「ヴェジャ」サッカーに着想を得た新作スニーカー登場! 創業者が語る長年愛される靴づくりとは | Numero TOKYO
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「ヴェジャ」サッカーに着想を得た新作スニーカー登場! 創業者が語る長年愛される靴づくりとは

サステイナビリティ、フェアトレードそして社会正義を重視するフランス発のスニーカーブランドヴェジャ(Veja)が渋谷のSO1で新作PANENKA(パネンカ)を発表。ヴィンテージのサッカーシューズを彷彿とさせるスニーカーは、どこかレトロなムードを漂わせながらどんなスタイルにも合うのが特徴。新作発表会は、歴代のコラボアイテムも並び、ヴェジャの世界観が一望できるイベントに。その際に東京を訪れたヴェジャのFounder、フランソワ・ギラン・モリィヨン(François-Ghislain Morillion)氏にインタビュー。新作について、歴代のコラボについて、どうしてヴェジャがブラジルで生産することになったのか、またご自身のライフスタイルについてまで、熱く語ってもらった。

Veja Founder フランソワ・ギラン・モリィヨン(François-Ghislain Morillion)氏
Veja Founder フランソワ・ギラン・モリィヨン(François-Ghislain Morillion)氏

──新作のシューズ、PANENKAについてお聞かせください。

「サッカーのペナルティ・キックのテクニックのひとつ、パネンカが名前の由来です。1970-80年代に活躍したチェコ(当時チェコスロバキア)のサッカー選手、アントニーン・パネンカが編み出したテクニックで(私自身、サッカーに疎くて、あまり詳しくないのですが、説明すると)、強くキックするのではなく、ゆっくり蹴ることで、ゴールキーパーの意表をつくやり方です。テニスで言う、ロブみたいな感じでしょうか」

──どうしてそれを新作に名付けることになったのですか?

「共同経営者のセバスチャンがサッカーの大ファンで、サッカーをインスピレーションソースにした新作を発表しよう、となったのです。アントニーン・パネンカが活躍した80年代のヴィンテージなムードをより打ち出し、その時代のサッカーウエアやシューズが今回のイメージです。またサッカーでパネンカを成功させるためにはテクニックが求められます。様式美さえも感じさせる動きに感銘を受け、より洗練されたモデルを目指しました」

──東京のドーバー・ストリート・マーケットとのコラボで、こちらの新作に刺し子を施したコレクションも発表しましたね。

「これは珍しく私のアイデアだったのですが、インスタグラムでサシコギャルズという集団がいるのを発見して。ヴェジャのスタッフの1人が岩手まで飛んでサシコギャルズに会いに行ったのですが、お互い意気投合して。ヴェジャの世界観と見事にマッチしたというか。サシコギャルズも(社会正義を重視した)ソーシャルビジネスに重きを置いていて、中間業者ではなく、職人に直接給料が払われるシステムを構築する方法は、まさにヴェジャが創業以来ブラジルで目指してきたことです。限定モデルだったのですが、即日完売しました」

──刺し子や漆塗りなど、日本に昔からあった技術が生活様式の変化から需要が減り、技術やそれを支える職人が失われる危機にあります。それを守り存続させるという意味でも社会的意義がありますね。

「刺し子ギャルズとは一度のコラボを超えた関係を築きたいと思っています。ヴェジャではスニーカーの修理サービスも受けているのですが、そのプロジェクトの一環として刺し子を顧客に提案してもと。ヴェジャの靴修理職人に刺し子のテクニックを学んでもらって、それをフランスや他の国でも提供できたらと。また刺し子ギャルズにとっても、日本だけでなく、海外のマーケットを開拓することで、刺し子の認知度も高まり、需要が伸び、刺し子自体が活性化すればと思っています」

──刺し子以外でも日本の伝統技と協働する予定はありますか?

「まだ詳細はお話しできませんが、ひとつのプロジェクトは現在進行中です。日本のカルチャーとヴェジャが結びつくことでお互い何か新しいことができたらと。ただ日本でモノを売るだけでなく、アメリカやブラジルなど他の国でもしたように、よりダイナミックに関係性が広がればと。ヴェジャにとって他の国のアーティストや職人とコラボすることで、よりヴェジャの世界観が広がりますし、相手にとってもフランスの市場やヴェジャが持っているサステイナブルなテクニックを得ることで、より成長できる。お互いウイン・ウインな関係でコラボを続けていきたいです」

──リック・オウエンス、マルニ、ルメールとさまざまなアーティストとコラボしていますが、特に印象深いものはありますか?

「どれも学びであり、ヴェジャが成長するきっかけにもなっているので、どのアーティストとも良い思い出があります。個人的にはマルニとのコラボが思い出深いです。パンデミック中だったので、実際チームと会ってプロジェクトを進めることはできなかったのですが、それでも良いものができたので満足しています。色使い、ラインのこだわりなど、マルニが持つクリエイティブな感性がうまく融合でき、ヴェジャにとってもひとつアイコニックなモデルができたと思います」

──全ての始まりはブラジルからだと伺っていますが、その経緯はどのようなものですか?

「ヴェジャを始める前に、サステイナブル、フェアトレードについて、インド、中国など世界中を回ってリサーチしました。対象の企業はカルフールやEDFなどフランスの大企業が主だったのですが、リサーチの結果はひどく落胆するものでした。2003年ごろのことでしたが、サステイナブルというより、マーケティング重視で、今でいうグリーンウォシュなものばかりで。ただひとつだけ手応えのある企業があり、その会社はブラジルでやし油を扱っていたのですが、フェアトレード、サステイナブルという観点から素晴らしい取り組みをおこなっていました。

彼らが協働しているブラジルの生産者協会と繋がり、そんな経緯からアマゾンのゴム採取者の組合と知りあいました。彼らは家族単位の小さなグループですが、昔から変わらない方法でゴムを採取し、アマゾンの森林が持続可能な範囲でゴムを採取しています。彼らとの出会いはまさに我々の道を開くものであり、今でも靴底に使っているゴムは彼らから直接取引をしています。

その後、フランスでヴェジャをセバスチャンと創業したのですが、いつも社会へのポジティブなインパクトを重視しています。それはどの過程においても。例えばコットンに関しては、オーガニックコットンを、しかも生産者と目に見える形で取引し、市場価格よりも倍以上の価格で、前払いすることで小規模農家の安定を図るといった具合に」

──環境への配慮だけでなく、フェアトレードの観点から、地域のコミュニティを守り、小規模生産者へなるべくビジネスの還元を図っているのですね。今ではブラジルだけでなく、ペルーなどにもその取り組みを広げていますが、今後アジアでも同じような取り組みをする計画はありますか?

「ヴェジャの最初の10年間はヨーロッパの市場を広げるために費やし、次の10年はアメリカでのビジネスを広げました。アジアでは同じように、まず市場規模を広げることから始めたいです。アジアのどこかで生産する場合は、アジアで消費されるべきだと考えるからです。インドネシアのゴム生産者や採取者の生活改善など、取り組むべき問題はアジアでもあることは承知ですが、まずは最初のステップ、市場の開拓から取り組んでいきたいと思っています」

──サステイナビリティに関して言えば、新しいものを作らず、何も売らない方が環境に良いのでは、という問いがありますが、ビジネスをする上でそんなジレンマに陥ることはありますか?

「もちろんあります。正解のない中で我々はサステイナブルに関して模索しているのですから。ただ我々は、今のファッションの業界の意識を変えたいという思いがあります。毎シーズン新作を大量に発表し、消費を促すのですのではなく、10年、20年と耐久性のあるデザインのものを作り、それがひとつのスタイルになるようなモノづくりを目指しています。また世界中にある店舗の一部では、修理工房を設けて、一度購入したスニーカーをリペアすることで長く使ってもらう取り組みもしています」

──ご自身についてお伺いしたいのですが、ヴェジャを創業してから、大学に行き直し、哲学を学んだと聞いたのですが、それはどういった経緯からですか?

「人生で後悔をしたくなかった。昔から哲学を学びたいと思っていたのですが、哲学を学んでも仕事にならないし、だからビジネスについて学びました。会社を立ち上げてからも哲学への思いはあり続けました。そんな中、ブラジルでビジネスをするうちに、ブラジルでは就業後でも学校へ行くひとが多いということに気付き、同じように自分もできるのではと思い、大学に夜間で通うことにしたのです」

──ヴェジャでのビジネスと哲学、このふたつが結びつくことはありますか?

「いや、特にありません。それはそれで良いと。私にとって哲学とは実践でもあり、人々がヨガをするように、家で本を読んだり考えに耽ったり。日々の生活である意味必要なことです」

──今では大学で講義も受け持っているそうですが、もしある学生が哲学を学ぶ意味を問いたら、何とお答えになりますか?

「プレジール(快楽、喜び)のために! 哲学の語源を辿れば、知への愛という意味になりますが、まさに哲学は愛の科学です。愛(アムール)には常に喜びが伴うものです」

EMME
TEL/03-6419-7712
URL/www.veja-store.com

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Interview & Text:Hiroyuki Morita

 

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