旅に魅せられた6人の俳優たち。何が彼らをアクティブにさせるのか。カメラの向こうには未知なる冒険が広がっていた。第4回目は、旅行中はフィルムカメラを愛用しているという井桁弘恵に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

自分の心の動きを第一に考える旅
最初に一人旅をしたのは、22歳で行った群馬の伊香保温泉でした。撮影で近場まで行ったので、「せっかくだから」と一人で滞在することに。食事の時間も気にしなくていいし、行く場所も自由に決めていい。自分の意思だけで決定できる一人旅にとても心が満たされました。旅は現実から物理的に距離を置けるので、普段は考えないことも考えるし、自分の欲にも素直になれる気がします。
一人旅では自分の気持ちを第一に考えたいので、柔軟性を大事にします。予定も事前に細かくは決めません。以前、NYで美術館に行ったとき、想像以上に広くて駆け足になってしまい、十分に楽しめなかったことがあって。予定を詰め込むと、ミッションをクリアすることが一番の目標になりがちですよね。でも、チェックリストを徐々にクリアしていくような旅はあんまり好きじゃないんです。

旅をするタイミングも自分の心の動きを大事にするようにしています。もしも時間が空いていれば、思い立った翌日に出かけることもあるし、出発前日であっても「少し疲れているから、今は旅に出たくないな」と思えば、旅自体をキャンセルすることもあります。気持ちが乗らないまま旅に出ても、アクティブに動けず、楽しめないとわかっているので。
普段は見落としてしまいがちな景色に気づける
Google PixelのCMに出演させていただくようになってから、旅先で写真を撮ることが増えました。元々ミラーレスカメラを使っていましたが、今のスマホカメラは驚くほど高性能なのであえていいものを持つ必要はないと思ったときに、逆にフィルムカメラに興味が湧いて。最近はライカのMiniluxを愛用中です。スマホカメラは何枚も試行錯誤をしながら撮る楽しさがありますが、フィルムカメラは失敗してもそれすら思い出になるところがいいなと思います。撮影できる枚数は限られているので、本当に自分の心が動いた瞬間だけを切り取るのにぴったりなんです。

旅行中はいつも以上に感覚が研ぎ澄まされるのか、普段見過ごしていた景色にも気づけます。だから、撮影した旅先の風景は、これまで知らなかった自分のセンスを知るきっかけになります。山口・萩の松陰神社で撮ったのが、椅子の上に並べられた果実。街で見かけたら素通りしてしまいそうですが、ほのぼのした光景が心に残って、思わず撮っていました。太陽の写真を撮るのも好きです。カナダのイエローナイフに行ったら、その時期は日照時間が5時間程度で、日中も車のライトをつけるほど暗かったんです。そんな薄暗い中で輝く太陽のギャップに惹かれて、シャッターを切りました。

心をアクティブに保つために心がけているのは、普段から無理をしないこと。誰しもアクティブな気持ちを保ち続けるのは難しいですよね。特に大人になると、知識や経験が増えてくるせいか、挑戦する前から「やらなくてもいいか」と自分の行動を制限してしまいがち。でも同時に、そのハードルを越えて挑戦したところに、新たな発見や感動があるんじゃないかなとも思います。疲れたときや気が乗らないときは適度に休みつつ、「これだ」と思うタイミングで全力を出す。そんな柔軟性をいつも忘れないようにしたいです。
Photos:Hiroe Igeta Interview & Text:Haruna Fujimura Edit:Miyu Kadota
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