エル・ファニング「常に自分を驚かせ続けたい」|2025年、新時代を創る女性10人 | Numero TOKYO
Culture / Feature

エル・ファニング「常に自分を驚かせ続けたい」|2025年、新時代を創る女性10人

インディペンデントからハリウッド大作まで幅広い映画で主演を務め、独自の地位を築いてきたエル・ファニング。プロデュースも手がけるようになり、ますます女性たちをエンパワーする存在に。ジャーナリストの佐藤久理子が彼女のエネルギーの源をひもといた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載

©Luxie Moreland / WWD via Getty Images
©Luxie Moreland / WWD via Getty Images

アンタッチャブルな純粋さと明晰さ

あどけない横顔、というだけではない。エル・ファニングにはどこかアンタッチャブルな純粋さとでもいうものがあり、その天真爛漫さを見る限り、私たちは彼女がすでに20年以上のキャリアを持つ俳優だということを忘れてしまいそうになる。だが、ひとたびその発言を聞けば、26歳という年齢以上に成熟した明晰さに感銘を受けるに違いない。

2歳で初めて映画の現場を経験し(姉ダコタ・ファニングとともに出演した『I am Sam アイ・アム・サム』2001年)、以来ソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』(10年)や『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17年)、『パーティで女の子に話しかけるには』(17年)、ディズニー映画『マレフィセント』(14年)、『マレフィセント2』(19年)など、インディペンデントから大作映画まで、しなやかに行き来しながら、独自のポジションを築いてきた。子役から成功したお手本のような例であると同時に、自然体の魅力は、まさに2020年代のフェミニニティを体現するといえるのではないか。

特にここ数年は、姉ダコタとともに製作会社Lewellen Picturesを立ち上げ、自身が主演したドラマシリーズ「『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』(20〜23年)や『プレインビルの少女』(22年)のプロデュースも務めるなど、ハリウッドの女性のエンパワーメントを担う一人となった。

そんな彼女の新作は、エルが10代の頃からファンだったというミュージシャン、ボブ・ディランの若き日を描いた『名もなき者 / A COMPLETE UNKNOWN』だ。ディラン(ティモシー・シャラメ)の最初の恋人にして大きな影響を与えたといわれる社会活動家のスージー・ロトロをもとにした女性シルヴィに扮した。

「ディランとスージーの関係にはとても胸を打たれる。彼女だけが有名になる前の彼を知っていて、ディランをただディランその人として愛したから。

二人がニューヨークで出会ったとき、彼女はすでに社会活動をしていて、ミネソタから出てきたばかりの彼に大きな影響を与えた。世界で起こっていることを教え、1960年代ニューヨークのユースカルチャーを伝えた。ディランが政治的な歌詞を歌うようになったのも彼女の影響だったし、彼女のことを歌った歌も少なくない。

それにファーストラブというのは常に特別な意味を持つものでしょう。若いゆえになおさらその経験は、自分を形作るような深い影響を与えるもの。その後、二人が別の方向を目指し離れてしまったことは残念だけれど、別れた後も、彼女が11年に亡くなるまでずっと、ディランにとって大切な人だったと思う。というのは、この映画で彼女の名前、つまり私のキャラクターの名前を変えることが唯一、彼が出した要求だったから。もともとスージーはマスコミにあまり顔を出さない控えめな人だったので、ディランは彼女の意思を尊重したかったのだと思う」

エルはまた、彼女が自立した芯の強い女性として描かれていることも惹かれた理由だと語る。

「映画の中で、彼女が単にディランのガールフレンドの一人という扱いではなく、自分のヴィジョンをしっかり持った女性として描かれていることにも誇りを感じる。そういう人だったからこそ、彼女は引き際をわきまえていた。ディランが変わっていくことを見極めて、彼の世界に自分の居場所はないと理解し、自分から離れる決心をした」

本作は60年代前半、フォークミュージックが全盛だった時代のレトロなニューヨークを舞台にしている。当時と現代を比べて、彼女はどんなことを感じたのだろうか。

「この時代のグリニッジ・ヴィレッジ周辺はとてもクールで、自由な雰囲気があったと思う。若い人たちは公民権運動に参加したり、人種差別に反対して社会を変えようとしていた。みんなで一丸となって行動することで何かをし、生み出すという希望を持っていたし、それに携帯もソーシャルメディアもなかったから、フォークミュージックは何かクリーンでピュアな力を感じさせた。今日、私たちは同じようなパワフルなものに出合えるか?正直、私にはわからない。今日とはとても異なる時代だったと思える。

でも同時に、この時代を振り返ることは私たちにとってインスパイアされることでもある。当時の若者たちのように、私たちだって希望を失っていないのだから」

子どもの頃から変化し続けてきた

23年から24年は、エルにとって特に記念すべき年になった。

「23年の終わりに念願のブロードウェイの舞台に初めて立ったのは、とても強烈な体験だった。そして本作で大好きなボブ・ディランの映画に関わることができた。実は監督のジェームズ・マンゴールドとは以前、別の企画で仕事をしそうになったけど実現しなかった経緯があり、それを彼も覚えていてくれて。だから個人的にも感慨深い。またこの作品のほかにも映画を3本撮ったので、すごく充実していたし、自分のキャリアの中で特別な節目になった思いがある」

さらに現在、ニコール・キッドマンとともに製作、主演を果たす、ルフィ・ソープのベストセラー小説を脚色したドラマシリーズ『Margo’s Got Money Troubles(原題)』を準備中。この尽きないエネルギーの源はどこにあるのだろうか。そう問いかけると、しばらく考えた末、こんな答えが返ってきた。

「常に自分を驚かせたいという気持ちが大きいと思う。確かに2歳のときからこの業界にいることを考えれば、自分でもびっくりするほど長くやっているけれど、それだけに変化するのが当たり前というか。子どものときから今に至るまで変化し続けてきたし、それは私にとって必要なことだった。常に変化すること、チャレンジし続けることが私の原動力であり、前進させてくれる。もちろん、浮き沈みの激しい業界だし、好きな企画だからといってうまくいくとは限らないけれど。

長く続ける秘訣? いつも自制心を忘れずに、やりたいことに集中していくことかしら。そしてもちろん、仕事に対するパッションを持ち続けること。情熱を感じられなくなったら、やっている意味がない。でも今のところ、その心配はないけれど(笑)」

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
1960年代初頭。当時無名であったミネソタ州出身の19歳の青年、ボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)が、NYの音楽シーンを舞台に、フォークシンガーとしてセンセーションを巻き起こす。やがて批判も浴びながら革新的な音楽を生み出していく。

監督/ジェームズ・マンゴールド
出演/ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング
公式サイト/https://www.searchlightpictures.jp/movies/acompleteunknown
2月28日より全国で公開予定。

2025年、新時代を創る女性10人はこちら

Interview & Text:Kuriko Sato Edit:Mariko Kimbara

Profile

エル・ファニング Elle Fanning 1998年、アメリカ・ジョージア州生まれ。2001年、映画『I am Sam アイ・アム・サム』で姉ダコタが演じるルーシーの幼少期を演じデビュー。代表作に『SOMEWHERE』(10年)、『マレフィセント』(14年)。ドラマシリーズ『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』(20〜23年)では主演のほか、初めて本格的に製作総指揮も務めた。21年、ダコタと製作会社Lewellen Picturesを設立し、映画やドラマ番組、ポッドキャスト番組を制作している。

Magazine

JUNE 2025 N°187

2025.4.28 発売

Get Moving!

アクティブモードで行こう!

オンライン書店で購入する