映画評論家・森直人監修、2025年に注目したい新鋭映画スタジオ
ここ数年、A24やNEONなど独立系映画製作・配給会社が台頭。良作を生み出し続け、映画評論家はもとより映画ファンの圧倒的な信頼を勝ち得てきた。では、2025年に注目したいのは? 映画評論家の森直人が紹介。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2025年1・2月合併号掲載)
Monkeypaw Productions(モンキーパウ・プロダクションズ)
ブラックパワーを基盤に
LAに本部を置くアメリカの映画・テレビ会社。鬼才監督ジョーダン・ピールが2012年に設立。『ゲット・アウト』(17年)をはじめ、『アス』(19年)、『NOPE/ノープ』(22年)と彼の監督作の製作は全て自社で行っている。また並行して他監督の作品も手がけ、アフリカ系監督の先達、スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』(18年)はカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した。最近はインド系英国人俳優のデヴ・パテルが監督・主演を務めた『モンキーマン』(24年)の配給をバックアップし、Netflixで配信予定だったのを劇場公開に至らせヒットさせた。非白人系の硬派なエンタメ作品をハリウッドに送り込む新進スタジオとしての期待は大きい。
『モンキーマン』2024年
監督・原案・脚本・出演/デヴ・パテル
出演/デヴ・パテル、シャールト・コプリー、ピトバッシュ
現在公開中
『ゲット・アウト』2017年
監督・脚本/ジョーダン・ピール
出演/ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ
U-NEXTにて配信中
『ブラック・クランズマン』2018年
監督・脚本/スパイク・リー
出演/ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー
U-NEXTにて配信中
Miyu Productions(ミユ・プロダクションズ)
ユニークなアニメ最前線
作家性の強いアニメーションと実験映画を手がけるフランスのスタジオとして2009年に設立。まずは尖鋭的な短編群が注目され、近年は長編アニメで快進撃を見せている。村上春樹原作の『めくらやなぎと眠る女』(22年)がアヌシー国際アニメーション映画祭や新潟国際アニメーション映画祭で受賞。『リンダはチキンがたべたい!』(23年)はアヌシーで最高賞を獲得。日本のシンエイ動画と共同製作した『化け猫あんずちゃん』(24年)はカンヌ国際映画祭の監督週間に選出。今後はディズニーとの企画予定も発表されている。創造の独自性を大切にしたアートと娯楽をつなぐ作風は新しいアニメの可能性を感じさせるもの。特に国際共同製作の展開に注目したい。
『めくらやなぎと眠る女』2022年
監督・脚本/ピエール・フォルデス
原作/村上春樹
日本語版声の出演/磯村勇斗、玄理、塚本晋也
現在公開中
『リンダはチキンがたべたい!』2023年
監督・脚本/キアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック
日本語版声の出演/落井実結子、安藤さくら、リリー・フランキー
『化け猫あんずちゃん』2024年
監督/久野遥子、山下敦弘
脚本/いまおかしんじ
原作/いましろたかし
声の出演/森山未來、五藤希愛
LiliesFilms(リリーズ・フィルムズ)
新たな女性たちの連帯
2019年の『燃ゆる女の肖像』でカンヌ国際映画祭の脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したフランスの気鋭監督、セリーヌ・シアマの作品を初期から手がける会社。デビュー作『水の中のつぼみ』(07年)から最近の『秘密の森の、その向こう』(21年)まで、基本的にはシアマの個人会社というイメージだが、23年には新鋭マリー・アマシュケリ監督の『クレオの夏休み』を製作。パリで暮らす6歳の少女クレオとアフリカ出身のナニーであるグロリアの愛と交流を描いたもので、主要スタッフはほぼ全員が女性。長らく男性優位に支配されてきた映画製作の現場に対するシアマの問題意識が感じられる。活動の広がり方次第で次代のロールモデルになるかもしれない。
『クレオの夏休み』2023年
監督/マリー・アマシュケリ
出演/ルイーズ・モーロワ=パンザニ、イルサ・モレノ・ゼーゴ
現在公開中
『燃ゆる女の肖像』2019年
監督・脚本/セリーヌ・シアマ
出演/アデル・エネル、ノエミ・メルラン
U-NEXTにて配信中
『秘密の森の、その向こう』2021年
監督・脚本/セリーヌ・シアマ
出演/ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス
U-NEXTにて配信中
Text:Naoto Mori Edit:Mariko Kimbara, Miyu Kadota