東信インタビュー レントゲン写真に写し出された植物の驚異の世界のその先へ | Numero TOKYO
Art / Feature

東信インタビュー レントゲン写真に写し出された植物の驚異の世界のその先へ

フラワーアーティストとしてグローバルに活躍する東信。数々の花・植物を題材に実験的なクリエイションを展開するなかで誕生したレントゲン写真のシリーズ「X-RAY FLOWERS」の展覧会を、3月20日(木曜)〜30日(日)、京都新聞ビル地下1階にて開催する。植物の内部にフォーカスした黒と白の静謐な世界を通して伝える東信のメッセージ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載

・フリージア・カラクサゲシ
・フリージア・カラクサゲシ

エルメス、ディオール、ブルガリなどのブランドとの取り組みをはじめ、第一線で活躍するフラワーアーティスト東信の原点は、花屋としての日々の活動にある。そこから生まれる花・植物を題材にした革新的なアート表現を通して、花の価値を高めてきた。花束を宇宙成層圏へ打ち上げ、雪原や砂漠といった過酷な環境下で花の美を捉え、世界各地で巨大な植物彫刻を制作しながら人間と花の関係性を探る。

アクリルに植物を封じ込めた植物標本のような作品、「パルダリウム」と呼ばれる植物保管装置の開発まで、前人未到の数々の挑戦が挙げられる。その一つに2019年頃より、花の内部構造そのものに着目し、X線撮影技術を用いた花のレントゲン写真作品「X-Ray」シリーズがある。そこには見慣れた植物の、普段見ることのない内部の姿が写し出されている。

・カラー
・カラー

今回、個展「X-RAY FLOWERS」では、X線撮影による花のレントゲン作品群と、CTスキャンによる植物の内部を映し出す3D映像で構成され、東の作品の特徴でもあるダイナミックさや華やかさとは違う、花の本質的な美しさを魅せる。

植物のレントゲン撮影自体は、1920年代後半〜30年代にかけて研究目的で行われていた手法である。葉や花びらが繊維まで透過され、細部や構造を鮮明に捉えた写真は、科学を超えた美を写し出し、見る者に驚きを与えたのだという。東は植物のレントゲン写真の記録を、新たな表現の形として再解釈した。

・サンタンカ
・サンタンカ

「レントゲンによって、植物の内部の世界を覗くことができます。一見、植物はシンプルな構造だと思いがちですが、想像よりもずっと複雑に成り立っていたり、意外な真実を知ることができ、花の見方の新しい切り口を発見したような気がしました。あらゆる植物で試しましたが、単体で撮っているものもあれば、根、葉、茎、花、蕾などパーツごとに切り分けているもの、それをさらに組み合わせたりしています」

新しいアレンジメントの形

・ストレリチア・メデニラ
・ストレリチア・メデニラ

・クルクマ
・クルクマ

花というと一般的にカラフルというイメージを抱くが、色を排除することで、骨格といえるシルエットと、白と黒のコントラストやグラデーションだけで浮き上がる姿は、植物の生命そのもののように感じられ、どこか神秘的でもある。

「色の表現はいつもの制作の中で十分できることです。色という表面的な情報を削ぎ落としたら、すごくフォトジェニックだったり、本来は見えてなかったものが見えてきて、自分の中でも発見がありました。ただ普段のアレンジメントと同じで花をどんどん重ねるだけでは美しくない。レントゲンの場合はそれが如実で、重ねれば重ねるほど白くなり、輪郭がなくなっていく。やっぱり一輪の花に対する美があり、それだけでも作品になり得るので、組み合わせや重ね方を一つ間違うと、つまらないただの花の塊になってしまう。

今回は、本当に感覚的に作為なく、レントゲン写真にきちんと写ることを前提に、一つ一つの見え方だけを計算して組み合わせる花を選定しています。花自体の水分量など特徴も理解した上で、明るくなる部分、暗くなる部分を考えながら置いたことがかえって面白い取り合わせになりました。レントゲン写真になってはじめてかっこいいという新たなフラワーアレンジのカテゴリーを作っている感覚です」

花を取り巻く環境ごとアートに昇華する

・メデニラ・アマリリス・インドシクンシ・バルボフィラム
・メデニラ・アマリリス・インドシクンシ・バルボフィラム

・シャクヤク
・シャクヤク

・オニユリ
・オニユリ

表面的な部分だけでなく、内部を覗くことで、環境に合わせて進化しながら異なる構造を持ち合わせる植物の本質を知ることもできる。乾燥地帯に生きるサボテンの内部は実は水分量が多いため白く写ったり、葉の表面には毛細血管のように葉脈が張り巡らされていたり、小さい中にいろいろな構造が見える。高度な撮影技術を用いて捉えられた植物の姿から思いを巡らせ、美しさ、儚さ、力強さ、尊さ、生命の神秘を感じてもらいたい。

・ゼンマイ・スズラン
・ゼンマイ・スズラン

「植物を新しい視点で見るという意味では、手法は全然違いますが、ドイツの植物学者で写真家のカール・ブロスフェルトの写真にも通じるものがあるような気がします。植物のクローズアップを、アシメトリーだったり、緻密な視線で捉えた彼の、自然界の造形物としての植物の見方は新鮮だったと思います。

こうしてレントゲン撮影したり、CTスキャンで3D映像化することも、時代は違うけど、植物の中を覗くという視点の変換という意味では同じだなと。ただ僕たちは研究者でも学者でもないから、アートとして花を表現しています。これを見た人たちがどう受け止めるか。植物に対してこういう目線があって、それによって何かヒントを得てくれたり、気づきを持ってもらえたら」

東は単に花を生けるだけでなく、生命としての花の魅力を最大限に引き出すために、独自の視点とさまざまな手法で徹底的に花の可能性を追求してきた。彼の美意識で解釈した現代版の植物図鑑や植物標本を作ったり、ミクロの世界を写し出すレントゲン技術を使ってアプローチしたり。さまざまな品種改良を経て進化を遂げ、多様な種が生み出されている現在の植物の姿を表現という形で残すことも東にとって重要な行為だ。

花を武器に花のために闘い続ける

・サラセニア・フウセントウワタ・アリストロキア・ギガンテア
・サラセニア・フウセントウワタ・アリストロキア・ギガンテア

「現在の花屋の状況から、花を取り巻く環境、花の産地や価格、花そのものの種類や状態の変化を肌で感じてきたし、誰にも負けないくらい最前線の現場で見てきました。花のニーズはなくなりはしないけれど、花卉業界の未来は決して明るいわけではないと危惧しています。

花を生産し輸送するためにエネルギーを過剰に消費し、より低コストの労働力を求めてアフリカなどに生産拠点を移す。そんな社会問題、環境問題への意識の高まり、消費者の花離れ、それに伴い生産者もよりコストパフォーマンスのいい花に切り替える。さまざまな要因が重なり、花の世界は行き着くところまで来てしまっているように思います」

東が他のフラワーアーティストと圧倒的に違うのは、今も変わらず花屋として現場に立って実際に花を扱っていること。20年以上続けてきた、こうした日々の営みの中で見えること、感じたことをアート表現へと昇華してきた。

・マダガスカルジャスミン
・マダガスカルジャスミン

「僕たちは当初からオーダーメイドというスタイルでフラワーロスの削減に取り組み、花の生命と向き合ってきました。花を扱うことに大いなる矛盾を抱えながらも、未来に向けて花の文化をきちんと残していくために、今の表現方法を駆使して形にするのは、自分にとって必然というか、その責任があると思っています。

そういうことへのアンチテーゼも含めて作品に変換していく必要がある。だから僕たちは、アートだったり、グラフィックだったりと手を変え品を変え、この時代の花の形や花のあり方をどう伝えるべきかを常に考えています。花に生かしてもらっている者として見過ごすわけにはいきません」

花を取り巻く未来は決して明るいわけではないが、かといって憂いていても仕方がない。現状をきちんと伝え、知ることで何かを考えるべきだと東はいう。レントゲン写真を通して、この多様性に富んだ植物の美しさに興味を持ってもらうこと。そして、それが思考や気づきの出発点となり、花の価値を高めること、花卉業界のあり方への一筋の光になることを願って、発信し続ける。それは花があって今の自分がある、花という武器で闘い続ける東信なりの花への恩返しであり、使命でもあるのだ。

東信 展覧会「X-RAY FLOWERS」
会期/2025年3月20日(木・祝)〜30日(日)
時間/11:00〜18:00(17:30最終入場)
会場/京都新聞ビル地下1F
住所/京都府京都市中京区烏丸通夷川上る少将井町239-B1F
※3月20日14:00〜 オープニングイベントとして、AMKKと親交の深いバンドALGIERS(アルジェ)をゲストに迎え、ライブパフォーマンスを行う。

 

Art Work:Makoto Azuma, Shunsuke Shiinoki  Edit&Text:Masumi Sasaki

Profile

東信 Makoto Azuma 2002年よりオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」をオープンし、現在は東京・南青山を拠点に活動する。05年より、花・植物による表現の可能性を探求し、花の芸術の枠に捉われない造形表現を始め、09年より実験的植物集団「東信、花樹研究所(AMKK)」を立ち上げ、実験的な作品発表を重ねる。「生命」としての花の魅力を最大限に引き出し、 “Botanical Sculpture”(植物彫刻)と評される巨大な作品群から、レントゲン技術で花を写し出すミクロの世界まで、独自の視点から徹底的に花・植物の美を追求し続けている。
https://azumamakoto.com/

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