
ピアノが弾けなくなってしまう難病を患い、絶望の淵に立たされた天才ピアニストが唯一無二の演奏を生み出す──。実在する双子のピアニスト、プレネ姉妹の数奇な運命と人生をモデルに『コーダ あいのうた』『エール!』『ふたりのマエストロ』のフィリップ・ルスレのプロデュースによる実話をもとにした映画『デュオ 1/2のピアニスト』が2月28日に公開となる。主演の双子役をつとめたNetflixドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」の人気キャラクターカミーユを演じるカミーユ・ラザと、映画初出演のメラニー・ロベールにインタビュー。
──「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、似ているようで異なる二人が同じ方向を見て力を合わせたときの強さを感じる作品でした。実在するピアニストであるプレネ姉妹の物語を演じるとわかったときは、どんなふうに感じました?
カミーユ・ラザ(以下、カミーユ)「私自身、すごく熱中した作品なので、力強いと言っていただけて、とても嬉しいです。確かに、実在の人物である彼女たちを演じるうえで、ふさわしい演技をしなければというプレッシャーはありました。また、2人の監督が大事にしているところを尊重しなければならないという思いもありました。でも、本当の事実というものが前提にあったとしても、私たちはそこから何か新しいものを作り出していかなくてはいけません。もちろん準備段階では、実際のプレネ姉妹にできるだけ近づこうとしますが、彼女たちの抱える病気の大変さや痛みは、私たちにはわからない。けれど、最大限に想像力を働かせて、彼女たちが感じていたことを表現する。と同時に、俳優として、実際に生きている人物に対して最も誠実なかたちは、コピーすることではなく、自分自身で演じるということだとも思ったんです。なので、単なるフィクションの作品より、二重の責任と義務を感じていたかもしれません」
メラニー・ロベール(以下、メラニー)「私たちにとって、すごく挑戦だなと思いました。プレネ姉妹は、今も実在している人たちなので、彼女たちが私たちの作品を観ることは大前提にあったので、すごく責任重大だなと。だからこそ、単にシナリオを読んで、役柄を演じるだけでなく、あらゆる面で深める必要がありました。例えば、どういう身体性で精神状態だったか、彼女たちがおそらく感じ、生きたであろうあらゆるところを、私たちが俳優としてどういうふうに演技するかは、私たちにとってもとても深い作業でした。
この美しい物語に参加できたこと自体にとても誇りに思います。しかも、実際にカミーユとはすでに絆があったので、それを生かした形での配役ということで、嬉しさもひとしおでした」
──お二人は実際に数ヶ月一緒に生活してたこともあり、元々親友だったそうですね。今回初めて共演したことで、何か発見はありましたか?
メラニー「カミーユがどういう人間かは、空で言えるほどよく知っているので新たな発見はありませんでした。ただ、これまで観客として見たことはありましたが、俳優として、現場でこんなに情熱を持って仕事をしているのかは初めて知りました。私たちの友情ももともと強いものだったので、一緒に仕事をしたことで、彼女に対する愛情がさらに大きくなったと思います」
カミーユ「確かにメラニーとの関係は、本当に姉妹みたいなんです。その関係性があったことは、今回の現場でそれぞれのシーンを演じるにあたって、かなり時間の節約になったと感じています。つまずくことはなく、自然体で姉妹を演じることができたなと」
──撮影が始まる数ヶ月前に、もともと決まっていた役を交代することが決まったそうですが、そのときにどんなリアクションをしたのか聞きたいです。また、それが映画にどのような影響を生み出したと思いますか?
メラニー「監督たちは、私たちのリアクションを心配していたようで、私たちが快諾して、ほっとしてたみたいです。自分が演じる予定だったクレールの役柄を気に入っていたので、サプライズではあったけれど、役を交代すると言われたときに戸惑ったり、落胆するようなことはありませんでした。脚本を書いた監督たちの選択なら間違いないだろうと思いましたし、喜んでという感じでした。ただ、かなり前もって準備を始めていたので、今回の二つの役を演じたような感覚はあって。今になって考えると、彼らの選択は正解だったなと思います。お互い、片方の役柄しか演じてなかったらしていなかっただろうことが深掘りできたという側面もあったので、結果的によかったなと」
カミーユ「私たちが二人の姉妹の両方について勉強したことは、お互い演技を豊かにするほかなかったですね。シスターフッドのような関係性をリアルに演じるうえで、とても助けられました」
──親からの期待や不安といった逆光は誰しも多かれ少なかれ抱えているものだと思いますが、二人はそういった逆境にぶち当たったときに、どのように乗り越えてきたと感じますか?
メラニー「私自身の乗り越え方といえば、やっぱり好きな友達や恋人に打ち明けたり、話を聞いてくれたり私を慰めてくれたりする人たちに常に身の回りにいてもらうことをしてますね。人生は大変なこともあるし簡単な道ばかりではないから、そういう辛い時に水面から顔を出して息をするためには、やっぱり人間関係が大切だなと。この映画の姉妹の場合、とても強い絆はあるけれど、ちょっと友達が少ないからそこはあったほうがいいんじゃないかなと思いました」
カミーユ「確かに生きていたらやっぱりうまくいかないことや傷つくことは誰でもあると思うんです。そういうときは忍耐強さも、自分でここを抜け出そうという積極的な気持ちもとても大切ですよね。とりわけ俳優業をやっていると、本当に数えきれないぐらいのオーディションを受けて、落ちまくるわけなんですけど、やっぱり落ちると、拒絶されたような気持ちになる。それに対して挫けることなく、ポジティブに乗り越えていくことが大事かなと。改善するとか、向上するということは、オーディションに受からなかったのは私が至らなかったと思ってすることではなくて、役が自分と合ってなかったんだと捉えて、またオーディションを受けようと立ち向かっていくことだと思うんです。でも、メラニーが言っていたように、逆境を乗り越えるには、やはり周りに話せる友人がいることも大切ですよね。挫けても、また胸を張って生きていくために」
──最後の質問ですが、フレドリック&ヴァランタン・ポティエのディレクションについて聞きたいです。監督が親子であり、二人がいることがどのような効果を発揮していたと思いますか?
メラニー「面白いし、唯一無二ですよね。今回、双子の話で、私とカミーユもすごく仲が良いし、しかも監督も父親と息子で、すごく親しいデュオが現場にいるという感覚がありました。実は父親であるフレデリックはですね、ロケの数ヶ月前に癌が発覚して、撮影が少し遅れたんです。手術をしてから、彼は前のようには話せなくなってしまって、彼が語る言葉を聞き取れるのは、息子であるヴァランタンしかいませんでした。病気にもかかわらずフレデリックは現場に立ち、ヴァランタンが彼の言葉を私たちに伝えていました。二人が同じ方向を見ていることはプロジェクトの最初から伝わっていましたが、現場での彼らの様子はとても感動的でした。フレデリックが現場に居心地よくいられるよう、他のスタッフも手を取り合っていたので、現場の連帯感も強くて。もちろん楽しい現場ではありましたが、そういう逆境をみんなで支える場所だったからこそ、最後までやり通せたのではないかと思います」
『デュオ 1/2のピアニスト』
実在する双子の天才ピアニストの姉妹にピアノが弾けなくなってしまう難病が降りかかる。絶望の淵に立たされた二人は夢を掴むため、唯一無二の演奏を生み出す。『コーダ あいのうた』『エール!』『ふたりのマエストロ』のフィリップ・ルスレがプロデュースし、Netflixドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」のカミーユ・ラザと、映画初出演のメラニー・ロバートが主演の双子を演じる。
監督/フレデリック・ポティエ&ヴァランタン・ポティエ
製作/フィリップ・ルスレ
出演/カミーユ・ラザ、メラニー・ロベール、フランク・デュボスク、イザベル・カレ、エリザ・ダウティほか
2025年2月28日(金)より新宿ピカデリー他全国公開。
© 2024 / JERICO – ONE WORLD FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 3 CINEMA
https://www.flag-pictures.co.jp/duo-pianist/
Interview&Text:Tomoko Ogawa Edit:Chiho Inoue
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