本が導くロマンティックな出会い。感性で繋がる令和のマッチングスタイル | Numero TOKYO
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本が導くロマンティックな出会い。感性で繋がる令和のマッチングスタイル

相手の外見や職業は知らないまま、本の好みだけでマッチング。本を媒介に出会いの場を提供する「Chapters(チャプターズ)」が話題だ。サービス開発者・森本萌乃に恋活疲れした女性たちに刺さるわけを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年5月号掲載)

──通常のマッチングサービスとは異なり、自身が選んだ本やその感想を通じて出会いをサポートするChapters。創業者である森本さんが、このサービスを立ち上げたきっかけを教えてください。

「『誰と会うか』だけでなく、『どのように出会うか』も同じようにこだわりたいと思ったからです。『最高にロマンティックな出会いとは何か。その出会いを自ら生み出せないか』と考えた末に、このサービスが誕生しました」

──森本さんが考えるロマンティックな出会いとは?

「一つは、理屈ではない、偶然の重なりから生まれる出会いですね。本屋の棚にある本に伸ばした指先が、知らない誰かの指とふと触れ合う瞬間。カフェでふと隣の人を見たら、自分と同じ本を読んでいた瞬間。ラブストーリーならばありがちなシチュエーションではありますが、日常でそんな偶然に遭遇したなら、『この人とは何か共通点があるのかもしれない』と、誰しも心がときめくと思うんです」

──ラブストーリーとしてはクラシックな状況ですが、自分の身に起きたらドキドキしてしまいそうです。

「ロマンティックとはクラシックで、少し笑ってしまうような“恥ずかしいもの”でもあると思っています。『花束のサプライズプレゼント』や『夜景の見えるレストランでのプロポーズ』など、世の中には王道の演出がたくさんありますが、計算され尽くすとロマンティックが薄れてしまうこともある。例えばバラの花束を堂々と抱えた男性より、電車の中で少し照れながら花束を持っている男性がいたら、後者のほうがぐっときませんか」

──確かに。なぜなんでしょう?

「それは、『誰かを喜ばせたい』という純粋な気持ちが伝わるからじゃないかなと思うんです。周囲の人にくすっと笑われるような状況で、恥ずかしさを押し殺しながらも、誰かのために一生懸命になる。自分が意図せずともロマンティックになってしまう瞬間が、人の心を動かすんだと思います」

──ロマンティックを生み出すのは、特定のアイテムやシーンではないということですね。

「はい。どんなストーリーを彷彿させるかが、ロマンティックには必要な要素だと思います。時には100本のバラの花束よりも、道端で摘んだ1本のタンポポのほうが心に響くことだってありますよね。それは花自体の価値ではなく、花を渡すまでにその人がどんな時間を過ごし、どんな気持ちを込めたのかというストーリーが見えるから。だからこそ、ロマンティックなんです」

「本」のロマンティックは100年後も不変!

──ロマンティックな出会いの媒介として、「本」を選んだ理由はなんだったのでしょうか。

「本を通じた出会いは、100年後も変わらないロマンティックなものだと確信しているからです。私がこのサービスの着想を得たのは、金曜ロードショーでスタジオジブリの『耳をすませば』を見たとき。中学生の男女が図書館の貸し出しカードを通じて、まだ見ぬ相手の存在を知る。出会ってからも、お互いの夢を尊重し合いながら、共に道を歩んでいく。そんなピュアな二人のストーリーに触れたとき、年甲斐もなく号泣してしまって(笑)。そこで『それぞれの人が自分の好きな本をきっかけに偶然出会うことはできないだろうか』と考えました」

──Chaptersでは、プロフィールに表示されるのは「好きな本3冊」と、読書以外の趣味のみ。顔写真や年齢、職業、年収などの情報は表示されません。なぜ条件を限定したのでしょうか。

「私自身、20代後半から何年もマッチングアプリを利用しましたが、『いいな』と思う相手や相性の良い人は、外見や職業といったスペックでは決まらないと気づいたんです。むしろ、自分の過去を考えてみたら、好きになる人に対しては『なんだか声がいいな』『ここに一緒に行って楽しかったな』といった理由で好きになることが多かった。だからこそ『この本を読んでいる人と話してみたい』という純粋な興味から始まる会話のほうがロマンティックだと感じたんです」

──確かに既存のマッチングアプリでは条件が先行しすぎて、相性や興味の探求が難しそうですね。

「そのとおりです。マッチングが成功する人たちは、プロフィール写真の選び方、自己紹介文の書き方、メッセージのやり取りのコツなど、アプリのルールに最適化した人たちばかり。しかし、それが本当に相性の良い相手を見つける方法なのかと疑問が生まれてしまって。それよりも、『この人と一緒にいると心が動く』と感じる体験を大切にしたい。そんな思いが、このサービスが生まれた原点になりました」

──だからこそ、スペックではなく「本」を通じた価値観のマッチングを目指したのですね。

「現在、Chaptersのマッチング方法には二つの方法があります。一つは、毎月読んだ本を基準に運営側が相手を自動でマッチする方式。もう一つは、ユーザーが他の参加者の読書傾向を見て、自ら話したい相手を選ぶ方式です。どちらも『スペック』ではなく『価値観』を基準にしているので、既存のマッチングアプリよりも自然で穏やかな出会いが生まれるように思います。恋愛というゴールを前提とせず、人としての興味から始まる出会い。それがChaptersの魅力だと思っています」

──恋愛だけでなく、もっとフランクな関係を育む上での入り口にもなりそうですね。ユーザーからはどのような声が寄せられていますか。

「『この人の本棚を見て、一緒にお茶をしたくなった』『年齢や職業も知らずに会ったけれど、話が尽きなかった』といった声も多く寄せられていますね。読書友達が高じて、実際にマッチングするカップルも多いですし、結婚に至る方もいらっしゃいます。また、仮にマッチングしなくても、本を介して会話を楽しめるので、読書自体の楽しみに触れることができるという方も少なくありません」

読書や映画鑑賞を通じて独自のロマンティックを見つける

──社名にも「MISSION ROMANTIC」を掲げ、「地球上にロマンティックを増やすこと。」を追求されていますが、ロマンティックが日常に増えると、どんな変化が生まれるのでしょうか。

「世界の見え方が少し変わると思います。ロマンティックは、恋愛関係だけに起こるものとは限りません。毎朝同じカフェに通うおじさんの姿に『この人のルーティンにはどんな物語があるのだろう』と思いを馳せる。あるいは雨の日に傘を忘れたおばあさんが、毎朝同じ電車に乗っている人だと気づいて声をかける。そんな自分だけの小さなロマンティックを見つけられたら、人は世界をもっと愛せるようになると思います」

──他人が決めたロマンティックではなく、自分の心に響くものを見つけることが大切なんですね。

「その点でいえば、最近のロマンティックは少し定形化されすぎている気がするんですよ。例えばSNSでは『理想のプロポーズ』や『憧れのデートプラン』がたくさんシェアされていますよね。でも、それは私の考えるロマンティックとは少し違うんです。なぜなら、それらは“誰かが決めたロマンティック”だから。真のロマンティックとは、誰かのためだけに用意された、その人だけに感じ取れるものだと思います。それが自分のためであっても素敵ですよね。一人でも十分にロマンティックは作れますよ」

──どうしたら日常の中に自分だけのロマンティックを見いだせるようになると思いますか。

「本や映画、ドラマといったコンテンツに広く触れることは大切だと思います。古今東西の物語には、日常の中でロマンティックを見つけるヒントがたくさん詰まっています。そんな物語に数多く触れることで、日常のロマンティックを見つけるのが上手になるんです。そうすれば世界の見え方も変わるし、人生はもっと彩りあるものになるはずです」

読みたい本と出合えるブックカフェ

「本棚で手と手が重なる、映画のような偶然の出会い」を叶える月額会費制のサブスクリプション型オンラインプラットフォーム「Chapters bookstore」。会員は毎月3冊の中から1冊を選び、同じ本を読んだ人とオンラインやビデオチャットでつながることができる。そのリアル店舗「チャイと選書」が東京・市ヶ谷にオープン。店内に並ぶ本のタイトルは全てブックカバーで隠されており、ヒアリングをもとに選書。無料でも選書体験ができ、会員以外も利用可能。スリランカ産の茶葉を使ったチャイが人気。

チャイと選書
住所/東京都新宿区市谷田町2-20 司ビル1階
営業日/水〜金 9:30〜17:00
休業日/月・火・土・日
LINE/https://line.me/R/ti/p/@047atjnu?oat__id=4648842

Photo:Wataru Hoshi Interview & Text:Haruna Fujimura Edit:Miyu Kadota

Profile

森本萌乃 Moeno Morimoto 1990年、東京都生まれ。株式会社MISSION ROMANTIC代表/書店主。2019年にオンライン書店「Chapters bookstore」をスタート。マッチングサービスやカフェの運営を手がける。「地球上にロマンティックを増やすこと。」をモットーに、日々ロマンティックの仕組みと普及を模索中。著書に『あすは起業日!』(小学館)。

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JUNE 2025 N°187

2025.4.28 発売

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