最近話題の“直美”問題から、今増えているトラブル例、良質なドクターやクリニックの見極め方、渡韓美容の落とし穴まで。後悔しない美容医療を選ぶために、今、知っておきたい実情やポイントをビスポーククリニックの室孝明医師と銀座ケイスキンケアクリニックの慶田朋子医師が紹介する。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年4月号掲載)
昨今、美容クリニックがらみでよく耳にする「直美(ちょくび)」とは
室先生「法律で定められた医師免許を取得後、2年間の初期研修を終えてすぐに美容医療に進む医師=“直美”を選択する医師が増えています。臨床経験が圧倒的に少なく、不測の事態への対応が懸念されます。実際、手術や注入の失敗などのトラブルも増えており、社会問題化しています」
慶田先生「“直美”と聞くと若い医師を想像するかもしれませんが、増え始めたのは10年ほど前。今となっては年齢だけでは判断がつかないので、経歴をみて大学卒業後2年で美容クリニックに就職していたら、その医師は“直美”と言えるでしょう。たとえば皮膚科の専門医になる場合、大学病院など規定の要件を満たした施設で60カ月連続で皮膚がんや膠原病、アレルギー性皮膚炎、熱傷、感染症などさまざまな皮膚科領域の症例の治療を経験し、学ぶ必要があります。
しかし初期研修のみならば、これらを体験する機会はまずありません。ひどい場合には、手術や注射のノウハウは動画で学び、若手の“直美”の医師同士で練習してすぐに診療を始めてしまう、なんてこともあると聞きます。トラブルは起こるべくして起こっているのです。私たち医師も啓蒙活度に力を入れていますが、患者さんご自身が“直美”の医師を選ばないことも、トラブルを回避し、よい医師が増えていく一助になると思います」
美容医療にもセカンドオピニオン。求めてもいいもの?
慶田先生「もちろんです。むしろ、『先生を第一候補にしていますが、ほかにいい先生がいるなら紹介して欲しい』と聞いたってOK。そこでムッとするような医師はダメ。元に戻せなくなる可能性だってあるのが医療。医師の顔色をうかがっている場合ではありません」
室先生「セカンドオピニオンが可能なのはいうまでもありません。患者様の権利です。いずれにせよ、初回の診察はカウンセリングのみにして、よく考えて納得してから施術を受けていただくことを推奨しています」
美容クリニック初心者が選ぶ際に注目すべきポイントは?
室先生「やはり一番わかりやすいのは、医師の経歴ですね。皮膚科や形成外科学会認定の専門医であること。これになるためには長期間の臨床経験や論文提出、各種学会での発表などが必要なので、一定の技術、知識等を持っている証となります。ちなみにボトックスなどの指導医は企業が出すもので、短いものだと数時間で取得できますし、上述の形成外科学会などを除いて、各種学会の会員は医師でなくても会費さえ払えばなれる場合も多いので、あまり参考にはなりません」
「安かろう、悪かろう」は美容医療にも言えること?
慶田先生「深刻なトラブルの原因にもなりかねないので、あまりにも安価なクリニックは避けたほうが賢明。たとえばホクロ除去の場合、それが皮膚がんではないと自信を持って言える知識と経験があること、痕にならずにキレイに仕上げるレーザーの技術などが、施術の価格には含まれているのです。ですから、腕に自信のある先生ほど安売りしません。
円安の影響などもあり、ヒアルロン酸などの製剤、注入用の針などの価格は高騰しています。あまりにも安価な場合には、低グレードのものを使っていたり、ひどい場合には生理食塩水で薄めているなんてこともあり得るのです。ちなみに、腕のいい医師が高品質の製剤を使った注入をした場合、安価なクリニックより持ちがいい場合もあります。結果的にお得なのは、きちんとしたクリニックだと思います」
ドクターのセンスと経験の見極め方…。失敗しないドクター選びのヒントとは?
室先生「美容医療のドクター選びで重視すべきポイントは、経歴もですが、人柄、センス、医師としてのモラルや安全性。失敗はどんな名医でもあります。ただきちんと医師としてのモラルを有し、常に安全を心がけていれば、さまざまなケースを学んで対策をしているので、失明などの取り返しのつかない事態になることはまずないでしょう。センス(美的感覚)と人柄に関しては相性も関係するので、いろんなドクターと話すことが大事。条件をすべて満たす本命のドクターに出会えたら、それは“宝”です」
新しいメニューやマシン導入に熱心なのはいいクリニック?
室先生「マシンは数年かけてベストなバージョンに微調整されることも多いので、新しいからとすぐ飛びつかず、しばらく経過を見るのがおすすめ」
慶田先生「注入系は、薬剤を事前にチェックし、未承認の製剤使用などを避けることでトラブル回避に。また、流行りの“成長因子”は要注意。たとえば、成長因子『FGF』は本来、床ずれなどでの皮膚の欠損部分の治療に使われるもの。顔に使用すると腫瘍のように腫れ上がることがあり、修復が難しいケースもあります」
渡韓して美容施術を行う人が急増中。海外での医療トラブル…その顛末とは?
室先生「美容医療は本来、その人に合ったものを提供すべきもの。旅行のついでとなると、カウンセリング時間が不十分だったり、言語の壁もあります。通訳を介してニュアンスを的確に伝えるのは難しく、『こんなはずではなかった』となることも多い。顔や目鼻、唇の形を変えるような施術の場合は特に、現地の医師のレベルやセンスもピンキリですし、そもそも美的感覚が違う場合もあり、後悔する人やトラブルも多い。何かあったとき、いざ韓国で補償のための裁判を起こすとなったら、それはそれは大変です! 言語は韓国語、書類はよくて英語。日本の国際弁護士ではなく現地の弁護士に頼むことになり、裁判のたびに渡韓するなど、あらゆる面で不利。渡韓美容をするならそのリスクもセットで考えるべし」
慶田先生「個人的にはメディカルツーリズムにはリスクしかないと思っています。レーザー施術での火傷などのトラブルはよくありますし、重篤な後遺症を伴うトラブルが起きて裁判を起こしても補償を勝ち取るのはかなり難しい。韓国で打ったボトックスで顔の筋肉がまったく動かなくなった、表情がゆがんでしまった、などの事例も経験しています。打つ前の状態に戻る保証はなく、返金のハードルも高い。総合的にみて私は渡韓美容はおすすめしません」
増え続けている“他院修正”の実態とは
慶田先生「他院修正は主に美容クリニックが受け入れています。当院で多いのは、ボトックスやヒアルロン酸の他院修正。特にヒアルロン酸注入の失敗が多く、誤って血管に注入してしまい、その部分が壊死したり、異物反応や感染で腫れ上がったりしたケースなど。すぐに溶解酵素でヒアルロン酸を溶かしたり、抗生剤を使うことが必要なのですが、悪質なクリニックになると、使用したヒアルロン酸の種類や部位などをなかなか開示しないこともあります。種類がわかったとしても、修正にはかなりの費用がかかります。当院では1ml150単位で5万円ですが、状態によってはこれが何百単位も必要になることも。ちなみに、日本医科大学付属病院には美容後遺症外来があります」
室先生「大手チェーン系の場合、担当医師にしか修正を受け付けてもらえないという話も聞くので要注意。どのように修正してもらえるかは契約時にチェックし、同意書などもきちんと保管しましょう。保険診療で行った眼瞼下垂手術の修正依頼も多い。二重幅の微妙な調整、まつ毛の理想的な見え方を実現するのは、やはり美容外科医でないとなかなか難しいですね」
SNSのフォロワー数や口コミはクリニック選びの基準になる?
室先生「SNSの活用が上手な先生の場合、フォロワー数がかなり多いこともあります。ただ、フォロワー数は注目が集まっている指標にはなりますが、イコール名医の証ではありません。SNSは一度閲覧すると類似情報が出てくるシステムなので、似たような間違った情報ばかり目に入ってきやすくなります。また、SNSやHPへのコメントや口コミも、サクラの場合もあるので正直あてになりません。SNSの情報だけでクリニックやドクターを選ばないのが賢明です」
慶田先生「SNSに掲載するビフォアアフターの写真が精巧に加工されていることもあり、SNSで腕の良し悪しは判断できません。また、私がチェックしているのが患者さんの“年齢”。ハイフなどのたるみ治療を、まったくその必要がない10~20代前半の若年層に行ってしまう医師はNG。私には23歳の娘がいますが、彼女にハイフは絶対に行いません。その人に必要な医療を、必要なだけすすめてくれる、誠実な医師を選ぶことが失敗しないコツです」
症例数No.1、満足度No.1などの表記は信頼してもいい?
室先生「いいわけないですよね(笑)。美容医療の症例数に関して、正しい数を調べる術は今のところないのにその表記をする時点で問題ありです。満足度に関しても同じことが言えます。それを堂々とHPやSNSで謳ってしまうこと自体、その医師のリテラシーの低さが露呈しています。経験豊富なほうが安心という考え方もありますが、必ずしも症例数=経験値ではありません。患者さん一人一人にたっぷり時間をかけて向き合っている医師と、流れ作業で診察している医師では、前者の方が誠実だと言えると思います」
Illustration : Mariko Enomoto Text : Chiharu Nakagawa Edit : Naho Sasaki
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