生活の道具としての器、アートとしての器。ガラス、陶磁、七宝焼…それぞれの技法で表現する作家たちの作品から奥深い創作哲学を読み解く。Vol.2はガラス作家 波多野裕子。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年10月号掲載)

紫から緑へと移り変わる繊細なグラデーションを表現するなど、一口にグレーといっても、3~4種の色を調合し、磨き上げ、二つとないグレーを生み出す。
ガラス作家 波多野裕子|Hiroko Hatano
光と影の間の繊細なグレーに
包まれるガラスの道具
曇り空のような、水墨画のような、ニュアンスのあるグレーのヴェールを纏った、端正なラインが生み出すミニマルな器。ガラス作家・波多野裕子は、砕いたガラスの粉末を型に詰めて焼成する、伝統的なガラス工芸のパート・ド・ヴェール寄りのキルンキャスティング技法を用いて、日常に寄り添う道具を作る。

薄暗く淡いグレーの光に包まれる、実用性より雰囲気づくりにこだわったランプシェード。
縄文時代ごっこをして遊んでいた幼少期にさかのぼる道具への愛着は、今も創作の核となっている。陶芸、彫金を経て、自分のスタイルにフィットしたこの技法で、「削り」「磨き」を通じて、自らの手で最終形へと完結させることに喜びを感じるという。
こだわり抜いたラインが生み出す口当たり、触感の心地よさは、使うことによって優雅な体験をもたらす。波多野の作品は道具でありながら、伝統工芸とガラスの持つ儚さを内包し、天然石のような穏やかな質感と、深遠なグレーの世界を漂い続ける。

シャープなのに穏やかな表情を持つ一輪挿し。研磨を突き詰め、口元とヒップのラインには徹底的にこだわる。
Photos:Ai Miwa Edit & Text:Masumi Sasaki
Profile
波多野裕子
Hiroko Hatano
ガラス作家。1968年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、93年より、趣味の延長で陶芸を始め、後に彫金を学ぶ。2008年、パート・ド・ヴェールの体験教室に参加したことをきっかけに本格的にガラス作品を制作する。以後、パート・ド・ヴェール寄りのキルンキャスティング技法により、器など日常使いの道具を制作し、国内外で展示会を開催。
Instagram:@hiroko_hatano
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