2025年の推しは? 国内ドラマはこの脚本家に注目! | Numero TOKYO
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2025年の推しは? 国内ドラマはこの脚本家に注目!

社会を反映する国内ドラマは、時代の空気を軽やかに取り込む若手脚本家に注目して見たい。大のテレビっ子として知られるライターの綿貫大介に2025年の “推し脚本家”とその代表作を教えてもらった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)

【森野マッシュ】

マイノリティを生き生きと描く作家性に期待


感覚過敏の高校生が自分の居場所をつくる姿を描いたデビュー作『ケの日のケケケ』(2024年)が話題に。その後すぐに暴力とも子原作『VRおじさんの初恋』(24年)の脚本家に抜擢。中年男性が孤独な現実とVR世界を行き来する新感覚ラブストーリーで、百合ともBLともとれる展開、リストラや親子の確執などさまざまな要素を見事に整理し、人間の再生物語に仕上げていた。まだマイノリティは教育的題材にされがちだが、森野作品には当人の葛藤や悩みなどセンチメンタルな部分さえ吹き飛ばした、優しい世界が広がっている。原作者の想いをくみ取りつつ拡張させた展開は、実写化の好例だと思う。現在は人気BL漫画のドラマ化『未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~』(24年)で共同脚本を担当中。

【兵頭るり】

令和の若者たちの繊細な群像劇を創作


森野と同じく、坂元裕二ゼミで脚本を学んでいた兵頭。坂元裕二脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)や『初恋の悪魔』(22年)の脚本協力やオリジナルストーリーを担当したのち、代表作となる『わたしの一番最悪なともだち』(23年)を手がけることに。“わたしらしさ”という言葉に苦しむ主人公・ほたる(蒔田彩珠)が崖っぷちの就職活動を経て社会人になり、悩みながら自分を模索する令和の若者の物語をしなやかに描いていた。大人になる過程で誰もがぶち当たる戸惑いを、現代の若者感覚で瑞々しく描いたことに価値があるし、坂元裕二ゆずりの台詞回しも効いている。現在、清原果耶主演の連続ドラマ『マイダイアリー』(24年)が放送中。新たな若者群像劇に期待が高まる。

【山西竜矢】

女性の生きづらさをすくい取る姿勢に拍手


「劇団子供鉅人」での活動をはじめ、俳優 、脚本家、演出家、映像監督としてマルチに活動してきた山西。現在は「ピンク・リバティ」という演劇ユニットでも作・演出を担当している彼の名をテレビで知らしめたのは谷口菜津子原作のドラマ『今夜すきやきだよ』(2023年)。アロマンティック女性と友人の共同生活を軸に、ジェンダーロールや婚姻制度、セクシュアリティにまつわる偏見に立ち向かうシスターフッドドラマだった。今年は性暴力事件を機に貧しい女子大生たちが100万円強盗計画を企てる『SHUT UP』(23~24年)も話題に。性別役割、性差別……男性脚本家が女性が抱える生きづらさを丁寧に描けるのは、自身の加害性も理解しているからだろう。それがいちばん信頼に足る。

【加藤拓也】

演劇と映像の垣根を越えた活躍で注目


劇作家、演出家、映像作家として鬼才と呼ばれる一人。ドラマでは特に『きれいのくに』(2021年)に惹かれた。同作は容姿へのコンプレックスにまつわるSF作品。複雑に矢印が入り組んだ恋愛相関図に、美容手術という要素が加わることで唯一無二の青春ファンタジーに仕上がった。SNSや美容広告は見た目についての自尊心を低下させる。実社会にはびこるルッキズムを題材にエンタメに昇華させる手腕に脱帽した。それに加藤の作品はどれも、現代口語的な台詞が生きているように思う。会話のやり取りが自然なのは、舞台仕事の多さゆえだろう。今年は深夜ドラマ『滅相も無い』(24年)も話題に。舞台表現と映像表現の両方に触れてきた加藤の演劇的手法が生きた作品だった。

Text:Daisuke Watanuki Illustrations:Sayako Yamashita Edit:Mariko Kimbara

Profile

綿貫大介Daisuke Watanuki 編集者、ライター、テレビっ子。エンタメ、カルチャー、ジェンダーの分野で雑誌やWebなどで取材・執筆を行うほか、個人でインディペンデントマガジンやZINEを制作。著書に平成のドラマ史と著者自身のドラマを重ね合わせて綴った『ボクたちのドラマシリーズ』などがある。

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