わずか8席の美食の“舞台”。仏ミシュラン凱旋シェフ濵野雅文氏による福岡「リュニック・ラボ」へ |Numero TOKYO
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わずか8席の美食の“舞台”。仏ミシュラン凱旋シェフ濵野雅文氏による福岡「リュニック・ラボ」へ

フランスでミシュラン二つ星を6年間獲得し続けた濵野雅文シェフが、2025年9月14日、福岡・春吉に「L’Unique labo (以下、リュニック・ラボ)」を開業した。シェフの日本初出店となるレストランで、自身の原点である九州の食材とフランスで培った技を融合している。8席のみのプレミアムシートで、料理・空間・演出のすべてによって織りなされる“食の舞台”、その全貌を紹介したい。

アルド・ロッシ氏設計の「ホテル イル・パラッツォ」内、チャペル跡地に誕生した「リュニック・ラボ」

1975年、福岡県糸島市のトマト農家に生を受け、故郷の豊かな食文化の中で育った濵野氏。中村調理製菓専門学校を卒業後、東京の名店「ラ・ロシェル」で8年半にわたり腕を磨き、単身フランスへ。現地の複数のレストランで研鑽を積んだ後、ブルゴーニュ地方の「Saint-Amour Bellevue」にてオーナーシェフとして独立。そして2018年、ミシュラン二つ星という栄誉に輝き、2023年に日本へ帰国するまでの6年間、その星を堅守し続けた。

帰国後は、全国に17のホテルを展開するワンファイブホテルズ株式会社に入社。コーポレートエグゼクティブシェフとして、全国のホテルで調理部門を監修している。

今回、レストランが居を構えるのは、1989年にイタリアの巨匠建築家アルド・ロッシ氏が設計し、日本のデザインホテル史の幕開けを告げた「HOTEL IL PALAZZO(ホテル イル・パラッツォ)」だ。ホテルの敷地内のチャペル跡地が、濵野氏の新たな表現の舞台として生まれ変わった。

世界的デザインチーム「アトリエ・オイ」が手がける、初のレストランデザイン

わずか8席の空間に足を踏み入れると、天井高6メートルを超える開放感と、すべてが白で統一された静謐な空気に息をのむ。空間デザインを手掛けたのは、スイスを拠点に世界で活躍するデザインチーム「atelier oï(アトリエ・オイ)」だ。

Louis VuittonDiorといった世界的ブランドのプロジェクトを手掛け、数々の国際的なデザイン賞を受賞してきた。そんな彼らにとって、「リュニック・ラボ」は九州初、そして意外にもキャリア初となるレストランデザインとなっている。

「レストラン=舞台」というコンセプトのもと、空間の中心にはキッチンが据えられ、シェフの繊細な手捌きや調理の音、香りといった臨場感を、ゲストが五感で感じられるように設計されている。これは、ヨーロッパの“特別なゲストをキッチンに迎える文化”に着想を得たものだという。料理を彩る器は、フランスの老舗磁器ブランド「Bernardaud (ベルナルド)」や、世界のグランシェフが愛用する有田焼の名窯「カマチ陶舗」の白皿を中心に採用。柔らかな白のグラデーションで統一された内装は、光の陰影によって建築の美しいフォルムを際立たせ、日本文化が持つ「余白の美学」をも表現しているようだ。

シェフの料理に多用される“花”をモチーフにしたテーブル上のペンダントライトや、庭を思わせるウェイティングスペースなど、細部まで一貫した美学を感じる。椅子やサービスワゴンに至るまで、すべての家具がatelier oïによるオリジナルデザインであり、空間全体がひとつの完成された作品として、ゲストを非日常へと誘うかのようだ。

フレンチの技法×九州のテロワールと果実が奏でる11皿の物語

メニューは全11皿からなるコース「Menu L’Unique(27,500円、税込・別途サービス料10%、コース内容は2カ月ごとに変わる)」のみだ。まずはウェイティングスペースで、ブラックペッパーを利かせたアーモンドの砂糖菓子とともに、グラスシャンパーニュで乾杯。ゲスト同士で歓談を楽しんでから、ダイニングテーブルへと向かう。

コースはなんとも愛らしい「ミニャルディーズ・サレ」から幕を開ける。三輪車に乗せられた生ハムとグリーンオリーブのマドレーヌには、ハート型のぶどうジュースのジュレがあしらわれ、口に運んでからスポイトをつまみ、ぶどうジュースを注入していただく。ジュエリーボックスの中に入っているのは、糸島産の豚のリエットを挟んだバラのマカロンと、イタリア産のペコリーノロマーノを利かせたカレー風味のマカロン。イヤリングスタンドにかけられているのは、ポルチーニ茸のチュイールで、サクサクとした食感と共に、芳醇な香りを口の中に残す。

続く一皿も、遊び心満載だ。スコップ型のスプーンが添えられたカップには、トウモロコシのムースやジュレに、ゴールデンキウイ、大分産の塩雲丹、イベリコ豚の生ハムなどを合わせた一品。中央にはライム風味の海老とアボカドのタルトレット、そして宮崎県産の竹炭を使った真っ黒なアメリカンドッグが並ぶ。

濵野シェフの真骨頂は、自身の代名詞でもある「すべての料理にフルーツを取り入れる」という独創的なアプローチにある。これを特に体現しているのが、スペシャリテだ。ズッキーニのシャルロットに、カニと白菜のエチュベ、カボチャのエスプーマにイタリア産のオシェトラキャビア、エディブルフラワー、そしてレモンのコンフィチュールを合わせている。添えられているのは、燻製したタプナードのワッフル。一口ごとにキャビアの塩気とカボチャの甘さ、レモンの酸味というように、味わいがグラデーションのように変化していく。

続くオマール海老は、サーモンのタルタルと合わせてフラワーロールに仕立て、パイナップルのコンポートのタブレ、ビネガーを使ったパイナップルシャンティーを組み合わせたトロピカルな一皿だ。ビーツや蕪、ブロッコリーなど、鮮やかなソースを絵具のように混ぜ、味の掛け合わせを探るのも楽しい。

温前菜は、フォアグラにはかた地どりを合わせた一品。福岡ならではの希少イチジク「とよみつひめ」のキャラメリゼと赤ワイン煮込み、里芋の煮込みを付け合わせ、黒トリュフを削りかけている。ペリグーソースというクラシックなソースに、イチジクの葉のオイルという新たなエッセンスを加え、味に奥行きと驚きを生み出している。

九州の恵みをフランスの伝統と掛け合わせた、メインディッシュとデセール

シェフの故郷・九州のテロワールを色濃く反映しているのが魚料理だ。豊かな漁場で知られる長崎県・五島列島近海で神経締めされたマハタを1週間熟成してローストし、渡り蟹のアメリケーヌソースとブールブランソースをまわしかけ、キャベツとアンチョビのピュレ、キャベツのブレゼを添えている。味の決め手となるのは、大分県名産のカボスのペーストとゼスト。カボスの清々しい香りをまとったマハタは、九州の潮風を感じる、爽やかで滋味深い一皿だ。

メインディッシュは、フランス・ラカン産の仔鳩のモモ肉のコンフィと胸肉のロースト。仔鳩の持つ、繊細なうまみを引き出す素晴らしい火入れだ。合わせるのは、ジロール茸やニンジンやリンゴ、スモモのピュレ、鳩の内臓を使ったソース、リンゴのコンポート、タイムやローズマリーが入ったカカオのクランブル。秋の味覚であるキノコの豊かな香りと、林檎のフルーティーな甘酸っぱさに、カカオやハーブの香しさが上品に漂う、フランスの食文化と大地への敬意が表現された一皿だ。

シェフパティシエが仕上げるデセールも、アーティスティックで洗練されており「余白の美学」が光る。デセール一皿目は、旬のマスカットの瑞々しく高貴な甘さに、サクサクとした軽い食感のメレンゲと、ヨーグルトの優しい酸味を組み合わせていた。

デセールのスペシャリテとなる二皿目は、温かいパッションフルーツソースをまわしかけると、ホワイトチョコレートのドームの中から、ミルクジェラートや洋ナシのコンポート、ラズベリーが姿を現す。洋ナシのとろけるような食感と芳醇な香りを、香ばしいアーモンドクランブルとミルキーでコクのあるホワイトチョコレートが包み込む。

締めのミニャルディーズも、お重に収められ、愛らしさは健在だ。カシスと栗のクリームチョコ、フランボワーズのロールケーキ、レモンタイムとマンゴーのパート・ド・フリュイが、コース全体に甘美な余韻を残す。

クラシカルワインに加え、九州ワイナリーにフォーカスしたペアリングコースも

ワインペアリング(13,200円、半量7,700円)もまた、このレストランの大きな魅力だ。フランスを中心としたクラシックなラインナップに加え、安心院(あじむ)、菊鹿、都農など、九州各地のワイナリーによる銘柄のみで構成する「九州ペアリング」(4杯9,900円)も用意。九州のテロワールを映し出したワインと料理が織りなす、至高のマリアージュを体験できる。

シェフが使う食材は、故郷・糸島の野菜や魚介をはじめ、九州各地から厳選されたものばかり。土壌を活かした無農薬栽培にこだわる農家や、海のミネラルを豊富に含んだエディブルフラワーの生産者など、シェフ自らが生産者の哲学に触れ、対話を重ねることで、その食材のポテンシャルを最大限に引き出している。

シェフ、空間、料理、器、そしてアート。すべてが完璧に調和した「リュニック・ラボ」は、単なる食事の場ではない。訪れる者の記憶に深く刻まれる、総合芸術としての食体験を提供してくれる場所だ。濵野雅文という稀代の料理人が故郷で灯した小さな光は、やがて九州、そして日本のガストロノミー全体を明るく照らす、大きな輝きとなるに違いない。

L’Unique labo (リュニック・ラボ)
住所/福岡市中央区春吉3丁目13-1 (HOTEL IL PALAZZO 敷地内)
URL/lunique-labo.jp

Photos & Text:Riho Nakamori

 

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