2025年春、埼玉の湖に摩訶不思議な“猫の島”が出現した! 新オープンの美術館・ハイパーミュージアム飯能の展示のため、アーティストのヤノベケンジが作り上げたアート作品だ。謎が謎を呼ぶ宇宙猫の物語へ、いざご案内!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)





ヤノベケンジ インタビュー:宇宙猫の物語が導くもの
今から35億年前、地球に生命の種をまいた宇宙猫たち。彼らはまた、人類のアートの育ての親でもあった……! ヤノベケンジが紡ぐ“宇宙猫の物語”は、私たちに何を語りかけるのか。その秘密に迫る。

「宇宙猫の島」に託した壮大なるヴィジョン


──近年の作品展開には目を見張るばかりですが、本当に島を作ってしまうとは! 驚きました。
「初めてこの場所へ来たとき『湖の真ん中に巨大な猫の島が出現する』というヴィジョンが降りてきたんです。ハイパーミュージアム飯能は自然とデジタルが融合する“超越的な美術館”をコンセプトに掲げており、館長の後藤繁雄さんは昨年4月から続くGINZA SIXのインスタレーション『BIG CAT BANG』のキュレーションも手がけています。オープニング企画の声がけをいただいて、銀座という東京の中心とは対極的な、自然あふれるこの『メッツァビレッジ』の環境でしか実現できないことをやりたいと思いました。そこで、降りてきたヴィジョンを絵にして『これができるなら引き受けます』と伝えたところ、後藤さんとメッツァの望月潔社長から『絶対にやるべきだ』という力強い言葉が返ってきて。さすがにハードルが高いだろうと思っていたので、逆にびっくりしましたね(笑)」
(参考記事)「GINZA SIXの巨大アート、ヤノベケンジ『BIG CAT BANG』トークレポート」


──さまざまな謎がちりばめられていますが、なぜ島が猫の形をしているのでしょう。
「それについては壮大な物語があります。まずは猫のモチーフから説明しましょう。猫はネズミを捕らえて食料を守る存在として船に乗せられ、世界中へ広がりました。これに着想を得たのが、旅の守り神である『SHIP’S CAT』シリーズです。
ここから発展し『生命はどこから来て、どこへ行くのか』という問いを投げかけたのが『BIG CAT BANG』。吹き抜けの大空間に、岡本太郎の代表作『太陽の塔』の形をした宇宙船が浮かび、そこから周囲に約400匹の宇宙猫たちが飛び散っている。地球上の生命の起源は約35億年前といわれますが、実は地球を訪れた宇宙猫たちが生命の種をまき、育てたことで私たち人類が誕生した。燃料を失った宇宙船は今も大阪の万博記念公園に残っている……という妄想ストーリーです。
昨年秋に開催された東京・青山の岡本太郎記念館での展覧会も『私たちの周りにいる猫たちは、実は宇宙猫の末裔だった!』という形で、この物語を掘り下げ、猫を通して見る人の日常に接続を試みました」

(参考記事)「猫たちが岡本太郎記念館をジャック!『ヤノベケンジ: 太郎と猫と太陽と』開催」
──それが今回の「宇宙猫の秘密の島」につながるわけですね。
「そうです。宇宙猫が地球に到着したとき、宇宙船から発進した偵察艇がこの湖に不時着した。母船に戻れなくなった猫はこの場所で孤独を紛らわせるために絵を描き、おびただしい数の作品を残した。それを人類が発見し、旧石器時代に描かれたスペイン・アルタミラ洞窟の壁画に始まり『モナ・リザ』や印象派、ピート・モンドリアンの抽象絵画へと、創造的な文化を発展させてきたのです。人類のアートの起源はこの猫島の壁画にあった……という、美術史にまつわるサイドストーリーが込められています」
“アートの時限爆弾”で社会を変える

──インパクトのある造形に社会的なメッセージが込められているのも、作風の大きな特徴です。
「僕は一貫して『現代社会におけるサヴァイヴァル』を制作テーマにしてきました。例えば『BIG CAT BANG(猫大爆発)』では、ビッグバン=宇宙の始まりと、岡本太郎の言葉『芸術は爆発だ』に表されたイマジネーションの爆発を掛け合わせながら、戦争や環境破壊など、新たな大量絶滅を引き起こしかねない現代社会の状況に警鐘を鳴らしています。そして今回の展示では、AI(人工知能)の時代を迎えるなかで『人間の創造性とは何か』を問い、文化やアートの起源にまつわる物語を描き出した。ミュージアム内では、宇宙猫の作品としてAIを使った絵画を展示していますが、これもテクノロジーとどう付き合い、創造性を発揮していくかという実践の試みです。人間の想像力、妄想する力は、AIには超えられないだろうという確信的な思いも込めています」



──その想像力が人に伝わり、ヴィジョンを実現させ、体験する人々の心を動かしていくわけですね。
「今回の展示でも、湖に浮かぶ猫島を目にして、ボートを漕いで上陸する、というフィジカルな体験が感動につながってくれたらという思いはあります。一方で館内の展示は、僕自身の表現の歴史や文脈をたどる構成です。『SHIP’S CAT』シリーズはかわいらしさとエンターテインメント的な表現が注目を集めがちですが、そこへ至る流れとして、美術の持つ“社会を変える力”に着目して作品を展開してきたことを俯瞰できるようになっています。アーティスト活動を始めて35年になりますが、常に自分の限界を広げるような表現行為を心がけてきました。いちばんの理由は、そうでなければ自分自身が退屈に感じてしまうから。それに加えて、時代の出来事と深く関わりながら、視点を広げてきた経緯がある。例えば、1997年にチェルノブイリ原子力発電所を探訪する際に制作した『アトムスーツ』が、腹話術人形のキャラクター『トらやん』を生み出し、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、太陽を手にした希望の子どもの像『サン・チャイルド』へとつながっていく。心がけてきたのは、必ず希望を提示すること。それが僕のアートの役割だと信じています」
──それだけの原動力を、どうやって生み出してきたのでしょう。
「人間には脳から生まれたヴィジョンを表現し、世の中を変えていく力が備わっている。まさに魔法のような力があるわけです。それを感じることが僕にとって生きる実感であり、使命でもある。何らかの存在によってたまたま、その役割を与えられただけとも思います。それこそ、宇宙猫かもしれませんね(笑)。
なお、僕の原体験は、70年の『大阪万博(日本万国博覧会)』の翌年に会場の近くへ家が引っ越して、閉幕後の取り壊し現場、いわば“未来の廃虚”を見てしまったことにさかのぼります。そこにそびえ立つ岡本太郎の『太陽の塔』に勇気をもらったように、僕自身が未来へ向けてワクワクする時限爆弾を仕掛けられればいいな、という思いもある。夏には“宇宙猫を宇宙に還す”NFTアートプロジェクトとして、宇宙猫を積んだスペースバルーンが茨城県の大洗海岸から飛び立つ予定です。そうやって、やればやるほど新しい展開が開けてくる。今回の展示にも、新たな発見につながる仕掛けをたくさん込めています。ぜひ楽しんでもらえたら、うれしいですね」
【オープニング特別企画展】ヤノベケンジ「宇宙猫の秘密の島」
北欧ライフスタイル体験施設「メッツァビレッジ」内にオープンした現代美術館のこけら落とし展示。敷地内の宮沢湖に出現した「猫島」や広場の彫刻作品に加え、館内では絵本『トらやんの大冒険』『ラッキードラゴンのおはなし』の全原画、映像の特別上映など、活動の軌跡をたどる。なお、猫島への上陸探索ツアーは土日祝、大型連休を中心に実施、平日は限定して催行。詳細はサイトを参照のこと。
会期/2025年3月1日(土)〜2025年8月31日(日)
会場/ハイパーミュージアム飯能
住所/埼玉県飯能市宮沢327-6
TEL/057-0031-066(メッツァ インフォメーション)
URL/https://metsa-hanno.com/hypermuseumhanno/
※最新情報はサイトを参照のこと。
Edit : Keita Fukasawa
Profile

https://yanobe.com/
