翻訳文学は「台湾」が熱い! 太台本屋 tai-tai booksが薦める台湾小説・漫画6選
熱が冷めやらない韓国文学人気に続き、いま見逃せないのが台湾文学だ。なかでも、近現代史を背景にした作品が盛り上がっているという。50以上もの台湾作品を日本に紹介してきた版権エージェント、太台本屋のエリー店長こと黄碧君と、店員Sこと三浦裕子に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)
旅や美食の分野ではおなじみの存在である台湾。ここ数年では「翻訳ミステリー大賞」や「日本翻訳大賞」といった賞を台湾の作家による作品が受賞しており、台湾文学への注目も高まっている。「台湾文学は日本では80年代から翻訳されてきたのですが、当時アジア文学に関心を持つ人は今より少なく、一般読者にはあまり届いていなかったようです」。太台本屋の黄碧君は言う。
「2015年に故・天野健太郎さんが翻訳した呉明益著『歩道橋の魔術師』が話題となったのをきっかけに台湾作品が出版業界や書評家のもとにも届くようになり、私たちの活動がやっと実を結んだ実感があります。また、これまでは純文学に近い作品が多かったのですが、00年代以降は海外の作品を読んで育った若い世代の作家が出てきて、海外の読者にも興味を持ってもらえるようなエンタメ系の作品も増えてきています」
そして、近年では歴史に題を取った作品が多く出版されているという台湾。「日本だとどの時代についても自由に作品を書けますが、戒厳令下の台湾では書くことができませんでした。言論の自由が制限されていた白色テロの長い期間が終わり自由になってからは、それまでタブーとされてきた歴史の史料も出てきて、その反動でさまざまな時代を舞台とした作品が書かれているのが現在の状況です」。その中には日本統治時代の作品もあり、日本が過去に行った事柄から現在の私たちが反省し、学ぶべきことも多く描かれている。世界情勢が不安定だからこそ勉強し直すべきだと思いつつも、なかなか手強い近現代史。この機会に台湾の作品から学び直してはどうだろうか。
太台本屋 tai-tai books
文芸翻訳者で長らく版権業務に携わってきた黄碧君が2018年に立ち上げた、日本における唯一の繁体中文作品専門の版権エージェント兼台湾や香港の作品を日本に広める活動をするユニット。版権紹介のほか、翻訳や台湾の本にまつわるイベントの主催なども手がける。
1.『高雄港の娘』

著者/陳柔縉
訳(春秋社)/田中美帆
価格/¥2,750
日本統治時代に台湾南部の港町・高雄で生まれた孫愛雪。戦後は日本に渡って台湾独立運動に奔走する夫を支えつつ自らも実業家として活躍するが、晩年に意外な真実を知り…。女性の視点で台湾現代史を問い直す注目作。
2.『台湾の少年』

著者/游珮芸、周見信
訳(岩波書店)/倉本知明
価格/¥2,640
台湾の漫画発行人や人権教育者として活躍した蔡焜霖の半生を描いたグラフィックノベル。日本統治時代から戒厳令下の時代、民主化を経て現代まで、時代の荒波にもまれた非凡な個人の歴史から台湾現代史をたどれる傑作。
3.『複眼人』

著者/呉明益
訳(KADOKAWA)/小栗山智
価格/¥2,420
歴史テーマからは離れるが、台湾文学を牽引する呉明益に触れるなら外せない一作といえばこれ。数年のうちに巨大地震が発生すると予測される近未来の台湾を舞台に、心に傷を負った人々と、彼らが目撃する異変を多元的視点で描くSF作品。
4.『炒飯狙撃手』

著者/張國立
訳(ハーパーBOOKS)/玉田誠
価格/¥1,390
命を狙われる危険もあるイタリアの炒飯店で腕を振るう台湾の潜伏工作員と、台湾で起きた軍士官の連続不審死を追う定年退職12日前の刑事。二つの事件は思わぬ形でつながり…。実在の未解決事件をモデルにした謀略スリラー。
5.『歩道橋の魔術師』

著者/呉明益
訳(河出文庫)/天野健太郎
価格/¥1,078
かつて台北随一の商業施設兼集合住宅であった「中華商場」。1980年前後の中華商場を舞台に少年少女たちが繰り広げた不思議な出来事の記憶を繊細な筆致で描き出す、どこか懐かしくも幻想的な余韻を残す連作短編。
6.『台湾漫遊鉄道のふたり』

著者/楊双子
訳(中央公論新社)/三浦裕子
価格/¥1,390
講演旅行に招かれた台湾で、台湾人通訳の王千鶴と出会う日本人作家の青山千鶴子。台湾縦貫鉄道の旅を通して現地の食文化に魅了される千鶴子だが、千鶴はなぜか心の奥を見せず…。真の国際交流とは何かと考えさせる一冊。
Interview & Text:Miki Hayashi Photo:Kouki Hayashi Edit:Mariko Kimbara