
日本から最も近い隣国の一つ、中国。2024年11月よりビザの免除措置が始まり、その距離は心理的にもぐっと身近なものとなった。コロナ禍を経て目覚ましい発展を遂げた中国の今を、最大の国際都市である上海、そして古都・蘇州の最新高級ホテルと、話題のスポット、レストランとともに紹介したい。
西洋と東洋の文化を融合した絶景ホテル「セントレジス オン ザ バンド 上海」へ

東京から約3時間のフライトでたどり着くメガシティ、上海。富裕層も多く訪れるこの地には、近年数多くの最高級ホテルがオープンしている。その一つが、2024年10月にオープンした「The St. Regis on the Bund, Shanghai(セントレジス オン ザ バンド、シャンハイ)」だ。

1904年にニューヨークでジョン・ジェイコブ・アスター4世が創業し、世界に65軒を展開する「セントレジス」。現在は、マリオット・インターナショナル傘下のラグジュアリーグループの一員だ。参考までにお伝えすると、マリオットのラグジュアリーグループホテルは日本に18軒あるが、中国(香港、台湾も含む)には78軒もある。このことからも、中国が世界中のラグジュアリートラベラーが集う、インターナショナルなディスティネーションであることが窺えるだろう。

「The St. Regis on the Bund, Shanghai」が位置するのは、租界時代の歴史的建築物が並ぶ黄浦江西岸の一帯を指す外灘(現地読みでワイタン、通称バンド)。目と鼻の先に上海最大の観光名所である外灘があるほか、江南式庭園の「豫園(よえん)」も徒歩圏内と観光にとても便利な立地だ。

ホテルのデザインは、アール・デコスタイルに、上海の文化要素をミックス。上海の黄金時代と言われる1920年代から1930年代の風情や、上海の市花であるマグノリアにインスパイアされたシャンデリアなど、様々なアート作品が館内を彩る。

客室は全192室あり、うち13室がスイートルームだ。豪奢なシャンデリアや猫足のバスタブといった西洋的なデザインの中に、漆塗りの調度品や花鳥画など、中国のエッセンスが調和し、唯一無二の優雅さを生み出している。

窓の外には、黄浦江を行き交う船や、外灘のきらびやかな夜景、「豫園」の緑など、「これぞ上海」といったベストビューが広がる。人で賑わう観光地へ足を運ばずとも、客室で寛ぎながら、この絶景を独り占めできるというのはこの上ない贅沢だ。

ブランド設立当初から続く「セントレジス・バトラーサービス」もこのホテルならでは。衣類のプレスサービスや、ドリンクのルームサービス、荷解き&荷造りなど、一人一人に合ったパーソナルなサービスは上海でも健在だ。
毎晩ロビーで行われる、サーベルを使ってシャンパンを開栓するセレモニー「イブニング・リチュアル」もアイコニックなサービスの一つ。ゲストはシャンパン片手に、夜の訪れを祝福するかのような時間が過ごせる。
伝統のアフタヌーンティーや、淮揚料理、ブラディ・マリー発祥バーやスパで至福のひととき

黄金時代の上海をモチーフにした大壁画が目を引く「The Drawing Room」では、「セントレジス」ならではのアフタヌーンティーをぜひ。上海の風情を織り交ぜたクラシカルなアフタヌーンティー(888人民元)を、ヴーヴ・クリコのグラスシャンパーニュ(2杯)とともにいただける。創業者のキャロライン・アスター夫人がニューヨークの社交界を牽引した、ティーパーティーの伝統と格式高さを実感できるはずだ。

ディナーはホテル内の中国料理店「Celestial Court」へ。広東料理のエッセンスも取り入れた淮揚(わいよう、現地読みでファイヤン)料理のレストランだ。実は、シグネチャーダイニングが上海料理という上海の高級ホテルはほとんどないという。

醤油を使った甘い味わいの上海料理は日本人には親しみやすいが、世界的にはそこまで人気が高くない。ほとんどのホテルが北京料理、広東料理、四川料理、そして淮揚料理をシグネチャーダイニングに据えている。
「Celestial Court」では、金魚を模した蟹点心がスープの中を泳ぐ料理や、煮込んだアワビを乗せたチャーハンなど、中餐行政総料理長が織りなす繊細で美しい料理が並んだ。

さらに「セントレジス」を語る上で欠かせないのが、「The St. Regis Bar」だ。ウォッカとトマトジュースを使ったカクテル「ブラディ・マリー」は、1934年に「セントレジス・ニューヨーク」のキング・コール・バーで働いていたフェルナンド・ペティオ氏によって生み出されたという逸話がある。

洗練されたホテルのイメージを損なわないよう現在は「Red Snapper」と改名され、各地でローカライズされたブラディ・メアリーがシグネチャーカクテルとなっている。「The St. Regis on the Bund, Shanghai」では、レモンジュース、セロリをインフューズしたウォッカ、五香紛、キンモクセイのシロップを使った「Bund Snapper」を味わうことができる。

一日の終わりには「セントレジス・スパ」でとっておきのトリートメントを。60分のボディトリートメントに、ホットバス、スチームサウナ、ドライサウナの利用も含め、日本円で約3万円(1480人民元)と5つ星ホテルなのにお値打ち価格だ。
セントレジス オン ザ バンド 上海
住所/538 Zhongshan Dong Er Rd, Huangpu District,Shanghai
TEL/+86 21 5368 8888
URL/www.marriott.com/en-us/hotels/shaxb-the-st-regis-on-the-bund-shanghai/overview/
上海で今行くべき、新旧定番観光スポット

上海と言えば歴史的観光地、租界時代の古き良き建物が立ち並ぶ一方、経済発展をけん引する最先端の街という顔も持ち、新旧入り混じる雰囲気が魅力。そんな上海らしさを感じられる観光スポットの一つが「静安寺」だ。

高層ビルが立ち並ぶ近代的な商業エリアに位置する寺院で、三国時代の247年に呉の孫権によって創建されたと伝えられている。本堂にあたる「大雄宝殿」には、高さ約4メートル、重さ10トンにも及ぶ中国最大級の玉仏(翡翠の仏像)が鎮座。明代に作られた銅鐘「洪武大鐘」なども見どころの一つだ。

「静安寺」の周辺は繁華街にもなっており、飲食店も多く立ち並ぶ。中でもおすすめは、ミシュランガイドで一つ星を獲得した「人和館」。上海名物の小籠包やトンポーロー(豚の角煮)に加え、「タウナギ(黄鳝)醤油ニンニク炒め」が絶品なのでぜひオーダーを。唐辛子的な辛さがなく、甘塩っぱい醤油味が日本人の舌によく合う。

静安寺から南西に進むと、外灘と並んで上海で今最も観光客に人気のある「武康大楼(ウーカンマンション)」にたどり着く。旧フランス租界地区に位置するこの建物は、ハンガリー系スロバキア人の建築家ラースロー・フーデックが設計した、1924年建立の上海最古のベランダ式集合住宅だ。レトロで風情があるこの建物がSNSで広まり、現在中国人をはじめとし、観光客に大人気のフォトスポットとなっている。

周辺の五原路(ウーユアンロード)には、租界時代のレトロな建物をリノベーションした、おしゃれなカフェやショップが立ち並ぶので、散策するのもいいだろう。

上海は中国一の美食都市であり、中国各地の本格的な料理が一堂に会する場所でもある。今回は「ミシュランガイド2024成都」で一つ星を獲得した、四川料理の名店「柴門薈」に行ってみた。
薄切り豚肉を使った雲白肉(ウンパイロウ)や、美肌が期待できるというナマコのスパイス煮込み、淡水魚を赤トウガラシや青唐辛子で煮込んだ料理、鶏ナンコツのスパイス唐揚げなどが円卓に並んだ。
麻辣を利かせた本格的な味わいでありながら、爽快な後味で、上品な仕立て。辛さを使って、様々な食材の新たな美味しさを見せてくれるという、四川料理の真髄を見た。

夜は黄浦江のナイトクルーズで、外灘に立ち並ぶ歴史的建造物と、近未来的な摩天楼のライトアップが織りなす煌めく夜景を堪能。歴史と現代が交差する、上海のダイナミズムを感じられる王道観光なのでぜひ。
上海から高速鉄道で約30分「東洋のベニス」蘇州へ

上海を訪れたならば、高速鉄道に乗って約30分でたどり着く古都・蘇州も訪れてみてほしい。かつてマルコ・ポーロが「東洋のベニス」と称賛した通り、長江三角州の中心に位置し、西に太湖があり、運河が張り巡らされた街だ。蘇州屈指の風情を誇る歴史地区・山塘街の散策や、運河クルーズをすれば、美しいカナルシティであることを実感できるはずだ。

蘇州の歴史は春秋時代、紀元前514年に周囲25キロメートルの城壁を持つ、都城を築いたのが始まりと言われている。歴史的建造物も多い古都で、太平王国時代に王府がおかれた場所に建つ「蘇州博物館」では、蘇州周辺の出土品を数多く見ることができる。

また庭園都市という顔も持つ蘇州には、江南式庭園が点在。明代に造園された蘇州四大名園の「拙政園」など、複数が世界文化遺産に登録されている。

蘇州は唐代以降、シルク産業で栄えた町としても有名だ。現在でも「蘇州刺繍研究所」などで見学や刺繍体験ができ、その技術力の高さを実感できる。

今回蘇州で宿泊したのは、2025年3月18日にオープンしたばかりの「ザ・リッツ・カールトン蘇州」。ホテルが位置するのは、市の中心地である姑蘇区(こそく)に新たに開発された「チャイナ・セントラル・プレイス蘇州」の中核だ。世界遺産の留園や山塘街といった歴史的名所へも徒歩圏内、高速鉄道の蘇州駅からもわずか3キロメートルと、旅の拠点としてこの上ない利便性を備えている。2025年末にはホテルの目の前にショッピングモールもオープンする予定だという。

著名な建築設計事務所KPF(コーン・ペダーセン・フォックス)が手掛けた外観は、蘇州の伝統的な建築要素である青い瓦屋根や屏風、さらには中国絵画の「余白」の美学を現代的な手法で再解釈した、印象的なデザインだ。

一方、インテリアデザインは世界的な建築家ピーター・レメディオス氏によるもの。かつてこの地を潤した絹貿易の歴史や、蘇州らしい古典庭園へのオマージュが随所に散りばめられている。

白壁と黒タイルのコントラストが際立つ落ち着いたニュートラルな色調、精緻な格子窓、絹から着想を得た装飾モチーフが、蘇州の豊かな文化遺産を思わす。

客室は全190室。そのデザインは、白地に黒のラインで輪郭をシンプルに表現する、蘇州の建築的ミニマリズムに着想を得ている。

306平方メートルを誇る最高級の「ザ・リッツ・カールトンスイート」は、緑豊かな古都の街並みと庭園を望む広大なオープンテラスを完備。

また、クラブルームおよびスイートの宿泊客は、専用の「ザ・リッツ・カールトン クラブ」を利用できる。
1日5回のフードプレゼンテーションや、アーティストのJUJUWANG氏とコラボレーションした数量限定のアフタヌーンティーなど、エクスクルーシブなサービスが魅力だ。
上海蟹も実は蘇州生まれ!「淮揚料理」をはじめとした江蘇省の美食を満喫

スペシャリティレストラン「Alkanna」は、モダンなビストロ料理や炭火で丁寧に焼き上げたステーキなどをいただけるヨーロピアンレストラン。

ブッフェスタイルの朝食では、種類豊富なペストリーやオーダー式の卵料理などの西洋料理に加え、蘇州名物の蘇州麺をはじめとした自家製麺、作り立ての点心などの中国料理が豊富にそろう。

シグネチャーダイニングの「Biao Xia」は、地元の新鮮な湖の幸や海の幸を活かした「淮揚料理」がテーマ。上海の段落でも紹介した「淮揚料理」とは、蘇州のある江蘇省や、杭州を擁する浙江省を中心に発展した料理で、上海料理の源流とも言われている。
その特徴は、旬の素材の味と色味を生かした優しい味わいと、見た目にもアーティスティックで美しく、繊細でクリエイティブな料理であること。料理人に求められる技術力も高く、熟練の技が求められる。
実は上海蟹もその産地は蘇州であるように、食材も豊かだ。中でも陽澄湖の毛ガニが最上級の上海蟹と言われている。訪れた夏の「Biao Xia」では、ズワイガニのフライの魚でんぶ和えや、太刀魚のから揚げ、蘇州産の3種の海老を使った麺料理など、食材のうま味を引き出す料理が並んだ。
辛いものがそこまで得意ではない筆者は、中国料理の中で広東料理が一番好きだと思っていたが、今回淮揚料理を初めて味わい「なぜ今まで食べなかったのか?」と後悔したほど。中国を訪れたらぜひ味わってほしいし、日本にも淮揚料理のお店が増えてほしいと願うばかりだ。

蘇州はイエローワインと呼ばれる「黄酒」の名産地でもある。もち米を原料とする醸造酒のことで、日本では「紹興酒」としてご存じの方も多いだろう。実は紹興酒はその名の通り、浙江省の紹興市で造られた産地呼称のお酒。フランスのシャンパーニュ地方で造られる、一定の条件をクリアしたスパークリングワインが「シャンパーニュ」と呼ばれるのと同じだ。しかし蘇州でもクオリティの高い「黄酒」が醸されており、これがまた淮揚料理によく合う。ぜひ訪れたら一緒に味わってみてほしい。
ザ・リッツ・カールトン蘇州
住所/369 Guangji South Road, Gusu District, Suzhou, Jiangsu
TEL/+86 512-69088888
URL/www.ritzcarlton.com/en/hotels/wuxsz-the-ritz-carlton-suzhou/overview/
快適な中国旅行のための旅のTIPS

中国の旅をより快適にするために、いくつか知っておきたいポイントがある。
まず、最も重要なのがインターネット環境だ。中国では政府のインターネット規制により、Google関連サービス(マップ、Gmail等)や、LINE、Instagram、X(旧Twitter)といったSNSは基本的に利用できない。そのため、日本出発前にVPN機能付きのレンタルWi-Fiや、国際ローミング、中国本土に対応したSIMカードなどを手配しておくことが必須となる。

次に、現地の生活に不可欠なのがスマートフォンアプリだ。中国ではキャッシュレス決済が社会の隅々まで浸透しており、現金が使えない場面も少なくない。決済やモバイルオーダーなどもできるスーパーアプリ「Alipay(支付宝)」は必ずダウンロードし、日本のクレジットカードを紐づけておきたい。これにより、屋台での少額決済からコンビニ、レストラン、交通機関までスムーズな支払いが可能になる。
また、地図アプリはGoogle Mapが使えないため、中国で最も普及している「高徳地図(Amap)」をインストールしておくと安心だ。日本語表示には対応していないが、直感的な操作が可能で、ナビゲーションの精度も非常に高い。
タクシーの配車には「DiDi(滴滴出行)」が圧倒的に便利で、Alipayアプリ内からでも利用できる。目的地を文字で入力できるため、言葉の壁を越えてスムーズに乗車できるだろう。
これらのデジタルツールを準備しておくことで、ストレスフリーな中国旅を楽しめるはずだ。
取材協力:マリオット・インターナショナル
※1中国人民元=20.55円(2025年8月19日時点)
Photos & Text: Riho Nakamori
















