幾左田千佳「無であることが可能性を開く」|2025年、新時代を創る女性10人 | Numero TOKYO
Culture / Feature

幾左田千佳「無であることが可能性を開く」|2025年、新時代を創る女性10人

日常のあらゆる物事に対してオープンなスタンスを貫き、心に響く言葉の欠片を集めていく。そこから生まれる一編のポエムが、「チカ キサダ」の強いクリエイションを支える補助線だ。幾左田のまなざしは今、かつてバレエで目指した世界の舞台へと再び向けられている。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載

──「チカ キサダ」は10周年。どのような成長を遂げましたか。

「この4、5年で、組織としてかなり整ったなと思います。それぞれの分野に精通した人々が関わるようになり、チームが形成され、ブランドのアイデンティティがより明確になってきました」

随所にインサートされた鮮烈な赤が印象に残る2025年春夏「Intoxication」。
随所にインサートされた鮮烈な赤が印象に残る2025年春夏「Intoxication」。

──チュール使いが特徴的である一方、2025年春夏は古着を活用するなど、素材の幅も広がっていますね。

「今回最初に手を動かしたのが、古着のアロハシャツを使ったコルセットでした。ヴィンテージショップでふと目に留まり、新しいアイデアにつながったんです。私が知る限り、アロハシャツといえば、ラグジュアリーやエレガンスとはちょっと無縁な存在。これを美しい女性服に蘇らせることができたら、新しい挑戦だなと」

──あえて難しいものを取り入れている?

「それができるようになったのは、割と最近かもしれません。わからないものに挑戦することが怖くなくなってきたんです。私の場合、コレクション制作はいつも『無』の状態から始まります。その価値が共有できて、一緒にワクワクできるチームができたことがやっぱり大きいです」

すべてはポエムから始まる

──コレクションのインスピレーションは?

「必ず最初にポエムを作ります。シーズンヴィジュアルを撮影するときも、チームに細かい説明はせず、まずはポエムを読んでもらうだけ。あらゆる見えないものを、ポエムから可視化していく作業です」

──ポエムはどのように制作を?

「誰かと会話する中での何げない一言、電車の中吊り、映画の台詞など、気になった言葉をひたすら書き溜めていきます。小説の段落を丸ごとなんてことも。お笑い芸人さんでいうところのネタ帳みたいなものかも。半年に一度、そのノートを見直して、特に好きだなと思う言葉を抽出していきます。半年でガラッと変わっている自分に気づくこともありますし、おのずとそのシーズンのカラーパレットも見えてきます」

2024年秋冬シーズンのランウェイより。クリノリンを入れ、動きとディテールを際立たせた。
2024年秋冬シーズンのランウェイより。クリノリンを入れ、動きとディテールを際立たせた。

毎シーズン、リリースにはポエムが添えられている。文体への憧れから、未見の花の匂いや境界の先に広がる景色を立ち上がらせた2024年秋冬「砂漠の花」。
毎シーズン、リリースにはポエムが添えられている。文体への憧れから、未見の花の匂いや境界の先に広がる景色を立ち上がらせた2024年秋冬「砂漠の花」。

──言葉から入るというのは、デザイナーとして珍しいアプローチかも。

「自分にとっては、ダンスでいうところの振り付けのようなものかもしれません。それがないと動けない」

──「チカ キサダ」の服は、ボリューミーな見た目に反して軽やか。手持ちの服とも合わせやすいピースが多い印象です。

「スタイリングのイメージありきではないので、逆にお客さまのコーディネイトを見て、私もやってみたい!とヒントをもらうこともあります。国籍を問わず、男性にも着てもらいたいですし、そのためにも余計なコンセプトは設けていません」

一流ダンサーとクリエイターのコラボで、バレエ界に新風を吹かせる「バレエザニュークラシック」。幾左田が衣装を担当。 Photo:Yumiko Inoue
一流ダンサーとクリエイターのコラボで、バレエ界に新風を吹かせる「バレエザニュークラシック」。幾左田が衣装を担当。 Photo:Yumiko Inoue

──バレエやオペラの舞台衣装も手がけています。

「バレエ界を担うトップダンサーたちとご一緒できる「バレエザニュークラシック」は、とてもいい経験になっています。私自身、これまで国内外のいろんな公演に足を運んできて、こうだったら素敵なのにとか、自分だったらこうするだろうなと感じてきた積み重ねがあります。ファッションデザイナーとしてお声がけいただいた以上、見たことのない衣装を披露したいと思いました」

──2023年には「ミラ ショーン バイ チカ キサダ」がスタート。

「オファーをいただいたとき、両親に報告したら、私よりもブランドのことをよく知っていて、すごく喜んでくれました。ちょっと親孝行ができたかなと思います。まだ小さなカプセルコレクションですが、自分の強みをエッセンスとして取り入れながら、大切に育てていきたいです」

──複数のブランドのディレクションでパニックになったりしない?

「ワーッとなる前に、本を読んだり、バレエの稽古をしたり、美味しいものを食べに行ったり。私は常に妄想しているので、それを止めるためにも必要な時間です」

──バレエは3歳からスタート。幾左田さんにとってどんな存在?

「ダンサーとして世界を目指す夢を諦めたときは、二度と振り返ることはないだろう思っていました。でも、体のメンテナンスでヨガを始めたり、ジムに通ったりもしてみて、やっぱりバレエを踊ることが自分の体に一番心地いいと気づきました。時間がかかりましたが、今、あらためてバレエが大好きです」

──これからのヴィジョンを。

「海外の有名なバレエ団の舞台衣装を手がけ、自分の名前がキャストの一員としてクレジットされたら、それは子どもの頃からの夢がひとつ叶ったことになるのかなと、最近思うようになりました。いつか海外のバレエカンパニーや国立バレエ団の衣装に携わってみたい。そのためには時間を惜しまず、自分の目で見て、足を使って、常に無からコツコツ感じるものを表現し続けたい。それが自分にとってのベストにつながることがわかったので。たくさんの経験をブランドの表現に活かして、これからもどんどん進化していきたいです」

2025年、新時代を創る女性10人はこちら

Photo:Yuki Kumagai Hair & Makeup:Chacha Interview & Text:Miwa Goroku Edit:Michie Mito

Profile

幾左田 千佳 Chika Kisada 幼少期よりクラシックバレエを学ぶ。コンクールなどで数々の成績を収め、バレエダンサーとして舞台で活躍した後、デザイナーに転身。14年「チカ キサダ」を立ち上げる。16年TOKYO FASHION AWARD 2017を受賞。23年「ミラ ショーン バイ チカ キサダ」のディレクターに就任。22年以降、「バレエザニュークラシック」のプロジェクトを皮切りに、オペラ「ローエングリン」など、舞台衣装も手がける。

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