松尾貴史が選ぶ今月の映画『メガロポリス』

巨匠フランシス・フォード・コッポラ14年ぶりの最新作は、崩壊の危機に直面する近未来のアメリカをローマ帝国に見立てた空前絶後の物語。天才建築家カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)は新都市メガロポリスの開発を推進、理想都市を目指す……。映画『メガロポリス』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年7・8月合併号掲載)

巨匠コッポラの覚悟
賛否両論が巻き起こることは必至の作品を、覚悟して拝見しました。そして、読者の中にはこれを読んで観て憤慨される方がいるかもしれません。しかし私にはすこぶる好みの作品でした。
近未来の架空の都市「ニューローマ」とはなっています。もちろん意図的にそうなっているのだとは思いますが、舞台はニューヨークだと言い切っていいのではないかと思えます。壮大な世界観で、発想の面白さには舌を巻きます。視覚的に凄まじいイリュージョンが繰り広げられ、現代、というよりも未来の都市と古代ローマの壮麗さが重なる、イメージのレイヤーが深度を増したり引いたり自由自在のコッポラワールドです。

80歳を超えてもなおこれほどの創作意欲を持ち続けることには気概を通り越して執念すら感じますが、作らずにはいられない社会状況もあったのではないかと想像します。コッポラ監督が着想を得たのが45年以上前、初期の脚本の読み合わせをやったのが24年前という気の遠くなるような時間と労力を費やして、ここまでやらざるを得なかったのですね。物語には、歴史を想起させる要素と、実は現代で起きているさまざまな問題が盛り込まれています。象徴的なのは、享楽に耽る富裕層と、虐げられている貧困層の格差です。登場人物の中には、トランプ大統領の暴挙を思わせる手法や、「二馬力選挙」を展開して政治を混ぜ返しているあの日本人の行儀の悪さ、仁義なき権力闘争など、実はリアルに世相を反映させています。

視覚だけではなく、音楽にもその世界観が広がります。現代的な音とクラシカルな要素が奇妙なハーモニーを奏でます。衣装デザインにもその両方の要素が取り入れられていますが、概念の打ち合わせをしただけで、コッポラ監督は撮影現場で役者が身に着けるまで楽しみにして、事前にデザインの情報を共有しないように心がけていたそうです。

そこに、素晴らしいキャストの演技が深みを掛け算で増幅させます。アンジェリーナ・ジョリーのお父さんで、大作映画の常連で重鎮のジョン・ヴォイトが、素晴らしい重石になっています。重石といえば、双璧のダスティン・ホフマンがフィクサーの役をいい意味で「らしい」形の演じ方をしていてお値打ちを感じます。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のアダム・ドライバーは時間を操る特殊能力を持つ天才を、その宿敵の市長を『コットンクラブ』のジャンカルロ・エスポジートが演じています。

映画の未来を予感させ、あるいは提案しているかのようにも見えますが、このプロジェクトのために日本円で180億円あまりもの巨費を、代々守ってきたワイン事業の一部を手放してまで用意し、全て私財でこの超大作を作り上げたのです。
『メガロポリス』
脚本・製作・監督/フランシス・フォード・コッポラ
出演/アダム・ドライバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン、ダスティン・ホフマン
6月20日(金)より日本公開&IMAX®上映中
https://hark3.com/megalopolis/
配給/ハーク、松竹 提供/ハーク、松竹
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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito
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