デザイナー交代へのカウントダウンが始まった今シーズン。長く続いてきたファッションの常識が、ここで大きく塗り替えられるかもしれない。しかしデザイナーたちは、この変化を恐れるどころか、“次なる進化”への一歩を力強く踏み出している。ブルジョアコードを更新する淑女スタイル、力強さと女性らしさを兼ね備えるテーラリング、色彩とディテールで未来を描く最新ルックたち。現地で取材したエディターの視点から、今シーズンを象徴する10のキーワードを紐解く。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年9月号掲載)
reporters
水戸美千恵:編集長。 国連などなかなか入る機会のない場所でのショーも楽しみ♡
岸本佳子:ファッション・ディレクター。念願のLimeバイクデビューを果たし、やっとミラノの街を身近に感じられるように!
梶山史織:コントリビューティング・ファッション・エディター。 コレクション中にローカルフードを発掘するのも抜かりなく達成。
1. MODERN ELEGANCE STYLE
今シーズンの淑女スタイルは、守りに入らない。レディーライクに潜む攻め感が、新たなブルジョアコードを更新する。

水戸美千恵(以下M)「今シーズンのパリとミラノでは新たな淑女スタイルが本当に印象的でしたよね。クラシックでブルジョアなムードなのに、どこか攻め感が漂っていて」
岸本佳子(以下Y)「ディーゼルのセットアップがその象徴でした。Y2Kを極めていたグレン・マーティンスが提案するミディ丈のイタリアンレディ風ツイードって、ある意味一番モードだった気がします」
梶山史織(以下S)「マックイーンも素敵でした。ウエストをしっかり絞ったロングコートに大胆なスリットを入れていて、正統派レディを崩すバランス感が絶妙でした。コルセットっぽいデザインもあって、クラシックだけど少し毒っ気がある」
Y「どちらのブランドもホワイトのコンタクトレンズをしていたり、マスクをつけていたり。今季のランウェイはクラシカルな中に、違和感で魅せる演出が目立っていて面白かったです」
M「そしてミュウミュウのコーンブラをインナーに仕込んでくるあの感じ。いわゆる普通のボディにフィットしたビスチェスタイルではなく、バストトップがやや上にあって、新しいボディラインを作っている。ブルジョアなのに攻め感があって、しかも嫌みがないのがミュウミュウらしかったですね」
S「淑女スタイルも従来のように保守的ではなく、よりインパクトやウィットがありました。ブルジョアコードをモードに再構築している。今回のコレクション全体のムードが全体的にそちらに傾いているなと感じます」
2. GENTLEWOMAN PAOWER SUIT
性別を超えて、女性のためのテーラリングへ。構築的でありながらしなやか、そんなバランスが今シーズンの鍵となる。

S「テーラリングは今シーズン、本当に存在感がありました。ジバンシィのアワーグラスシルエット、肩をぐっと張ってウエストを絞るあのラインは秀逸!」
M「まさにパワーテーラリングという感じでした。強さだけじゃなくて、女性らしい美しさも表現されていて。マリーン・セルは洗練されたスタイルに、ワイルドさと官能的なエッセンスをちりばめていました。ステラ マッカートニーはモダンでクリーンなテーラリングが登場。オフィスビルをショー会場に、現代の働く女性像をアップデートしてました」
S「ディオールのジャケットは、ヨーロッパ中世の時代背景を感じさせるディテールで我が道をいくデザイン。メゾンのサヴォワールフェールによるシルエットが本当に美しくて、格の違いを感じましたね」
Y「パワーショルダーが多いなか、個人的に気になったのはフェラガモです。ジャージー素材のジャケットやチャスターコートが登場して、肩肘を張らないコンフォートを軸にしていました。今シーズンはまさにそのバランスを極めたブランドが多かった印象です」
3. BOHEMIAN CHIC
ロマンティックだけじゃない。ボヘミアンスタイルは、モダンで力強い女性像を描き出す。

M「クロエのボヘミアンシックは本領発揮でしたよね。単なるロマンティックで終わらず、ラグジュアリーなのに軽やかで」
S「一見リラクシングなシルエットなのに、動くとボディラインが露わになって、センシュアルな雰囲気に持っていくデザインが多かったです。個人的にロマンティックすぎるアイテムはなかなかチャレンジできないのですが、あの色気とのバランスならトライしてみたいです」
Y「エトロも良かったです。クラフト感と神秘的なムードがあって、これぞ王道ボヘミアンという感じでした」
M「70年代ムードが戻ってきていて、ワイドパンツやプリントブラウスなど、ただヒッピーライクじゃなくて、どこか知的で芯がある女性像が浮かび上がっていましたね。ワードローブに溶け込むピースが勢揃い!」
4. MOB WIFE STYLE
ファーライクで魅せる、進化系ラグジュアリー。モブワイフスタイルは、強さと色気の最終形態。

Y「モブワイフスタイル(マフィアの妻)は、今シーズン結構出てました。ドルチェ & ガッバーナのあのランジェリーにファーコートのスタイリング、完全にギャングスターの奥さんって感じでした。トロフィーワイフ的なお飾りの奥さんではなく、物申すタイプの芯のある女性! 色気とパワーを同時に見せつける感じが今っぽいです」
M「フェンディやクロエも、ビッグシルエットのファーコートを羽織って、中はコンパクトなドレス。こういうギラッとしたラグジュアリーの提案がグラムールの再来を感じました」
S「ジルサンダーやフェラガモは、シアリングをあえてザクザクと切りっぱなしにしている感じが新鮮でした。従来の“シアリング=ゴージャス”というイメージをラフさで刷新していて、今シーズンらしいモダンな提案でしたよね」
5. STATMENT FRINGE
フリンジはもはや装飾ではない。歩くたびに生まれる陰影が、女性の芯の強さを映し出す。

M「今シーズンのフリンジは、今までみたいにパンクや攻撃的な感じではなく、モダンな“纏うフリンジ”でした。全体的にマキシマリズムのムードもあるから、ワンポイントというより、ロングなフリンジを大胆に使っているルックが多かったです」
Y「ジルサンダーのフリンジスカートも歩くたびに揺れて、でも決して派手すぎなくて。しなやかな女性らしさを引き立てる感じがありました」
S「バーバリーはニット素材でインパクトのあるボリューミーなフリンジを出していて面白かったですし、ステラマッカートニーはドレスから植物が生えているかのような生命力を感じさせるフリンジがあって。ブランドごとにアプローチが全然違うのも今シーズンならではでした」
6. LAYERED NONCHALANCE
素材と色の引き算が作る、新しい奥行き。レイヤードは静かに、確実に進化している。

M「デイリーに取り入れたくなるようなベーシックアイテムのレイヤードが気になりました。特にエルメスは、ニットオンニットとかカーディガン巻きで、シンプルなのに奥行きがあって」
Y「そうそう。ザ・ロウはシャツやコートにさりげなくニットを重ねていましたね。どちらかというとザ・ロウのレイヤードは誰にでもすぐに取り入れやすいと思います」
S「今シーズンは異素材ミックスというより同系色・同素材でのレイヤードが目立ちましたね。マックスマーラやトッズなどは、編み方やトーンの絶妙な違いでスタイリングに立体感を演出していて、テクニックを感じました」
M「レイヤードって足し算に見えて、今シーズンはむしろ引き算の美学でしたよね」
7. INTELLECTUAL BROWN
ブラックより柔らかく、グレーより強い。ブラウンは今、最もモダンで知的な色。

M「ブラックに代わるニュースタンダードとして、今シーズンはブラウンがとても印象的。マックスマーラやプラダも、ブラウンのワントーンコーデで圧倒的でした」
S「どのブランドも同じブラウンでも素材を変えて陰影をつけていて、すごく上品でした。落ち着いてるのに攻めた感じもあって」
Y「ブラウンといえどもトーンが幅広いので、自分に合うものを選ぶなど、実は着こなしにテクニックが要りますよね。でも今シーズンはあえてストイックに全身ブラウンでまとめる提案が新鮮でした。今までとは違う、新しい品の良さみたいなのが漂っていたように思います」
8. EMPOWERED RED
赤はただ華やかなだけではない。恐れずに纏うことで、生命力そのものになる。

Y「レッドもブラウンに続く、今季のキーカラーですね。アウターからドレスまで赤のアイテムが数多く登場していて、レッドラバーとしてはたまりません。実はファッションウィーク中に感化されて、スポーツマックスで赤のセットアップを購入してしまったほどです。シャネルのレッドルックは、クラシックなツイードのセットアップだけど、チューブトップで肌とのバランスが絶妙でした」
M「全身赤って勇気がいるけど、今シーズンのムードにはすごく合ってると思います。マックイーンのドレスも素敵でしたね」
S「真っ赤なフェザーで覆われたフェラガモのドレスが印象的でした。フェザーが下から上に向かって縫い付けてあって、まるでメラメラと燃える炎のような、静かな生命力を感じます」
FUTURISTIC EYEWEAR
顔の一部ではなく、コーディネートの主役に。未来感あるアイウエアが、今年のスタイルを完成させる。

M「アイウエアはフューチャリスティックなデザインが豊作。MM6やバレンシアガのアイウエアも、攻めているのにスタイリングに落とし込みやすそうでした」
S「今シーズンの2大トレンドである淑女スタイルとテーラリングのクラシックなスタイルに、近未来感のあるアイウエアを合わせるだけで、モード偏差値が一気に上がりますよね」
Y「ジュエリーって今とても価格が高騰しているから、一点投入に課金すべきはアイウエアなのかもしれない。ピタッとコンパクトなウェアに、顔周りがオーバーサイズのアイウエア。ジバンシィのようなバランス感がまさにです!」
SHOES ELEGANCE
足元から生まれる品格。コンパクトな足元が、女性らしさを最大限に引き出してくれる。

M「今シーズンはパンプスが戻ってきていました。今までプラットフォームやデコラティブなデザインでボリュームを持ってくるスタイルが多かったけど、足元がコンパクトになっていて。足元を華奢にすることで、クラシックでモードな女性像がより引き立っていた印象です」
Y「ポインテッドトゥやキトゥンヒールなど、ノーブルな印象の女性らしい足元を演出してくれるので、ヌメロが提案するスタイリングには欠かせないですよね」
S「ミュウミュウやグッチのようにパンプスにソックスやタイツなどのレッグウェアを合わせるスタイルも良かったですよね。素足で履くのとはまた違った抜け感や遊びが出ていました」
M「こうして振り返ると、今シーズンはクラシックを刷新する挑戦が随所にありましたよね」
Y「ファッションが次の時代へと進むターニングポイントを感じました」
S「過去を超えていくデザイナーの挑戦心が、今季のキーワードだったと思います」
Edit & Text:Shiori Kajiyama
