パリ、神戸、ロンドンを拠点に活動する3人のクリエイター。彼女たちはその街の風土や文化を感性に織り交ぜ、再編集していく。第1回目は、「ブリジット タナカ」デザイナー・田中千恵子のアトリエを訪ね、空間に息づくものとクリエイションのつながりをたどった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)

グラフィカルなモチーフを刺繍したオーガンジーのバッグや小物が人気の「ブリジット タナカ」。クリエイターデュオの一人、日本人デザイナーの田中千恵子はパリ在住16年目。9区にあるアパルトマンの6階に住まいを構え、そこで仕事も行う。キッチンとバスルームに寝室、バルコニーがあるコンパクトな造りの部屋はフランス語で「シャンブル・ド・ボン」と呼ばれ、かつては召使いの部屋だった。ここを選んだ理由は同じ区内に大好きなギュスターヴ・モロー美術館があるから。オペラ座も近く、居住者にはダンサーや舞台関係者が多い。
「2015年にリノベーションをし、内壁を一新。マーケットで見つけたシンクを取り付けました。ここではデザインやリサーチをして絵柄や仕様書を作成します。それらを工場へ送り、生産へと進めます。小さな会社なので、生産管理から販売まで全ての工程を自分たちでやっています」


縁飾りが施された天井と白い壁がパリらしい。あちらこちらにパリの蚤の市で集めたアイテムが置かれている。
「アンティークが大好きで、蚤の市には毎週のように通っています。それができるのはパリに住んでいる醍醐味。特に魚や鏡のモチーフのアイテムを集めています。鏡を配することで限られたスペースでも奥行きが出るんです。お気に入りのスペースは、収集したアイテムを並べた飾り棚。ある日“お魚の病”にかかり(笑)、魚のモチーフを集めて10年です。ブリジット タナカの最初のコレクションでも、キャビア缶や魚屋さんのモチーフを取り入れました。古いデザインやグラフィックにインスピレーションをもらうことは多いです。ただ、ものづくりにおいてコンテンポラリーに仕上げることは大切にしています」

日用品からアイデアを得るのは、学生時代にデザインが気に入ったチョコレートや手巻きたばこのパッケージを財布代わりにしていたことも影響しているのだとか。また、現在は日本とフランスをつなぐ 『ランコントル=オ=ジャルダン』というアートパフォーマンスを企画・運営し、年に一度パレ・ロワイヤルで発表している。その一環で日本の畳とフランスのブラッスリーチェアをミックスさせた椅子を発表したり、日本の文化の素晴らしさをあらためて感じているという。

「一時帰国をする度に、日本の魅力を再発見します。特に沖縄に気持ちを持っていかれていて、室内にはシーサーの置物があるくらい。シュノーケリングをして魚と泳ぐのが至福の時間。盆栽は、小さな松をサイドテーブルに置いています。好きが高じて、盆栽業者さんで修業もしているんですよ」
モットーは「頭に浮かんだことは全部やってみる」「思いついたら即行動」。このスピリットと彼女がこよなく愛する物たちが、クリエイティビティの原動力になっている。

「何か一歩を踏み出すことが一番大事。試しながら具現化していくことで、少しずつ見えてくるものがある。愛や生活、ふと浮かぶアイデアなど、人生ってすべてつながっているんですよ」
好きな物に囲まれたパリのアパルトマンの一室でアイデアはブラッシュアップされ、世界へ広がっていく。すべてがクリエイションに結びつき、無駄な時間は決してないと語った。
Photos:Yusuke Kinaka Interview & Text:Aika Kawada Edit:Miyu Kadota
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