント(2018年) © Mami Kosemura

静物画のごとく写し出された美の形

絵画・写真・映像のあわいを行き来し、虚構と現実の境界を探り、そこに美を見いだしていくのが小瀬村真美の創作だ。どの作品を見ても、息をのむほどに洗練された演出と装飾が画面に満ちている。その理由を作家はこう述べる。「例えば私の作品『粧 Guise』で取り上げた17世紀オランダの画家デ・ヘーム親子による花の静物画群が示す装飾性には、切り離され絵画へと整えられた自然の姿と、描き手や買い手の欲望が反映された変形の形が反映されています。絵画という虚構の世界のなかで過剰に盛られ、ねじ曲げられた奇妙な美の形。それは醜悪であると同時に、抗いがたい魅力と強い生命感を放つものです」。装飾の力を熟知し、存分に生かしたアートがここにある。

小瀬村真美
1975年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。西洋の静物画の描写などを参照し、写真や映像作品を制作。主な個展に「幻画~ 像(イメージ)の表皮」原美術館(2018年/東京)、「Before the Beginning」MA2 gallery(2023年/東京)など。今秋「東京ビエンナーレ2025 」10月17日(金)~12月14日(日)に参加。
https://mamikosemura.com/

 

熊谷亜莉沙 | Arisa Kumagai

──表現において装飾とは?
「人においての装飾と権威性の関係は、制作における重要なテーマの一つ」

『Say yes to me』油彩、パネル、2点組(2025年) Photo : Hikari Okawara
『Say yes to me』油彩、パネル、2点組(2025年) Photo : Hikari Okawara

『イサク、あるいは彼女』油彩、パネル(2021年) Photo : Hikari Okawara
『イサク、あるいは彼女』油彩、パネル(2021年) Photo : Hikari Okawara

『Leisure Class』油彩、パネル(2021年) Photo : Hikari Okawara
『Leisure Class』油彩、パネル(2021年) Photo : Hikari Okawara

服飾店を営む祖父の背中と聖俗の地平

極めて私的なストーリーをもとに構想を立てながら、人間の欲望・愛憎・生死といった普遍的な事柄まで表現するのが、熊谷亜莉沙の絵画である。透明色を塗り重ねることで生み出される深みのある漆黒と、きらびやかな色彩が画面内に同居するさまも目を惹く。両極に触れる振り幅の広さが、作品の華やかさと装飾性を生んでいる。「求愛のために美しい花で巣作りをする小鳥がいるように、装飾をしたいという思いは非常にプリミティブで純粋な欲求であると考えています」とは熊谷の言葉。しかし装飾をただ礼賛するのではなく「装飾と権威性の関係は非常に興味深く、自身の制作における重要なテーマの一つです」とも。透徹した視線で絶えず物事の二面性を見つめているのだ。

熊谷亜莉沙
1991年、大阪府生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院総合造形領域修了。自身の背景や家族史に結び付いたモチーフを描き出し、在学中に数々の学内賞を受賞。2019年の個展「Single bed」以来、ギャラリー小柳(東京)で展示を重ね、新作を発表してきた。今秋、同ギャラリーで4回目となる個展「天国泥棒」が開催されたばかり(8月23日(土)~10月11日(土))。Photo : Sadaho Naito
https://arisakumagai.com/

 

平田尚也 | Naoya Hirata

──表現において装飾とは?
「装飾とは、素材を『見ることのできる対象』へと変えるための条件」

『Drunk unicorn』ヴァーチャルオブジェクト(2023年)
『Drunk unicorn』ヴァーチャルオブジェクト(2023年)

『Cat tower』ヴァーチャルオブジェクト(2020年)
『Cat tower』ヴァーチャルオブジェクト(2020年)

『十把一絡げ #1 (cap)』3Dプリント、PLAプラスチック(2023年) Photo : Kenji Aoki
『十把一絡げ #1 (cap)』3Dプリント、PLAプラスチック(2023年) Photo : Kenji Aoki

『Ouija #5 (Penelope)』デジタルシルバープリント、アルミ合金板(2018年)
『Ouija #5 (Penelope)』デジタルシルバープリント、アルミ合金板(2018年)

仮想空間と装飾×認識の新たな時空

インターネット上で収集した既製の3Dモデルや画像データを素材に、PC上のヴァーチャル空間で組み合わせ、彫刻様の作品を制作するのが平田尚也の表現だ。作品世界では通常の世界での意味や関係性が剥ぎ取られているからか、ありふれた物体の集積が初めて見るもののように新鮮に映る。装飾という概念は、創作時の重要ポイントであるという。「装飾とは、素材を『見ることのできる対象』へと変えるための条件です。仮想空間に漂うデータや既製モデルは、そのままでは情報の塊でしかありません。装飾が与えられることで初めて輪郭を結び、存在感を伴った像として現れる。装飾は付け足しではなく、素材を経験可能な存在へと移行させる仕組みだと考えています」

平田尚也
1991年、長野県生まれ。2014年、武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。デジタルテクノロジーが極度に進展した現代において、人の身体性やアイデンティティのありかを探究しながら創作を続けている。現在、アーツ前橋(群馬県)でのグループ展「ゴースト 見えないものが見えるとき」9月20日(土)~12月21日(日)に参加。
https://satokooe.com/artists/naoya-hirata/

 

やましたあつこ | Atsuko Yamashita

──表現において装飾とは?
「装飾は絵画の一部。色・レイヤー・構図と同じであり、一つの表現方法。」

『eating a butterfly』キャンバスに油彩(2025年)
『eating a butterfly』キャンバスに油彩(2025年)

『under the tree』鉛筆、パステル、紙(2025年)
『under the tree』鉛筆、パステル、紙(2025年)

『eating a butterfly』キャンバスに油彩(2025年)
『eating a butterfly』キャンバスに油彩(2025年)

「邪魔のない幸せ」を彩る生命の息吹

子ども時代につらい体験が重なったことで、自分の内面に「王国」を創造するようになり、その世界の様子とそこに住む人たちを描くようになったのが、やましたあつこの創作のきっかけにして原点だった。以来一貫して、自身の想像力が生み出したパラレルワールドをテーマに据えて筆を振るってきた。その画面には植物や人物といったモチーフが、カラフルかつ細やかに、また規則性を伴って、柔らかい筆致で描き込まれている。デザイン性に富んだやましたの絵画は、全体が装飾でできていると見ることもできそう。実際、アーティスト本人にとって装飾とは「絵画の一部」をなす大切な要素だとのこと。「色・レイヤー・構図と同じであり、一つの表現方法」であるという。

やましたあつこ
1993年、愛知県生まれ。2018年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。想像力を駆使してパラレルな世界を創生し、一貫して「邪魔のない幸せ」を描く。主な個展に「dreaming」Suomei M50 Gallery(2024年、上海)、「eating a butterfly」HARUKAITO(2025年/東京)など。11月5日(水)~12月3日(水)void +(東京)で個展を開催予定。
https://atat000x.wixsite.com/siatsuko

 

江頭誠 | Makoto Egashira

──表現において装飾とは?
「かわいさを増長させ、擬態化して存在を消し、ものの在り方を問うためのもの」

YUKIのミュージックビデオ『My Lovely Ghost』撮影セット制作中の一コマ(2021年)掲載協力 : Sony Music Labels Inc.
YUKIのミュージックビデオ『My Lovely Ghost』撮影セット制作中の一コマ(2021年)掲載協力 : Sony Music Labels Inc.

『熊の親子』毛布、ミクストメディア(2025年)
『熊の親子』毛布、ミクストメディア(2025年)

『王将』毛布、ミクストメディア(2022年)
『王将』毛布、ミクストメディア(2022年)

『貝と女神』毛布、ミクストメディア(2024年)
『貝と女神』毛布、ミクストメディア(2024年)

豊かさの象徴、花柄まみれの毛布世界

江頭作品で一貫してモチーフに用いられるのは、誰しも一度は目にしたことがあるバラの花の模様のブランケット。思えばこれこそ、日本の高度成長期の“豊かさ”を象徴する装飾なのかもしれない。江頭本人も花柄毛布の効力は絶大だとし、「たまに無地の毛布で制作すると、やはりかわいさが半減し、軽やかになり、何か物足りなさを感じます」とのこと。自身の創作を成り立たせるために、花柄毛布は必須であるという。「私の作品にとっての装飾は、かわいさを増長させるものであり、存在を強調させるものでもある一方、擬態化し存在を消し、そのものの在り方を問うために必要なものでもあります。花柄毛布の作品から、茂みのような不気味さと熱帯雨林のような湿気を感じていただきたい」

江頭誠
1986年、三重県生まれ。花柄毛布で装飾した霊柩車の作品『神宮寺宮型八棟造』で2015年「第18回岡本太郎現代芸術賞 特別賞」を受賞。22年、グッチ(Gucci)のショートフィルム「Kaguya by Gucci」で装飾を担当。9月20日(土)~11月16日(日)「BIWAKOビエンナーレ2025」(滋賀県)に参加、11月に銀座 蔦屋書店でも個展を予定。Photo : Kaho Okazaki
@makotoegashira_artwork

(参考記事)Numero.jp「江頭誠インタビュー。狂い咲く“毛布アート”と豊かさの行方」

 

石川真澄 | Masumi Ishikawa

──表現において装飾とは?
「経験や知識、感性を頭の中に貯めていき活用する、精神の武装のようなもの」

『京都名所圖會(ずえ)』(2022年)嵐山 京風凜(きょうぷりん)のための描き下ろし。© KONJAKU Labo.
『京都名所圖會(ずえ)』(2022年)嵐山 京風凜(きょうぷりん)のための描き下ろし。© KONJAKU Labo.

『見立花魁播朶可太夫(みたておいらんばんだかだゆう)』(2025年)希少植物ビカクシダの専門店vandaka plantsとのコラボレーション作品。© vandaka plants / KONJAKU Labo.
『見立花魁播朶可太夫(みたておいらんばんだかだゆう)』(2025年)希少植物ビカクシダの専門店vandaka plantsとのコラボレーション作品。© vandaka plants / KONJAKU Labo.

『夢現遊覧病寫_其の弐(むげんゆうらんびょうしゃ そのに)』(2023年)夢の中と現実世界の自分が混在するさまを描いた。© KONJAKU Labo.
『夢現遊覧病寫_其の弐(むげんゆうらんびょうしゃ そのに)』(2023年)夢の中と現実世界の自分が混在するさまを描いた。© KONJAKU Labo.

様式美が立ち薫る現代の浮世絵

江戸時代発祥の版画芸術・浮世絵の伝統技能と精神を継承しつつ、そこに現代的なテーマを吹き込んでいく石川真澄は、人呼んで「現代の浮世絵師」。ロックバンドのKISSや映画『スター・ウォーズ』とのコラボレーションなど、モチーフを自在に用いた浮世絵の数々は、画面の隅々までユニークな色と形に満ちており、見る側の心を躍らせる。大胆な色彩と構図を用いて、平面的な画面をいかに彩り装飾するかは、浮世絵の、また日本文化の肝であり、大いなる特色である。石川もまた「装飾とは、人生の中で培ってきた経験や知識、磨いてきた感性を頭の中の倉庫に貯めていき、そのつど表現の場に活用していく、いわば精神の武装のようなもの」と考えているという。

石川真澄
1978年、東京都生まれ。2000年に六代目歌川豊国に師事するも師の他界により独学でスタイルを確立、今昔ラボを主宰。「東京2020パラリンピック」描き下ろし連作10点、阪急うめだ本店ウインドウディスプレイ6面の立体構成など、コラボレーションや発表の機会多数。パッケージを手がけたミネラルウォーター『京乃水』は「大阪・関西万博」会場でも発売された。
www.konjakulabo.com/

(参考記事)Numero.jp「浮世絵師、石川真澄インタビュー『浮世絵とはロックな表現』」

Select & Text : Hiroyasu Yamauchi Edit : Keita Fukasawa

 

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