平成が始まる1989年から2010年に至るまで。社会が転機を迎えるなか、日本の現代アートはいかなる輝きのもとに、今という時代を導いたのか。国立新美術館と香港の美術館M+との協働キュレーションによる、意欲的な企画展。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年10月号掲載)

かねてから感じてきたことがある。“人気”や“有名”などのわかりやすい言葉に、私たちは流されがちだ。仮に事実だとしても、なぜそういえるかを考えなければ、声の大きな人の思惑にはまる。その行き着く果てが、極論や偏見の渦巻く時代状況だとしたらどうだろう。思うに現代アートは、こうした一面的なわかりやすさに釘を刺し、多面的な見方を喚起する。ならばその軌跡をたどることは、どんな時代を経て今があるのかを偏りなく考える、一つのきっかけになるはずだ。




本展のタイトル「時代のプリズム」は、光をさまざまな波長に分解する分光器=プリズムに現代アートの役割をなぞらえたもの。国立新美術館と、アジア有数の規模を誇る香港のM+との協働により、平成が始まる1989年から2010年にかけて日本で生まれた美術表現に焦点を定め、多面的な理解を試みる。この20年間は、冷戦体制が終焉し、グローバル化が進む一方で、経済成長を遂げた日本への注目が高まり、ポップカルチャーを取り込んだ新世代作家が登場し、大型美術館や世界を目指すギャラリーが登場するなど、今へつながる重要な時期。参加作家は会田誠、マシュー・バーニー、ダムタイプ、森村泰昌、村上隆、奈良美智、大竹伸朗、束芋、ヤノベケンジら、国内外50組以上。その七色の軌跡から、いまだ見ぬ時代の輝きが見えてくる。
「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」
同館のアジア地域パートナー美術館M+(香港)との協働キュレーションにより、1989~2010年の日本における国内外50組超の美術表現を検証する。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/9月3日(水)~12月8日(月)
会場/国立新美術館
住所/東京都港区六本木7-22-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.nact.jp/exhibition_special/2025/JCAW/
Edit & Text : Keita Fukasawa
