妹島和世建築の「森の別荘」を訪問。「トゥ エ モン トレゾア」2025AW展示会レポート | Numero TOKYO
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妹島和世建築の「森の別荘」を訪問。「トゥ エ モン トレゾア」2025AW展示会レポート

デニムブランド「トゥ エ モン トレゾア(Tu es mon Tresor)」が2025AWシーズンより新たな展開を見せます。そのターニングポイントとなるコレクションが、今年4月に建築家・妹島和世が設計した長野県蓼科の「森の別荘」にてお披露目されました。森の中のミニマルでモダンな邸宅の美しい空間と調和する、トゥ エ モン トレゾアの展示会の模様を振り返ります。

過去には、日本を代表するモダニズム建築家・吉村順三による熱海の邸宅でのサマー・レジデンシーショップ、同じく吉村順三建築の八ヶ岳高原音楽堂でのライブパフォーマンスイベントを開催するなど、トゥ エ モン トレゾアは名建築の空間とともにブランドの世界観やモノづくりの精神を伝えてきました。デザイナー佐原愛美が、今回、プレゼンテーションの場に選んだのは、建築家、妹島和世が設計し、1994年に完成した長野県蓼科の森の中に佇む「森の別荘」。これまでとは一変、真っ白な建物。空間の雰囲気が違えば、受ける印象は当然変わるが、それもそのはず、25AWシーズンより、ジーンズだけでなく、新たにシャツやジャケット、カットソーなどデニムを出発点とする女性のためのワードローブが加わりました。

2021年6月のリブランディング以来、「女性のためのセーフプレイスを作りたい。女性の視点を通して、女性の体型や感性に寄り添ったデニムを提案する」という信念のもと、デニムにこだわり続け、既に30型以上を作ってきた。なぜ他のアイテムも手がけることにしたのか、デザイナー佐原愛美はこう語る。「デニムだけだとどうしてもカジュアルなイメージが強くなってしまう。デニムは様々なコーディネートを楽しめ、汎用性が高いけれど、より明確な女性像が浮かび上がるようなコレクションにしたいと思い、今季から新しい方向性でコレクション制作を行っていくことにしました」と。

トゥ エ モン トレゾアにとって新たな試みとなるコレクションを、森の別荘の空間でどう見せたかったのだろう。どんな思いがあったのだろう。

「新しい始まりを象徴するような空間を探していたところ、森の別荘を見つけました。この空間の真っ白なピュアさと柔らかなカーブがコレクションのイメージにぴったりだと思いました。同時に、自然光がきれいな、服そのものが映える空間で見せたいという思いがありました」

円柱を斜めにカットしたような造形が特徴的な建物は、もともとギャラリストの別荘として設計され、オーナー夫婦が交友のあるアーティスト達が、作品制作のために滞在していたそう。天井から自然光が差し込む真っ白な円形のアトリエ、その周りを緩やかに変化するリング状のキッチン、ダイニング、リビングのワンルームが囲む。

一階のほとんどが、二層吹き抜けになっており、キッチンとダイニングの上部のみ2階が設けられ、寝室とバスルームが設置されるなど、コンパクトながら生活機能が無駄なく凝縮されている。そして、アトリエとリビングを繋ぐ大きな開口部と、外に向かって開かれた大きな四角い窓が、ひと続きになるように設けられ、内と外を繋ぐ。曲線と直線、円と四角、白とウッドといった、計算し尽くされたコントラストが心地よく共鳴し合う。

とはいえ、白くクリーンな、自然光の入るギャラリーのような空間なら、近場で他にもたくさんありそうなところだが、この場所でコレクションを発表することは、佐原が大切にしている「美しい暮らしの空間の中に存在する服」という考え方に通じているようだ。 

「この建築は、深い森に覆われた山地という環境や、冬の厳しい寒さや雪などの気候を考慮して設計されています。周辺環境との関係性や、想像される生活の延長線上に導き出された、円形の造形や生活空間の配置、光や景色の取り込み方などのデザインは、単なる問題解決にとどまらず、人間的な感性に訴えかける、空間を通した詩的な表現になっていると私は感じました。これまで長い時間を過ごしてきた、吉村順三の70年代、80年代の建築に比べて、この建築はより近年に建てられたことから、自分たちの世代や現代の生き方に合った暮らしやすさもあります。要素が最小限な分、際立つものが出てくるというか、ミニマルだけど無機質ではなく、開放的で、柔らかさや温もりが感じられます。ある種の軽さ、自由さが、トゥ エ モン トレゾアの新しい方向性とリンクするように思いました」

そんな美しい邸宅内の、近未来のSF映画を想起させる真っ白な円形のアトリエを包み込む移ろう光の中に展示された、トゥ エ モン トレゾアのニューコレクションはというと、

Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor

Tシャツの代わりになるものを作りたいという思いから誕生したクリーンなコットンのカットソーは、着ると少しウエストのラインがシェイプされていたり、ネックラインの開き具合の加減、細部にまでこだわって完成した、ありそうでなかったバランス。コットン100%ながら、リブの伸縮性が高く、しっかりした素材だけど、薄手で少し透け感があり、カジュアルになりがちなデニムルックにエレガントさをプラスしている。

Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor
Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor

そして、もともと漁師や農夫の人たちのスモックタイプの作業着から着想を得ているヴァルーズシャツ。もともとのふわっとした袖をシャープなシルエットにしたり、しっかりしたオックスフォード地は女性らしく見えるように加工で工夫したり、デニムとのバランスをとって柔らかく軽いウール混の生地できれいめな選択肢も提案するなど、同じヴァルーズシャツでも素材の違いでスタイルに変化をつける。

もともとのワークウェアだったり、ベーシックなアイテムを、デザイナー佐原は、どう解釈して多様な女性に合うものへと落とし込むのか。

Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor
Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor

「例えば、シャツはできるだけデザイン的な要素を削ぎ落とし、定番で長く着られるものにするため、クラシックな方向でありながら、襟を小さめにしたり、少しウエストをシェイプして、女性らしい柔らかさを残して、ボタンを開けて着ても、タックインしても様になるようなパターンに仕上げました。デニムシャツもカジュアルというよりは、ボウタイをつけて、クラシックで女性らしさをプラスしました。また、メンズの印象が強いオックスフォード地は、ドレスアップする時にはきれいなシャツという見え方なのに、洗いざらしのまま着ても成立する素材なので、その生地特有のストーリーや機能面の特長に着目しました」

ファーストコレクションでは、これまでのデニムからの流れや、ワークウェアの原点としての機能美に惹かれるというように、デニムと王道のコンビネーションのようなシャツやジャケットが中心だった。アイテムが変わっても目指すものは変わらず、働いて暮らしている今の女性の、生活スタイルを意識した服作り、ということが根底にある。

確かに、若い頃は、攻めたファッションをしていたし、時にはドレスアップするような場面もあるが、歳を重ねた自分の普段の暮らしはというと、もう少しカジュアルで力も抜けている。服選びにおいても気づくと、デザインありきではなく、着心地のよさと調和する出過ぎないデザインの匙加減を求めている。トゥ エ モン トレゾアの服は、そんな普段の暮らしのほうに寄り添う服でありたいという。

Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor
Photography: Daisuke Hamada, Courtesy of the artist and Tu es mon Tresor

「暮らしの背景、時間の過ごし方、自然のある場所に心が惹かれています。実際、自分は都会で時間に追われて暮らすこともありますが、もう少しゆったりと生活を楽しむ心の豊かさを大切にしたい。華やかだったりきらびやかというより、心地よさのほうを重視した、暮らしに寄り添うものでありたいと思っています。そのなかで美しさとはどういうことなのか考え、そこから柔らかさとか、素材の使い方など、兼ね備えるような服作りをしています。
以前、 アンドレア・ジッテルという大好きなアーティストの家を訪問したときに、私の目指す美しさの表現がここにあると思いました。それほど生活そのものが本当に素晴らしかった。彼女は建物、家具、洋服も自分で制作し、日々の暮らしのあらゆる側面を網羅するアーティストで、今は、いろんなアーティストに制作してもらう工房を構え、コミュニティや街にまで広がっています。洋服の背景には生き方や暮らし、環境があり、ライフスタイルと切り離せないものだと思うので、やはり洋服だけというよりも、女性を取り巻く空間、世界観からすべて作っていけたら素敵だなと憧れます」

Tu es mon Tresor Pop-up Shop at BIOTOP
会期/2025年9月27日(土)〜10月5日(日)
場所/BIOTOP 東京都港区白金台4-6-44

Tu es mon Tresor
URL/https://ja.tu-es-mon-tresor.com/

Edit&Text:Masumi Sasaki

 

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