ファッションは、ただ「見せる」ための衣ではない。自分という存在を形づくり、語るための手段でもある。ミラノを拠点に活動する写真家リタ・リノは、2025年秋冬コレクションのキールックを通して、「纏う」という行為に宿る身体性とアイデンティティの輪郭を、繊細かつ緻密な視点で捉えた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年9月号掲載)



ミュウミュウが提示するのは、衣服を通して“女性であること”を見つめ直す新たな視点。インパクトある赤の構築的なシルエットのセットアップには、今季のキーアイテムのひとつであるコーンブラを忍ばせ、クラシカルな佇まいにさりげないエッジを添える。ジャケットとスカートの背面に施された同系色のロゴが、静かな余韻を残す。

旅立ちの高揚、恋人との再会、別れの余韻、そしてビジネスの緊張感──駅という舞台から生まれる幾つもの物語を、ランウェイで表現したルイ・ヴィトン。赤と黒のチェック柄のドレスは、トラッドな要素を取り入れつつ、ストールと一体化したデザインが印象的。シルバーのヒールシューズが、装いに鮮やかなコントラストを生む。

ソフィア・コッポラ監督の映画がインスピレーション源となったヌメロ・ヴェントゥーノのコレクション。コンパクトなシルエットに大きなボタンをあしらったコートは、リアルクローズとしての実用性に、モードなエッジが加わっている。足元に華奢なサンダルを合わせれば、繊細さと洗練を併せ持つ女性像を引き立てる。


現代が抱える「闇」を、希望という「光」へと導くストーリーを描いたジル サンダー。ブラックのオーセンティックなジャケットに合わせたのは、スカートのように見える巧妙なベルトアクセサリー。時代を超えても色褪せない緻密なデザインがひときわ目を引く。シャープなシルエットの中に、しなやかな強さが宿る。

プラダのショーは「女性らしさとは何か」という問いに向き合う試みとなった。女性らしさや美の概念が常に変化し続けているいま、その多様性を映し出しながら、その定義そのものを改めて問い直している。フェミニニティの象徴であるドレスは、切りっぱなしに仕上げ、あえて崩したバランスを取り入れることで、見るものに違和感を与えるデザインとなっている。

グッチは、ブランド美学の核とも言える、イタリア独自のスタイル「スプレッツァトゥーラ」をコレクションに巧みに取り入れた。意図的な抜け感と、計算された自然体が共存するルックを発表。重厚感と軽やかさを兼ね備えたコートを主役に、淡いピンクのグローブがやわらかな印象を演出。伝統とモダンが融合したスタイルは、時代を超えた魅力を放つ。

1992年にモスキーノの創業者、フランコ・モスキーノが発表した「マネキン・ドレス」から着想を得て、衣服を仕立てるという行為そのものをファッションへと再解釈した。パフスカートをチューブドレスのように纏い、ブランドが持つ風刺性と反骨精神をスタイリングの中に映し出している。

シャネルのコードを想起させる、巨大な黒いリボンのインスタレーションを背景にショーは幕を開け、透け感のある素材やトロンプルイユのツイード、チュールなどが織りなす幻想的な世界観で魅了した。大きなリボンをあしらったツイードのジャケットにフリルスカートを合わせ、ロマンティックなムードを漂わせて。

「過剰な再創造」をテーマに、日常を非日常へと昇華させるアプローチでコレクションを発表したスポーツマックス。ダブルウールやデニム、フェイクファーなどを用いた、大胆なシルエットのルックが際立った。ワニ革のような柄のフェイクファーコートとストールが放つ、圧倒的な存在感。光沢感のあるロングブーツでコーディネートを完成させて。

ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』から着想を得たディオールのコレクション。文化的、美的、そして社会的にも、衣服が果たす役割の大きさと、その中に秘められた多様な可能性を提示した。繊細なレースが身体のラインに沿ってデザインされたミニドレスは、ウエストをキュッと絞ったシルエットが印象的。大胆に纏ってこそ、個性が際立つ。

バレンシアガは「スタンダード」をテーマに、標準的な衣服をファッションの文脈でいかにひねり、再解釈できるかを探求。ビジネス、デイリー、クチュールといった多様なシーンに向けたワードローブを提案した。顔全体を覆うフェイクファー付きのデニムジャケットは、カジュアルなアイテムをラグジュアリーへと昇華させる象徴的な一着。
Photos:Rita Lino Styling:Fatima Monjas Hair:Sergio Sorbello Makeup:Martina Bolis Model:Ola Pochorecka Producer & Casting:Gigi Set Designer:Lou Rose Edit & Text:Maki Saito
