各分野のプロフェッショナルたちに、自身のクリエイションを完成するのになくてはならない大切なこだわりの道具を見せてもらった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年7・8月合併号掲載)
Makoto Azuma|東信(フラワーアーティスト)
金髙刃物老舗の花鋏

「鋏の切れ味が花の命を左右する」
Numero TOKYO連載「今月のフラワーアート」でもおなじみのフラワーアーティスト東信が、花を生ける工程の中で最も大切だと語る水揚げ作業。水揚げとは、市場で仕入れたり、刈り取ってきた、いわば仮死状態の花の茎を切り、再び水を吸わせ長持ちさせること。日本にいるときは今でも自ら行うほど、東にとって花に命を吹き込む神聖な儀式だ。鋏の入れ方、切れ味ひとつで持ちが変わってくる。

日々花の命と向き合う東が、「これじゃないときちんと水が上がらない」と絶大な信頼を寄せるのが、京都「金髙刃物老舗」の花鋏。硬く太い枝から柔らかく繊細な花まで、多種多様な植物を扱う東の用途に応える万能な切れ味、手にしっくりと馴染む感覚は他とは全く違うという。3〜5カ月に一度、職人に研いでもらいながら刃が薄くなるまで4、5年使い続け、25年間ずっと愛用してきた、なくてはならない存在だ。

そして、もう一つ、エルメスでオーダーした鋏ケースにも特別な思い入れがある。「花屋を始めた当初からエルメスの店舗の装花を任せてもらっていて、ずっとお世話になっている。いつか自分もエルメスでオーダーできるようになりたいと思い、数年前にようやく叶いました」。このレザーケースは、これまでの感謝の気持ちや、長く使い続けることの大切さ、品質、クラフトマンシップへのこだわりといったブランド哲学に対する敬意の表れであり、自分の思うところに到達できた証しでもある。これらの道具と共に、この先も花の命をつなぎ、その美を追求していく。
Photos:Shunsuke Shiinoki Edit&Text:Masumi Sasaki

