旅に魅せられた6人の俳優たち。何が彼らをアクティブにさせるのか。カメラの向こうには未知なる冒険が広がっていた。第3回目は、NYに一人旅に行った経験もあるという、深川麻衣に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

絵画的な構図に惹かれる
旅に出るときは必ずカメラを持っていきます。写真を撮ることを目的に旅をするより、旅先で偶然出合った瞬間をフィルムに収めたい。だから、光量やシャッタースピードを自動調整してくれるカメラをよく使っています。学生時代に『写ルンです』で撮ることが好きだったんですけど、2018、19年頃にフィルムカメラ熱が再燃しました。今は仕事に行くときもカメラを持ち歩いています。デジタルも使うけれど、フィルムは現像するまでどんなふうに撮れているのかがわからないし、ブレてしまってもそれが味わいになったり、フィルムならではの面白さがありますよね。カメラの機種によっても色みが変わるし、映画のようなアスペクト比のものもあって、それぞれの特性によって使い分けています。
愛用しているのは富士フイルムのナチュラ クラシカ。軽くてキレイに撮れて大好きなのですが、今は生産が終了しているので、壊れないように大切に使っています。仕事場にもよくカメラを持っていきます。一番好きなのは人物を撮ること。レンズに向かって表情を作ってもらう写真もいいけれど、共演者の方の休憩中の素顔や、スタッフさんが真剣に仕事をしている姿など、ふとしたときに見える表情が好きでよく撮っています。それから、木漏れ日のような柔らかい自然の光と影、夜にフラッシュを焚いてシャープに撮ることも好きなので、私が惹かれるのは光と、絵画的な構図なのかもしれません。
見たことがない光景に出合いたい
沖縄で撮った写真もそんな瞬間の一つです。写真集の撮影で石垣島と竹富島を訪れたとき、スタッフさんとみんなでソーキそばのお店で順番待ちをしていて。ふと見ると、自転車で走りだそうとしている光景がすごく素敵で、思わずシャッターを押しました。

夕日の写真はNYで撮ったもの。展望台のトップ・オブ・ザ・ロックから見た夕焼けは、ピンクと紫が混ざったようなグラデーションが本当に美しかった。2019年秋にNYに行ったのが初めての一人旅でした。俳優の仕事は、オファーをいただいて初めてお仕事ができるという意味では基本受け身なんです。だから自分一人だけで全部準備して動くという経験をしてみたくなって。ミュージカルを見たり、古着屋さん巡りをしながらいろんな人に出会ったり。日常の文化の違いに触れたことも刺激になりました。

犬の写真はエジプトで撮りました。小学校時代からの親友と二人で旅をして、遺跡の中にあるお店に入ったら、本のコーナーで野良犬が気持ちよさそうに寝ていて。床のピンクとわんちゃんのベージュの毛の色のトーンがそろっていて絵のように感じました。自転車置き場の写真は、その友達と氷河特急に乗るためにスイスへ行ったときのもの。自転車のヘルメットの色やスイス国旗の赤、お店のアーチやロゴの色、バルコニーで咲いている花も、その街の日常の風景なのに、私にとっては非日常のように新鮮に感じたんです。

私にとって旅は「見たことがない光景に出合いたい」という好奇心が原動力です。一緒に旅をする友人も冒険が好きなので、体力があるうちにいろんなところを回ろうと話しています。こうやって旅を一緒に楽しめる相手がいるのは幸せなことですよね。
先ほど絵画的なものに惹かれるとお話ししましたが、映画『ぶぶ漬けどうどす』(2025年6月6日公開)では全編京都ロケだったのですが、京都でも街並みやご飯や共演者の方の写真をたくさん撮りました。この作品でも、和の要素を取り入れた衣装やその色味だったり、レトロなヘアスタイルなど、監督が視覚的なデザインにもこだわって作っているんです。京都は日本の文化と歴史が詰まっている場所で、とても好きな場所でしたが、この作品を通して、より京都の文化について知ることができました。
京都はおばんざい以外にも、カレーや焼肉の激戦区でもあるんです。京都の方から地元のグルメ情報を仕入れながら、撮影の合間に、お店を回ることが密かな楽しみでした。1軒でも多く回ろうと思って、ちょっと空き時間ができると、マネージャーさんや共演者の方を誘って食べに行ってました(笑)。
映画『ぶぶ漬けどうどす』
京都の老舗扇子店の長男と結婚したフリーライターのまどか(深川麻衣)は、老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにするために、東京から京都へ。義実家や街の女将さんたちの取材を始めるが、「本音と建前」の文化に翻弄され、女将さんたちの怒りを買ってしまう。猛省したまどかは京都の正しき伝道師になろうとするが、事態は思わぬ方向に。
監督/冨永昌敬
企画・脚本/アサダアツシ
出演/深川麻衣/小野寺ずる、片岡礼子、大友律/若葉竜也/山下知子、森レイ子、幸野紘子、守屋えみ、尾本貴史、遠藤隆太/松尾貴史、豊原功補、室井滋
URL/bubuduke.jp
2025年6月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
Photos:Mai Fukagawa Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Mariko Kimbara
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