カメラと冒険 vol.2 玉置玲央「色彩をつかまえにいく」 | Numero TOKYO
Culture / Feature

カメラと冒険 vol.2 玉置玲央「色彩をつかまえにいく」

旅に魅せられた6人の俳優たち。何が彼らをアクティブにさせるのか。カメラの向こうには未知なる冒険が広がっていた。第2回目は、フォトエッセイも出版している玉置玲央に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

NHK大河ドラマ『光る君へ』で地方を訪れたときに撮った一枚。「夏の手前頃の、 鮮やかな緑と雲の色彩の対比、雲の影の濃淡に思わずシャッターを押しました」
NHK大河ドラマ『光る君へ』で地方を訪れたときに撮った一枚。「夏の手前頃の、 鮮やかな緑と雲の色彩の対比、雲の影の濃淡に思わずシャッターを押しました」

自分が求めていた色を見つけると、シャッターを押したくなる

仕事がひと段落すると、どこかへ旅に出かけます。芝居に取り組んでいる間は作品のことが頭の中に渦巻いているので、“毒抜き”のために日帰りの小さな旅に出ることもあります。海外や国内旅行にも行きますが、気分転換が目的なので散歩でもいいんです。散歩や旅をしながら、プラスやマイナスに過剰に振れてしまった針をゼロに戻して、同時に充電もして、自分自身をフラットな状態に戻しているんだと思います。

新潟で1時間近くかけて撮った写真。「黒の中にヴィヴィッドな赤と青が入っているのが好きで、実は4、5年前にも同じ場所、アングルで撮影しています」
新潟で1時間近くかけて撮った写真。「黒の中にヴィヴィッドな赤と青が入っているのが好きで、実は4、5年前にも同じ場所、アングルで撮影しています」

旅の行き先は、自然のある場所を選びます。散歩をするときも、情報量の多い表通りを避けて一本裏に入ったり、今日もここ(恵比寿のスタジオ)に来るときに、コンクリート造りの近代的なお寺を見つけて少し中を覗くと、本堂と墓地のグレーの色彩の中に、真っ赤な椿の花が咲き誇っていました。そんな光景に出合うとうれしくなります。

以前、乗馬の練習のために山梨の牧場に通っていたことがありました。あえてタクシーを使わずに駅から30分かけて歩いて向かっていたんですが、山の中の道は誰ともすれ違いません。普段は対人間の仕事なので、そんな一人きりの時間も僕にとっては“旅”でした。

そんなときに、いつも一緒なのがカメラです。高校の頃にフィルムカメラを譲ってもらって以来、写真が好きになり、今ではデジタルとフィルム合わせて何台か所有しています。いつも持ち歩いているのはソニーのミラーレス一眼カメラ。レンズは祖父が昔、使っていたオリンパスのオールドレンズです。

函館への旅行で撮影。「路面電車の線路と古い建物、誰もいないのにどこかに人の温もりを感じます」
函館への旅行で撮影。「路面電車の線路と古い建物、誰もいないのにどこかに人の温もりを感じます」

写真において自分がいちばん大切にしているのは「色」です。偶然出合った景色の中に自分が求めていた色を見つけると、シャッターを押したくなる。昔、油絵を勉強していたこともあり、一枚の写真の中に現れる色彩や、色のバランスに無性に惹かれてしまうんです。

もともとは誰かに見せるために写真を撮っていたわけではないのですが、3月に初めてフォトエッセイを出版しました。普段「音と感情」で表現している自分にとって、「文字と祈り」で伝える作業は新しい挑戦でした。今、こうして話しながら「祈り」という感情は自分の根底にあるものだと気がつきました。山梨の牧場も最終目的地に知り合いの牧場スタッフがいるから歩いていけるし、フォトエッセイも、どんなふうに受け取ってくれても構わないから、誰かに届いてほしいと思って作っていた。僕は、最終目的地に誰かがいることを願いながら、表現活動をしたり旅をしたりしているのかもしれません。

Photos:Reo Tamaoki Interview & Text:Miho Mastuda Edit:Mariko Kimbara

Profile

玉置玲央 Reo Tamaoki 1985年、東京都生まれ。劇団「柿う客」に所属。2018年に映画『教誨師』で第73回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。現在、TBS日曜劇場『キャスター』に出演中。5月17日から舞台『Take Me Out』2025に出演する。フォトエッセイ『では、後ほど』(KADOKAWA)が発売中。

Magazine

JULY & AUGUST 2025 N°188

2025.5.28 発売

Inspire Me

インスピレーションと出会おう

オンライン書店で購入する