カメラと冒険 vol.1 木竜麻生「インドア派の私が変わったきっかけがカメラ」 | Numero TOKYO
Culture / Feature

カメラと冒険 vol.1 木竜麻生「インドア派の私が変わったきっかけがカメラ」

旅に魅せられた6人の俳優たち。何が彼らをアクティブにさせるのか。カメラの向こうには未知なる冒険が広がっていた。第1回目は、写真を撮ることは日常の一部だという木竜麻生に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

友達と日帰りで新潟・佐渡島へ。「朝7時発のフェリーで向かう道すがら、次第に朝日が昇る様子や鳥たちが一斉に飛び立つ姿に心が躍って。ずっと甲板に出て、外の景色を楽しんでいました」
友達と日帰りで新潟・佐渡島へ。「朝7時発のフェリーで向かう道すがら、次第に朝日が昇る様子や鳥たちが一斉に飛び立つ姿に心が躍って。ずっと甲板に出て、外の景色を楽しんでいました」

自分の中で物語が始まる

写真を撮るようになったのは19歳で仕事を始めてから。撮っていただく機会が増え、カメラに興味を持ちました。フォトグラファーさんから「まずは安いコンパクトカメラを使ってみたら? 撮っていくうちに、自分はどういうカメラが欲しいのかわかってくるから」とアドバイスをいただき、初めて買ったのがオリンパスのフィルムカメラ、PEN F。新宿のカメラ屋さんで、中古で当時3,500円くらい。

そんなふうに気軽な感じで始めたのがよかったのかもしれません。そこから写真を撮ることが日常の一部になりました。人でも風景でも、自分の気持ちが動いた瞬間に押したらいいよと教わって、それが習慣になると、「今日、いい光だな」と気づくようになり、外に出ることが増えました。それまではインドア派で、休日は家で過ごすことも多かったのですが、時間があると「熱海まで行ってみようかな」とか「高尾山に登ってみたい」とか、思い立ったら一人で行動できるようになっていました。

台北の食堂。「この町はこんなふうに朝が始まるんだなと思ってシャッターを押しました」
台北の食堂。「この町はこんなふうに朝が始まるんだなと思ってシャッターを押しました」

一人で散歩をするときもカメラを持っていくようになり、すると、気になる道を素通りできなくなって。どんどん進み、迷い込んでいくうちに、知らなかった街の表情が見えてくるのが面白いんですよね。道端に落ちている片っぽだけの手袋とか、ベランダに干してある洗濯物とか。そういうものにも目が向くようになって、シャッターを押しているうちに「誰が落としたんだろう?」とか「ここではどんな人が暮らしているのかな」とか、自分の中で物語が始まるのも楽しいです。

外の世界とつながることを楽しめるように

2019年、初めての一人海外旅行で台湾に行ったのも行動力がついたから。川島小鳥さんの写真集やエドワード・ヤン監督の映画を通して見ていた台湾の日常の風景をこの目で見たいと思ったのがきっかけでした。慣れない一人旅で最初は緊張していましたが、街の中をさまよいながら、バスに揺られたり、街の食堂にふらりと入ってみたり。カメラ片手に気ままな時間を楽しめるように。韓国の人に声をかけられ、話を聞いていたらナンパだったということもあったのですが。でも、そういうハプニングも面白くて。考えてみたら、そういう思いがけない出会いが多いのは旅先だけではなくて、日常生活でもそうかも。なぜか知らない人に話しかけられることが多く、突然おばあさんが話しかけてきて、うん、うんと聞いていたら、お礼にとホテルのスリッパをもらったこともあります(笑)。

台湾・九份。人でごった返す道のすぐ脇には静かに佇む犬が。
台湾・九份。人でごった返す道のすぐ脇には静かに佇む犬が。

台湾で乗ったバスの窓から見えた街の様子。
台湾で乗ったバスの窓から見えた街の様子。

今日何か面白いことが起きるかなと思っていると、結構いろんなことが起きるんですよね。それはなぜかと考えると、外の世界とつながることを自分自身が楽しんでいるからかもしれません。そうやって自然と心を開けるようになったのは、カメラのおかげのような気がします。自分が「いいな」とか「好きだな」と感じる瞬間を見逃さないようにという意識が芽生えると、自然と目線が外に向き、心が開く。遠出をしなくても、自分の日常のあちこちに面白いことがたくさんあり、冒険している気分になります。そして、写真を撮ることで、自分を知ることにもなると思う。何を面白いと思い、何を美しいと思うのか。外の世界を探求するたびに、自分の内側にも新たな発見がある。カメラは自分の心まで静かに映し出してくれる気がします。

Photos:Mai Kiryu Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Mariko Kimbara

Profile

木竜麻生 Mai Kiryu 1994年、新潟県生まれ。2014年に『まほろ駅前狂騒曲』で映画デビュー。18年、主演を務めた『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』での演技が高く評価され、数々の映画新人賞に輝く。『わたし達はおとな』『福田村事件』『熱のあとに』など話題作に多数出演。25年にカンヌ国際映画祭 監督週間 出品された映画『見はらし世代』の公開が秋に控える。ドラマではNHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』に主演が決定(9月8日放送開始予定)。
 

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