マドモアゼル・ユリアがファッションで読み解く“春画”の世界 「新宿歌舞伎町春画展」 | Numero TOKYO
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マドモアゼル・ユリアがファッションで読み解く“春画”の世界 「新宿歌舞伎町春画展」

新宿、歌舞伎町の真ん中にある能舞台。鏡板と呼ばれる松の絵を背景に、現在開催されている「新宿歌舞伎町春画展」。「北斎漫画」の世界一の蒐集家にして、春画の蒐集家、浦上満氏のコレクションから江戸時代の春画を約150点展示。その会場で『春画とファッション』について、DJ/着物スタイリストであるマドモアゼル・ユリアが解説するイベントが開催された。聞き手は今回の仕掛け人、令和の蔦重ことSmappa!Group会長・手塚マキとファッション編集者・軍地彩弓。

上流社会の遊びから生まれた春画(枕絵)の世界

軍地彩弓(以下、軍地)「“春画”というとハードルが高く思えますが、今宵は“春画”をファッション視点で読み解きたい、という趣旨でマドモアゼル・ユリアさんに解説をお願いいたします」

マドモアゼル・ユリア(以下、ユリア)「普段、着物のスタイリングや着物にまつわる物事の発信をYouTubeなどで発信しているのですが、今回は着物から見る春画の世界を探っていきたいと思っております」

手塚マキ(以下、手塚)「今回、この展覧会で展示しているのは江戸時代のものです。“春画”と一括りに一般的に呼ばれるようになったのは明治期からで、江戸時代は“枕絵”や笑い絵“と呼ばれていました。江戸初期ですと、菱川師宣、鈴木春信あたりが有名ですね」

ユリア「ここにある江戸初期の春画は、背景が無いのが特徴ですね。その分、着物にいろんな情報が詰まっています。たとえばこの作品(図版1)は黒式尉と呼ばれる黒い能面や鈴、松の描かれた扇が描かれていて、能の『翁』をモチーフにしていることがわかります」

図版1:鳥居清信/墨摺/江戸時代前期/浦上蒼穹堂蔵
図版1:鳥居清信/墨摺/江戸時代前期/浦上蒼穹堂蔵

手塚「そうですね、初期から中期にかけては大河ドラマ『べらぼう』でも描かれていたような狂歌に興じるインテリ層から広まっていたようなんです」

ユリア「この時代の浮世絵では菱川師宣の“見返り美人”などが有名ですが、背景がないんです。その分、着物の柄や髪型から描かれた人の背景や季節が想像できますね。この時代の着物は刺繍や絞りに加え、友禅染が確立されたばかりの頃。どんな技法で作られた着物なのかを考えるのも楽しいです」

手塚「江戸時代の初期と後期で春画をみる対象が変わってきますね。先ほど話したみたいに、初期はインテリ層から広がるものだったと思われますが、中期以降蔦重などの版元の商才、大衆の識字率の上昇など、環境的要因によって多くの人が浮世絵を見るようになったと思われます。それによって背景の中に誰もが楽しめるようなわかりやすい風俗や風景、物語が沢山描かれるようになったのかなと」

着物の素材や、透け感まで
春画に描かれる浮世絵の超絶技巧

軍地「今回特にユリアさんが気になった絵を教えてください」

ユリア「一枚目はこちらです(図版2)。春画の中にはいろんな着物の柄が描かれていますが、こちらに描かれているのは有松絞りですねこの絞りの表現は結構驚きでした。また、浮世絵には“空刷り”という手法があって、版木に色を乗せず、今でいうエンボス加工のように凸凹だけを刷り出す技法があります。着物の地紋を表現していて、半衿や無地の部分によく使用されているようでした。夏の薄物である絽や紗の着物は透け感が特徴ですが、版画でのその繊細な表現には驚かされます。現代の私たちに当時の着物の色柄や着方の流行を現代でも伝えてくれます」

図版2:柳川重信 色摺半紙本『恋のかけはし』上中下(部分)/天保3年(1832)/浦上蒼穹堂蔵

江戸の粋は弁慶格子と縞柄

ユリア「2つめはこちら(図版3)です。背景に大きな格子柄が描かれていて、画面がとてもモダンです」

図版3:歌川派 ⾖判『⻑煙管を持つ遊⼥と客』/錦絵/江⼾時代後期/浦上蒼穹堂蔵
図版3:歌川派 ⾖判『⻑煙管を持つ遊⼥と客』/錦絵/江⼾時代後期/浦上蒼穹堂蔵

軍地「この当時、格子柄は流行だったのでしょうか?」

ユリア「この大きな格子は“弁慶格子といわれていて、歌舞伎の『夏祭浪花鑑~釣船三婦内』でも有名な柄ですが、着物の柄として流行った柄です。また春画の中に描かれる着物には縞柄が多いですね。縞を細く細く版木で描いていて、ここも超絶技法です」

軍地「髪の毛の表現もすごいですよね」

ユリア「髪型も櫛もすごく精密に表現されています。特に髪飾りを見ると女性の職業が分かります。お姫様の髪飾りや、花魁のかんざし、町娘の髪飾りなど、見ているだけで本当におしゃれで」

派手だけではない、江戸の贅
春画に秘めた美の世界

ユリア「そして、3枚目が勝川春潮の『紅嫌い』の一枚です(図版4)。裾に源氏香の柄が描かれた黒の振袖を着ています。江戸時代、奢侈禁止令が何度か発令されていて、その影響で派手な色や柄が禁止されました。その影響で黒留袖が生まれたと言われています。上半身は無地で、裾にだけ柄を描いた『江戸褄模様』は現在の黒留袖の原型といわれています。また同様にこの頃、これまで武士の身に付けていた江戸小紋柄が発展しました。一見無地に見える精緻な小紋にすることで、派手には見えなくても、実は贅を尽くしている、こういう江戸の粋が生まれた時代でもあります」

図版4:勝川春潮『⽋題組物』/⼤判錦絵/天明〜寛政年間(1781〜1801) /浦上蒼穹堂蔵

手塚「後期の国芳や国貞の春画は赤が印象的ですね」

ユリア「赤い襦袢がよく描かれています。やはり赤は性的にも鮮やかな色。デザインとしてもとてもインパクトがあります」

ファッションもジェンダーも
おおらかな江戸を楽しむ

軍地「大河ドラマの『べらぼう』を見ていると、当時の蔦重のような版元がプロデュースする浮世絵が、ファッション雑誌のような役割をしていたのだと思います。着物だけじゃなくて、髪型や、ヘアアクセ、持ち物とか、流行を作る手段だったんだと。春画を見ていると今に通じるセンスがあって、とてもおしゃれですよね」

ユリア「そこが着物の醍醐味ですよね。300年以上前のファッションが色褪せない。柄や色彩、小物づかいはとても洗練されていて、むしろ現代の目にも驚くほどモダンに映ります」

手塚「ジェンダーについても今以上におおらかですよね。男性・女性、男性同士、女性同士、混合もある。歳の差カップルも、とにかくなんでもあり」

軍地「そう! 性に対して垣根がなくて、おかしいくらい誇張されていて、だから笑って見られるから“笑い絵”って言われていたのも納得ですね」

ユリア「春画っていうとちょっと怖いもの見たさ、みたいなものがあるかもですが、着物を見るだけでこんなに情報にあふれていて、面白くなるんだって、思いました。今回の展示は内容が濃く、歌麿や北斎など名作もたくさん展示されているから、多くの方に気軽に見に来ていただきたいですね」

※今回掲載されている図版は一部のみを掲載しております。全体の絵柄については、ぜひ会場で鑑賞ください。

「新宿歌舞伎町春画展」
会期/2025年7月26日(土)~9月30日(火)
休館/月曜日 ※ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休み
月曜開館日:8月11日、9月15日、火曜休館日:8月12日、9月16日
時間/11:00~21:00/土日祝 10:00~21:00
※入場は閉館時間の30分前まで
会場/新宿歌舞伎町能舞台
東京都新宿区歌舞伎町2-9-18 ライオンズプラザ新宿 2階
第二会場 第2会場+グッズショップ
東京都都新宿区歌舞伎町1-2-15歌舞伎ソシアルビル 9階
新宿歌舞伎町能舞台から徒歩数分

※日時指定予約制
入場料/一般 ¥2200
https://www.smappa.net/shunga/

 

Photos: Marina Maekawa, Daiki Ito (Smappa!Group) Text: Sayumi Gunji

Profile

マドモアゼル・ユリア MADEMOISELLE YULIA 10代からDJ兼シンガーとして活動を開始。現在はDJのほか、着物のスタイリングや着物教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活動中。 著書『おとなの半幅帯結び コーディネートブック』(世界文化社)。YouTubeチャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。Instagram/@MADEMOISELLE_YULIA
手塚マキ Maki Tezuka 歌舞伎町でホストクラブ、BAR、飲食店、美容室など20数軒を構える「Smappa! Group」の会長。1977年、埼玉県生まれ。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。96年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動をおこなう一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし、話題に。2018年12月には接客業で培った“おもてなし”精神を軸に介護事業もスタート。近著に、『新宿 歌舞伎町」(幻冬舎)がある。
 

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