話題作への出演が相次ぎ、目覚ましい活躍を見せる俳優の見上愛。ファッショナブルでミステリアスな彼女の計り知れない魅力の裏には仲間とものづくりを楽しむクリエイターの顔があった。彼女が編集長を務めるインディペンデントマガジン『Muffin magazine』のメンバーをヴィジュアル制作スタッフに迎え、見上のパーソナルな魅力に迫る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載)

──『光る君へ』で大河ドラマ初出演を果たし、松居大悟監督の映画『不死身ラヴァーズ』で主演を務めるなど、2024年は目覚ましい活躍を見せていました。今、演じることにはどんな楽しさや喜びを感じていますか。
「素敵なキャストやスタッフとの出会いや、作品を観てくださった方からの感想を聞いたときに喜びを感じます。ただ、演じる上で、この瞬間が楽しい、これが苦しいと感じたことはなくて、それを探すために俳優を続けている部分もあります」
──もともとは演出家志望で、大学でも演出を学んでいたそうですが、その経験が演技に影響していると感じることはありますか。
「私は脚本をとても大切にしています。作品全体が伝えたいことを理解し、その後に、私が演じる役柄の目的に注目して読み込みます。俳優を始めた頃、出演シーンが少なくても、その役が全体で果たす役割や、主人公に与える影響とは何かを考えながら読んでいました。それは自分が目立つためにではなく、その役が存在する意味や、この役が主人公にどう影響するとこの物語はうまく回っていくのかを考えるためです。脚本の読み解き方に正解はないけれど、私は演出家を目指していたので、全体を俯瞰して脚本を読むクセがついて、それが今の自分にすごく合っていると思います」
──現在、ドラマ『119エマージェンシーコール』で主人公の同僚、新島紗良を演じています。この作品と役柄の魅力を教えてください。
「この作品は、消防局の通信指令センターを舞台に、119番通報を受け、救急車や消防車の出動を指令する『指令管制員』を描いたドラマです。普段はあまり意識しない職業ですが、一本の通報から一人一人の人生が見えてくるところがドラマの魅力だと思います。私が演じる新島紗良は、仕事への熱意があり真面目だけれど、協力し合うことが苦手。それをどう乗り越えていくのかが見どころです。紗良は語学が堪能な設定なので、それに苦しみながら演じています(笑)」
──河合優実さん、青木柚さん、鈴木仁さんなど同世代の俳優に友人が多いそうですが、トーク番組『ボクらの時代』で話していた「みんなに恥じないように」とは、負けないように頑張ろうという意味ですか。
「役者仲間というより親友がたまたま同じ職業だったという感覚なんです。同じ業界にいる人にしか伝わらない悩みがあるから、相談することもあるけれど、普段は仕事の話もほとんどしないんですよ。『恥じないように』という言葉もライバル心ではなく、彼らの信頼を裏切らないようにという意味です。私たちは俳優である以前に仲間なので、みんなに『人としてやってはいけないことだろう』とガッカリされるような人間にはなりたくないという思いも込められています」
──固い信頼関係があるなかで、一緒に頑張っていこうという?
「そうですね。でも、頑張っても頑張らなくてもいいくらい親友でいてくれる人たちなんです。『Muffin』のみんなもそうですが、苦しいときにずっと一緒にいてくれた人たちなので、大切な存在だし、何があっても変わらない仲間だと思っています」
ゼロからイチを創る苦しさ
──『Muffin magazine』では編集長を務めています。俳優業のかたわら、ものづくりを続ける理由とは?
「写真家の久保田伶奈、モデルの志鎌にいな、彫刻家の山田結子と、みんなで遊んで撮っていた写真が溜まっていたことがひとつ。創刊当時の23年は、それぞれが取り組んでいる作品を外に向けて発表していない時期で、もったいないなと思っていたんです。みんなの才能を知ってほしいという理由もありました。自分は得意なことはないけれど、みんなのクリエイティブを雑誌にまとめる役割はできるから編集長を務めることにしました。役者の仕事はゼロからイチを生み出す作業というより、90まで出来上がったものを100に近づける作業というか。だからゼロから作る苦しさをちゃんと知っておこうという気持ちもありました」
──『Muffin magazine』を編集して、クリエイションに対する視点の変化はありましたか。
「正直、これはかなりキツいなと思いました。自分たちで決めたことだけど、納期を守らなきゃいけない。同時にメイキングの展覧会も開催しましたが、みんな本業と並行しながらの制作でした。睡眠時間を削って制作していると、いいアイデアが浮かばなくなったり。何かを作ることはこんなに大変なんだと実感しました。この経験を通して、なんとなく過ごしていた時間も、これを撮っておこうとか、これを雑誌に書いてみようかなとか、インプットを意識するようになりました」
──役者としての活動にプラスになっていることは?
「私は一つのことをやり続けると集中しすぎて苦しくなってしまうんです。だから、全く違う表現を並行することは、ストレス発散にもなりました。俳優の仕事は自分自身というよりは役としての表現なので、自分の中にあるものを表現する雑誌づくりは、役者とは違う楽しさがあります」
──雑誌のほかに、インスタグラムで『Muffin』チームと撮影した写真も発表されています。お洋服は見上さんがご自身で用意されると伺いましたが、見上さんのファッションのポリシーは?
「好き嫌いやえり好みをしないこと。知り合いの古着屋さんが『似合うと思えば全部似合う』と言っていたんです。確かにそのとおりだなと。役を演じるときはどんな衣装も着こなす必要があるので、普段からいろんな服を着ていたほうが、芝居も自然に見えるんじゃないかと思って、ドレスもスーツも古着もブランドも、何でも着ます。洋服だけの部屋があるぐらいファッションは大好きですが、撮影現場に行くときはジャージが定番になりました(笑)」
──最後に、目指す俳優像、または俳優以外でもこれから挑戦してみたいことを教えてください。
「俳優以外では、アイスランドで陶芸家になること。もともと陶芸も好きなんですが、昨年、アイスランドを旅したとき、いつかこういうところで陶芸しながら生活できたらいいなと思いました。俳優としては『目標をあまり決めすぎない』と決めています。演じられる役が狭まったり、自分の意識に引っ張られちゃう気がするので、いただいた役を柔軟に全うしていきたいです。演出については、この先、いつか演出ができる日が来るといいなと思っています」
『119エマージェンシーコール』
舞台は消防局の通信指令センター。119番通報を受けた指令管制員たちが一本の電話で命をつなぐ最前線に立つ姿を描く。熱意と想像力にあふれる新人指令管制員・粕原雪(清野菜名)は、通話からわずかなヒントも見落とさず、活躍していく。見上は優秀だが人付き合いが苦手な同僚、新島紗良を演じる。
出演:清野菜名、瀬戸康史、見上愛、一ノ瀬颯 前原滉、中村ゆり、佐藤浩市
フジテレビ系列で毎週月曜21時から放送中。
Photos:Reina Kubota (Muffin magazine) Styling:Yoshiko Kishimoto Hair & Makeup:Kenji Toyota Illustrations:Yuiko Yamada (Muffin magazine) Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Mariko Kimbara Fashion Associate:Miyu Kadota
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