長い間、力の強いほうがリードし、そうでないほうが寄り添う、という恋愛関係が主流とされていたが2021年から連載中の瀧波ユカリの漫画『わたしたちは無痛恋愛がしたい』では、そうした恋愛は痛みを伴うことを指摘。また、24年に配信されたNetflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』では対等な関係から始まる恋愛を提示し、出演者のTAEHEONは対話を促す“金言”で話題に。そんな二人に25年に目指したい“理想の恋愛関係”を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)

上下関係のない対等な恋愛関係は結べるのか
──2024年に話題になった恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』。瀧波さんはメンバーの言動で印象に残っているものありますか。
瀧波「たくさんあるんですけど、メンバーの皆さんが会話や対話をすごく大事にしていたのが特に印象に残っています。男女の恋愛リアリティショーでは男女間でゴタゴタがあっても、『好きだよ』『ごめんね』で抱き合って終わり。会話はいらない、って感じになるのが腑に落ちなくて。いやいや抱き合う前にもっとちゃんと話し合おうよ!と。
でも、ボーイズはうやむやにせずきちんと話そうとするし、『ちゃんと話せた?』と確認したりして、対話・会話を大事にしている姿勢を感じました。それは同性同士のコミュニティのスタンダードなのか、それともあの空間が特別だったのかわからないけれど、対等な立場で人間関係を結ぼうとしていたように私には見えたんです」
TAEHEON「ありがとうございます。“対等に”ということを全員が強く意識していたわけではなかったかもしれないですが、対話や会話を重視する空気はありました。僕自身、プライベートでも何か問題が起きたときは話し合おうとします。衝突したり、すれ違ったりしたら、互いの意見を聞かないとまた同じことを繰り返してしまうから。なぜ自分は嫌な気持ちになったのか、それを相手に伝えるのも、関係を育むためには欠かせないことだと思っています」
瀧波「大事なことですよね。あと、私はTAEHEONさんが、社会を変えることは難しいと諦めているメンバーに対して『ずっと変えないままだと水も腐ってく。流れる水こそがきれいじゃん』とおっしゃっていたのもすごく印象に残っているんです。違う意見を持つ相手に自分の考えを毅然とした態度で伝えることって大切なことだけど、苦手に感じている人も多いと思う。さらに、男女間だとまた違うバイアスがかかりがちというか。
でもこうした振る舞いを女性がしたら、『“女のくせに”と思われて、男性の恋愛対象から外れるのかな』と考えたりもしました。それはいまだに女性は波風立てない家庭的な人、男性は頼り甲斐があって強い人を演じないと異性にモテないという刷り込みが根強いからだとも思うのですが」
TAEHEON「瀧波さんも漫画『わたしたちは無痛恋愛がしたい』で『男らしさの呪い』について描いてらっしゃいましたよね。私は大学で男性性をテーマに卒論を書いたのですが、女性が『女性らしく』という圧力の中で苦しんできたように、男性も『男らしく』と言われ続けてきたことに苦しんできた。弱みや感情を見せてはいけないとか」
瀧波「そうした『らしさ』の下で恋愛をしようとするとどうしても上下関係が生まれて、対等な関係が築きにくいと思うんです。男性同士の恋愛ではどうなんでしょう?」
TAEHEON「僕が全てのゲイを代表して言えることはないけれど、同性間でも男女の役割を付与されがちだと感じます。例えば年齢や年収が上だと、自然と男性的な役割を求められることがある」
瀧波「そうか。役割を演じるほうが楽というのはあるんでしょうね。家族や社会の中でもいろんな役割があって、それ自体悪いことだとは思わないけれど、その役割を利用して人を蔑んだり、いいように利用するっていうのが問題だと私は思ってて。対等でラベリングがない関係を結ぶことはとても難しいけれど、異性でも同性でもお互いが対等でいられる関係が私の理想なんですね。そして、恋愛関係で起きる不均衡の原因をたどると、そこには役割の違いだけでなく、想いの強さの違いもあると思ってて。私は最近『想い玉理論』というのを提唱しているんですが、それは出会ったときにそれぞれ相手への想いの大きさ(好きの総量)を見せるか見せないかでその先の恋愛の方向性が変わるという説なんです。
私は若い頃、デカい想い玉を好きな相手にいきなり見せてはビビられて逃げられたり、悪い男性には『こいつ俺に気があるんだな』といいように利用されていました。想い玉をいきなり見せるから恋愛がうまくいかないんだと気づいてからは、気になる相手ができても、ゆっくり関係を深めていく中で、互いの想い玉を見せ合うようにしました。『私たち同じぐらいの気持ちですよね』と確認するステップを踏んで付き合った相手とは対等な関係を結べたんです。
『ボーイフレンド』は、一緒にコーヒートラックに行きたい人を指名したり、デートに行きたい相手の名前を書いたりして、想い玉を見せなきゃいけない場面が日常的にありましたよね。全員同じように想い玉を見せ合う機会があるから、対等な関係につながっていったのかなと私は見ていたんですけど」
TAEHEON「そうですね。想い玉を隠し続けることができない状況ではありました」
瀧波「相手の想い玉の大きさが見えない中で「私のことどう思ってるの?」ってヤキモキするのが恋愛の醍醐味の一つかもしれないけど、想い玉を上手に見せ合うことで、相手に軽くあしらわれたり、都合のいいように扱われるといった事故を減らせるんじゃないかと思っています」
TAEHEON「あと、想い玉の中身も大事ですよね。風船みたいにすぐに萎んだり、簡単に割れるガラス玉かもしれない。時間によって大きさだけでなく、中身も変わっていくんだろうなと思います。付き合いが長くなっていくと、お互いの想い玉が金属のように硬くなっていく。だから、安心できるのかもしれませんが」
フラットな出会いはランニングと読書会にあり!?
──日本では同性婚が導入されておらず、番組の中ではカズトさんが「何のために付き合うんだろうなみたいな。結婚とかもないのにさ」ともおっしゃっていましたが、TAEHEONさんはどう感じましたか。
TAEHEON「私はあの場にいなかったので、カズトくんがそういう思いを抱えていたんだなって番組を見て知ったんです。私自身、はっきりとした答えは出ていないのですが、結婚は人間が作り出したシステムの一つだから無視してもいいかなと思う一方で、 結婚という形で二人の関係性を公に知らせることは大事だとも思っています。今の日本はストレートのカップルに合わせてデザインされた社会で、LGBTQIAの存在が無視されていると多々感じる。そういった社会の不均衡をなくすための一つのステップが、全ての人に結婚の自由があることなのかなと思います」
──瀧波さんも漫画の中で「共に暮らし、互いに協力し、扶助し合う契約を誰もが結べて、誰もが等しく社会から祝福されるその自由をどうか全ての人にと思うんだ」という台詞を書かれていました。
瀧波「そうですね。日本の結婚制度はプラスの面もあるけれど、現状どちらかが姓を変えなくてはいけないですし、慣習的に夫婦が主従的な役割に押し込められるなどマイナス面もあるから、同性婚の実現と合わせてマイナス面は捨てていきたい」
──近年は「マッチングアプリ離れ」という言葉も聞かれるようになりましたが、お二人は今後、出会いの形は変わっていくと思いますか。
TAEHEON「アプリを使っている女友達と話していると、マッチしたことに満足してやり取りはしてないという人もいたり、男性からの連絡を待っていて自分からアクションを起こさないという人もいます。だからアプリ離れが進んでいるのかもなと」
──やり取りしていても、いきなり音信不通になったり、簡単に約束をキャンセルしたりされたりして人間不信になるとも聞きます。
TAEHEON「コロナ禍では家にいながらにしていろんな人と知り合えて効率が良かったけど、テキストのみのコミュニケーションを継続していくのは難しいのかも。それでいうと最近、韓国ではランニングイベントが流行っているんですよ。純粋に走るのが好きというだけではなくて、リアルな出会いを求めている人が少なくないんです。アプリで知り合ってもデートの日取りを決めるのが面倒と感じている人にとっては、参加するかどうかは自分の気分次第で決められるので、気軽なのかもしれません」
瀧波「こういうサークル活動やボランティア活動を通して出会うってすごくいいですよね。人間って多面体だから、自分以外の人とどんなふうに話したり、接しているのか見るのって重要だと思うんです。自分のことを丁重に扱ってくれたとしても、他の人に威圧的な態度を取っていたり、適当にあしらっているのを見るとサーっと冷めるだろうし。最近は読書会も盛り上がってますよね。一冊の本を読んだ感想を交換する中で、相手の価値観や考えが見えてきて、惹かれるものもあるかもしれない」
TAEHEON「読書会いいですね! 近年はタイパを重視して、本の内容を要約した動画コンテンツを眺めるだけで満足して一冊の本すら読まないという人もいますが、読書会に来る人だったら最後まで読み切ることができる人なんだとわかるだけで好印象を持ちます」
──読書会の中には本の話が中心で、自分の仕事や肩書は会が終わるまで明かさないところもあると聞きます。そういった先入観なしでその人のことを知れるのはいいかも。
瀧波「一定の時間を複数人と共有する中で重要なのは、やっぱり対等であることを意識することだと思います。上下関係になると、役割の顔しか見えなくなるから。過剰に役割を与えない、背負わない。自分が何かの『反対意見を言わない穏やかな女性』に寄せていこうとしているんだったら、ちょっと待て、と。
性別や年齢に付随した『こうあるべき』という姿ではなくて、人としてどうありたいかと考えながら行動することが大事だと思う。そして、相手に対しても『男性らしくない』とかではなくて、人としてどうかという視点で見られるからいいですよね。フラットな出会いを求めている人はそういうことを意識しながらランニングと読書会に週替わりで参加するのはどうでしょう?」
TAEHEON「いいですね。動的なものと静的なものを交互で」
Photos:Wataru Hoshi Text:Mariko Uramoto Interview & Edit:Mariko Kimbara
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