新しいカシミアの常識を作るカシミアニットブランド、エクストリーム カシミア | Numero TOKYO
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新しいカシミアの常識を作るカシミアニットブランド、エクストリーム カシミア

2025SSコレクションより
2025SSコレクションより

「高価で取り扱いが難しい」そんなイメージが強いカシミアという素材。「エクストリームカシミア」はそんなカシミアの偏ったイメージを変えたい、さらに最高のセーターを作りたいという思いから誕生した。美しい光沢感としっとりとした肌触り、細い繊維が空気をたっぷり含み、保温性と保湿性に優れている。そんなカシミアのニットをどのようなディレクションのもと、現代的に表現したのか。

創設者のSaskia Dijkstra(サスキア・ダイクストラ)が、デザイナーのJules ten Velde(ジュールス・テン・ヴェルデ)とマーケティングを担うWies Verhoofstad(ヴィス・フェルホフシュタッド)とともに来日。3人がカシミアニットへの想いを語った。

(左から)Saskia Dijkstra(サスキア・ダイクストラ)、Jules ten Velde(ジュールス・テン・ヴェルデ)、Wies Verhoofstad(ヴィス・フェルホフシュタッド)
(左から)Saskia Dijkstra(サスキア・ダイクストラ)、Jules ten Velde(ジュールス・テン・ヴェルデ)、Wies Verhoofstad(ヴィス・フェルホフシュタッド)

自分らしく着ること、着て気分がいいことがすべて

──ブランドのコンセプトについて教えてください。

Saskia(以下S)「譲歩なく最高のセーターを作ること。これまでカシミアの生産に20年ほど従事しており、ヨーロッパやアメリカのサプライヤーのために働いていました。常に価格とのせめぎ合いで仕事をしていましたが、いつしか価格に囚われずに最も美しいカシミアセーターを作りたいと思うように。ひらめいたのはワンサイズ展開のジェンダーレスなセーターでした。長年の経験からセーターは、サイズではなく、形が重要だと考えています。出発点はブランドを作ることではありませんでした」

2025SSコレクションより
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──コンセプトはどのようにして生まれたのですか?

S「今や定番のクルーホップというセーターを最初に作りました。試作品を背の高いボーイフレンドや母、父などたくさんの家族に着てもらいました。みんな、服のサイズも年齢も性別も違う。なのに、1サイズだけのジェンダーレスなこのセーターを欲しがりました。『自分がこのセーターをどう感じたいか』『どのように着こなしたいか』に夢中になったからでしょう。人によってはジャストフィット、人によってはオーバーサイズ、ニットドレスとして着る人さえいる。その上で『着て気分がいい』ということがセーターのすべてだと思っています。誰かにエクストリーム カシミアの着方について説くことはありません。ブランドの理念は、人々が自分の方法で着ることなんです」

Jules(以下J)「日本人はユニークに着ることが得意ですよね。ただセーターを着るだけでなく、それを自分自身で着こなすことを楽しんでいる。私たちのコレクションはいかようにも、トランフォーム(変身)することができるんです。エクストリーム カシミアには、ニット同士を組み合わせられるアイテムがたくさんあるし、豊富なアクセサリーもとても効果的です」

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──なぜカシミアという素材に注目されたのでしょうか。

S「香港の会社で、20年間働きました。とてもニッチな会社でしたが、中国の工場でとても美しいものを作っていて、本当に素敵なハイエンド・ブランドのニットを作るに相応しいと思いました。ヨーロッパとアメリカで一緒に仕事ができるブランド探しに奔走し、ジョセフとジル・サンダー 、アニエスベーを顧客に迎え入れました。私はこの工場で、最も美しいセーターの作り方を学んだんです。一流の腕のいい人たちに囲まれてね」

──製品としてカシミアを使うことにこだわるのはなぜですか?

S「個人的には、カシミアは最も美しい繊維だと思います。それに、人の気分を良くするパワーがあり、嫌なことがあった日でも触れるだけで気持ちが楽になります。色の効果も多少ありますが、カシミアなではの力だと思っています。着心地が最高で安心感があり、最高級品なので着るとシックに見える物としての力強さも兼ね備えているんです」

──使っているカシミアに特別な特徴やこだわりはありますか?

S「私たちは入手困難な長繊維を使っています。こだわっているのはクオリティと化学薬品を使わないこと。世界のカシミヤ生産量の50%はモンゴル産で45%は中国産です。冬はとても寒く、夏はとても暑い奥モンゴルでしか、カシミアヤギは生きられない生物なんです」

2025SSコレクションより
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──ジュールスとヴィズのような若いメンバー達は、どのようにチームに加わったのですか?

S「幸運なことに最初に出会ったのはジュールス。ブランドを手伝ってくれる人が必要でデザイナーを探していました。ヴィズはまだ学生だったはずよね。彼と仲良くなって一緒に活動するようになりデザイナーに就任してもらいました。本格的にマーケティングをするようになってからヴィズがチームに加わって。本当は営業部長を務めているニッセも日本に来たがっていたんだけど。いや社員全員が来たがっていたのだけどさすがに25人はちょっと多すぎるかなと思ったんです(笑)」

J「ラッキーなことにクリエイティブな人たちがエクストリーム カシミアを見つけて一緒に働きたいと言ってくれチームは大きくなっています。私たちにとっては新たな出会いこそが何かの始まりに繋がるんです」

Wies(以下W)「チームに合流したときエクストリーム カシミアはまだブランドとして確立していませんでした。だからお互いにあらゆる話をしたのを覚えています。現在ファッション界で起こっている混乱に比べればとても自然なことだったし会社独自の価値観が生まれる起点となりました。対話を積み重ねて生まれた価値観のもとファッションの仕事ができる。つまり本質的にクリエイティブな仕事にとりかかれるんです。私が担当するマーケティングの分野はアトリエで撮影したりiPhoneを使ってヴィジュアルを制作するので自由な発想を活かすことができます」

J「本当にブランドが成長していく過程は自分たちクリエイターにとって自由で夢のような時間だったんです。2時間もの長いランチタイムも(笑)」

S「私たちは食べ物が大好き。当時は毎日私が食材を市場に買いに行きみんなで料理を作りジュールスは仕事を続けるのがお決まりで。毎日誰かがオフィスに来て料理を作ってくれてスタッフで一緒に昼食を楽しんでいました。最近は専属シェフにスタッフの食事はお任せしています。パリのショールームでも同様に来場者にダケのリゾットを振る舞っています」

J「そう職場には楽しんだりリラックスする時間が絶対に必要。ときに率直に意見をぶつけ合うこともありますがみんながいい形で協力し合うために大切なことです」

──このような働き方はオランダの人のスタイルなんでしょうか。それとも、会社特有の働き方ですか?

W「他のオランダの会社で働いたことがないので正直わかりません。でもおそらく働き方や価値観はオランダ人特有のものだと思います。一般的にオランダ人はお互いに親切です。金曜日に仕事仲間みんなで飲みに行くことも珍しくありません。それが毎日を楽しむ方法だと思われています」

──異なる世代の人と会社でうまくやっていくコツは?

S「若い世代の考え方や経験、雰囲気と、豊かなキャリアがある人々から生まれるアイデアを融合すること。よく覚えているのは、父の言葉です。兄の結婚式に出席した際に『若い人たち、特に子供たちからいつもたくさんのことを学んでいる。そのことは忘れられない財産だ』と言いました。当時、私は25歳。年長者ほど、若い世代の考え方から多くを学ぶことができると知りました。私自信には誇れる経験がありますが、それは年上だからだし、だからこそ自らが犯す間違いも知っています。もちろん、いくつかのことに関しては解決策を熟知しているでしょう。ただ、若い世代の話を聞くと、頭やマインドがすっきりするんです」

2025SSコレクションより

W「会社には、自分達よりもさらに若い人が増えてきています。私たちは世代をつなぐ最も重要な中間の世代。エクストリーム カシミアの強みでもあると思います。私たちには本当の意味で語りあえる場所があり、その上でさまざまなオーディエンスにも目を向けています。一方で、いまの立場でファッションブランドをどう見るかというビジョンについて考えを巡らせています。2つの世界が融合していることが、ブランドにとって強い力になっています」

J「チームは日常生活レベルで、いつも一緒にいることが自然なんです。自ずと会話が生まれて、お互いを理解することができる。社内に階層もなければ上司もいない。会議をしても、緊張せずに意見をいうことが可能です。若くて経験や知識が未熟でも、十分に会社に貢献できるということを体現していると思います」

W「正直、私たちは他の会社で働いたことがないので、かなり純粋な考え方をしていると思います。学校を卒業したばかりですし、かなりナイーブな部分があることにも自覚的です」

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──サスキアさんはカシミアの伝統を守りながら、新たな着こなし方や価値観を広めていきたいとよくおっしゃっていますね。具体的に教えてください。

S「カシミアに対する認識を完全に変えられたと自負しています。成し遂げられた理由は、ブランディングではなく、純粋に誰もが欲しがるセーターを作ったこと。かっこいい男性でも、クラシックを好む男性でも、斬新な感覚の若者でも、本当に誰にでも似合うんです。大柄な人、小柄な人、背が高い人、あらゆる世代、あらゆるタイプの人、どんな人でも。セクシーな女の子が着ることもできれば、秘書がフォーマルに着飾ることもできます」

J「みんなのためのもの。いつもそれを考慮してデザインを考えています。セーターにはある種の魔法があり、みんなにそれを感じてもらいたい。ブランディングだけだったら、特別なものにはなり得なかったでしょう」

W「ブランドの世界観や哲学を伝えるヴィジュアル作りもそうです。みんなでカシミアをオールシーズン着るという新鮮な感覚を表現しています。新たなコレクションが形になると、まずジュールにコレクションがどのようなものであるかを聞き、誰がこのコレクションを着るのかとイメージを膨らませながら、キーワードを挙げていきます。頭に思い浮かぶのは、ほとんどの場合、ある種の実在の人物、または私たちが服づくりでエビデンスにするような人、またはすでに知っている人です。そして、その人物はどんな機会にエクストリーム カシミアを着るのかを考え、撮影のストーリーを作ります。私たちは伝統を好みますが、その反対を見つけることにもエネルギーを注いでいます」

J「デザインにおいても伝統を参考にしていて、それを新しい文脈に置いています。時には伝統なものごとを服づくりのエビデンスにしています。通常、カシミアではつくられないようなものをあえてカシミアで提案しています。一種の摩擦やノイズを生み出し、非常に興味深い新しいものが生まれます。この感覚はフェイクではなく、私たちの生活に繋がっています。実際にクールなカシミアのセーターを着てジムに行き、クラブで踊っていますから。とてもリアルな経験に基づいたカシミアセーターと言えるでしょう」

──世界各国で行なっているポップアップでは、現地でキャンペーンヴィジュアルの撮影も行い、後にSNSや広告として展開されているのが興味深いです。

W「はい。スキーに行く旅から、海に泳ぎに行く場面まで、あらゆる機会をヴィジュアル化して見せようと試みています。常に同じ材料でセーターを作り、ワンサイズ展開であることを表現するには、さまざまな体型の人々に着せて見せることが最もシンプルです。着てもらいたい人はモデルエージェンシーで見つけることはほとんどなく、路上で探しています。また、セーターのコンテキストや撮影場所を変えると、面白いことが起こります。アジアで撮影するのとイギリスで撮影するのとでは、同じセーターでも見え方がまったく異なるんです。オックスフォードで撮影すると超伝統的なセーターに、東京でさまざまなものと組み合わせると、非常にハイファッションでクールなイブニング セーターのようになります。このような境界線を常に探していて、体現できる極端なシチュエーションは何かを考えています。とてもエキサイティングな仕事ですし、カシミアがとても貴重で高級な素材だからこそ成立するのかもしれません。もちろん、今回東京でも現地のクリエイターを交えて撮影をしました」

──様々な色の糸が縫い付けられた印に何か意味があるのでしょうか?

S「そのシーズンに展開している色を示しています。私の幼少期の思い出から生まれたアイディアです。まだ小さな女の子だったとき、学校に行くと私の服を友人たちがよく欲しがっていました。母はお店を経営していて、そこには友人たちが『サスキアのスカートはありますか?』と聞きに来ます。私は色見本を一列に並べて『こんな色もありますよ』と見せられると思いつきました。一目瞭然で美しく、店頭で売りやすい。それで、セーターに糸で印をつけるようになったんです。もはや美しいブランドロゴのようなものです」

W「かわいくて機能的であることは素晴らしいこと。一貫してブランドに当てはまることですが、とても理にかなっています。架空の物語から何かを作り始めて、それから製品が生まれるというわけではありません」

J「働く者にとっては、製品のエディションを認識する印です。シーズンやエディションごとに色の組み合わせが異なるので、見分けることができるんです。オフィスでサンプルを探すときも簡単です。『エディション 18 のクルーホップを見た人はいますか?』と言うと正確に伝わり特定できます。とてもクールなことです」

──カシミアのお手入れ方法を記したタグも、もはやエクストリーム カシミアを象徴する付属品です。

S「必ず注意書きのタグをセータにをつけています。セーターを着続けると、毛玉ができます。カシミアは天然素材なので、水が必要です。毛玉ができるのは乾燥と洗いすぎが原因。洗ってアイロンをかけて、ときには脱いで休ませる。カシミアセーターは正しく手入れしながら着れば、10年、20年後も使える一生ものです」

※読んだら取り外し可能
カシミアは水を愛しています

1.「カシミアは、1日着たら2日寝かせるのが理想。」
お気に入りのカシミアニットは毎日でも着たいところですが、この先来る冬に活躍させたいなら「1日着たら2日寝かせる」のが正解。そうすることで着用によって乱れた繊維が回復することができ、結果長く切ることができます。

2.「乾かし方」
洗濯が終わったら、乾いたバスタオルの上に平置きにする。吊るして洗濯バサミで止めるのは絶対にNG。フォルムが崩れ、伸びてしまいます。

3.「アイロンをかけるなら」
アイロンをかけて形を整えたいならば、カシミアニットとアイロンの間に一枚、当て布を。そうすることで繊維が回復しやすくなり、シワもとれて型崩れを防げます。

4.「毛玉のとり方」
自然素材であるカシミア素材を使い、過剰に後染めしていないため、毛玉はできにくいけれど、やっぱりどうしても表面に小さな毛玉はできてしまいます。コームを下から上に当てて毛玉を取り除きます。

5.「保管方法」
ハンガーに吊るすとフォルムが崩れてしまうので避け、畳んでタンスの中に入れましょう。エクストリーム カシミアはすべてのアイテムが自宅の洗濯機洗いが可能です!

「洗濯機でのケア方法」
水温は30℃、ウール用の洗剤かベビーシャンプーで洗う。
この時、柔軟剤を入れるのはNG。洗濯網もしくはピローケースに入れて、「おしゃれ着洗い」コースなど、デリケート素材用のコースで回す。1度の洗濯は3着までにとどめましょう。

──繰り返し水洗いを奨励していて、最近だと洗濯機のメーカーともコラボレーションを行いました。

S「mieleの洗濯機が大好き。カシミアはマシーンウォッシュができます。これはエクストリーム カシミアに限った話ことではなく、世界中のカシミアすべてに言えること。多くのブランド、いえ、誰もが繰り返し『ドライクリーニングで洗わないといけない』と言います。それに対し、20年間以上『いいえ、洗濯機で洗えます』と言い続けて来ました。確かにカシミア製品の値段に対して、洗濯のリスクは大きすぎます。洗濯方法を間違えたカスタマーの精神的なショックとそれに対する弁償のお金がかかりますから」

──8年間、32ものコレクションを展開して来ましたが、これまでに作ったスタイルは何種類くらいあるのでしょうか?

S「350スタイルほどしかありません。おそらく、他のブランドなら何千と作るでしょう。最初に作ったセーターは、まだコレクションの中に存在し続けています。とても誇りに思っています。これま終了したエディションのスタイルは、一度廃止されますが、時を経て再び登場することもあります。エディションを作るときは、常にすべてのアーカイブを振り返り、どれが次のシーズンに相応しいかを考えます。長いキャリアの中で、ベストセラーが誕生した場合、それにまた変更を加えたら別のベストセラーにできると知っています。同じセーターでも違う色で作るので、全く違うセーターのようになる。グレーのセーターはスポーティなスウェットシャツのように、ダークブラウンやネイビーだと格式あるシックな感じになります。同じデザインでも、色によって違う表情に仕上がります」

──今回訪れた東京についてどのように感じましたか?

S「日本のマーケットは、かなり早い段階から私たちに理解を示してくれました。他国では見られないようなユニークな着方をしてくれるところが大好きです。色を組み合わせたり、重ね着したり、カーディガンを裏返しに着たり、逆さにしたり。そして、いつも私のお気に入りのものを買い付けてくれるのも日本! パリで展示会をするとき、売れないと分かっていながら私のお気に入りのアイテムを置いています。それを日本人のバイヤーが見つけてくれる。共鳴するセンスを持っていて、製品のことを深く理解しているからでしょう。その唯一無二の感覚は、東京の街を見ていると納得ができるんです」

お問い合わせ
取り扱い店/Ron Harman,Dover Street Market Ginza,伊勢丹新宿店など
公式HP/https://extreme-cashmere.com
instagram/@extreme.cashmere

Photos:Wataru Fukawa Edit&Text : Aika Kawada

Profile

エクストリームカシミア Extreme Cashmere 2016年に創設者のSaskia Dijkstra(サスキア・ダイクストラ)とデザイナーのCamille Serra(カミラ・セーラ)によって、オランダのアムステルダムで誕生したニットウエアブランド。心地よい肌触りと耐久性や通気性にも優れたハイゲージのカシミアシリーズを中心に人気が広がっている。

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JULY & AUGUST 2025 N°188

2025.5.28 発売

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