2025年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.6 染野太朗 | Numero TOKYO
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2025年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.6 染野太朗

2025年も、素晴らしい音楽が次々と生み出された。Numéro TOKYO注目のクリエイターに、その人が超・個人的に思い入れのあった音楽アルバムBEST3と、その注目ポイントを聞いてみた。新たなお気に入りの一枚を見つけて。

第6回目は、歌人として活躍しながら、自身もアマチュアバンドでヴォーカル、作詞作曲などを担当する染野太朗

1.浦小雪『シュガーメロウ』

心をつかんで離さない、パンチラインの連続

Sundae May ClubのVo.&G、そしてその詞曲も手がける浦小雪の、ファーストソロアルバム。このアルバムでは楽曲のアレンジも多くが本人によるものだという。

先行配信のシングル『本を閉じたら』。イントロの昂揚感でかんたんに心をつかまれ、それだけでもう一緒に歌い出したくなるのだが、歌詞の冒頭で不意に“生活の基本”ときて面食らい、歌い出したい気持ちはいったん引っ込んだ。ともすれば硬い印象をもたらすこの散文的なひと言が、しかしメロディに乗ってイントロ以上にこちらをつかんで離さない。そこからはとにかくもうパンチラインの連続。

“あの子に幸あれ 僕はたぶん気づかない”
“忘れるなモータウン アーモンド色のヘブン”
“あの子の姿勢が綺麗だったのは 夏の日差しを全部受け止め 誰かを思ってたから”
“誓いは閉じた 透明になったようなからだに”
/「本を閉じたら」

曲と声に乗って言葉が耳に心地よく、しかし内容にも立ち止まって慎重に読み解かずにはいられなくなる。『長いお手紙』の冒頭に“あなたは言葉 熱を帯びた文学”とあるのだが、それをそのまま、このアルバムを作り上げた浦小雪自身にも届けたくなる。

2.眞名子新『野原では海の話を』

言葉の、リズムや音としての側面が見えてくる

森山直太朗に「令和のカントリー野郎」と言わしめた眞名子新のファーストアルバム。

はじめは、伸びやかな歌声とその細部のニュアンス、テクニカルなアコースティックギター、インスタライブで次々に持ち曲を披露する気前の良さ、シリーズ動画『バリスタへの道』などに惹かれてなんとなく聴いていたのだが、あるとき『出自』の冒頭の“どうやって暮らしているのか 分からない人になりたいな”という歌詞が耳に飛び込んできて、それからあわてて他の楽曲の歌詞も聞き込み、読み込むようになった。どうやって暮らしているのか分からない人はたしかにいるし、私もそうなりたい。

歌詞は眞名子新本人が書いているのではなく、実兄のmotoki manakoによるもの。

“竜でも出そうな高い雲 誰かの魔法でかけた虹”
“網戸におでこを押し当てて 夏の様子を見てる 飽きることもなく”
“竜など出ないと知った今 ホースを潰してかけた虹”
/「網戸」

“お金持ちになったら 健康になりたい”
/「健康」

“見てごらん、路上には缶ビールが 折れ曲がり尖っているだろう”
“絶えることない愛情をくれ 遠い昔の話はよしてくれ 野原では海の話をしてくれ”
/「野原では海の話を」

楽曲の中で聴くとこれらの言葉の、リズムや音としての側面が、メロディと歌唱によって大きく新しく引き出されていることがわかる。たまらない。

3.星野源『Gen』

言葉の、音と意味のあいだ

サブスクサービスのリポートが教えてくれるところによれば、私が2025年にもっとも聴いたアルバムがこの『Gen』である。

星野源の歌詞はその背後に長く深い思考や思想を強く感じさせるが、言葉自体は直感(直観)的なたたずまいをしており、音楽と絡み合いながら音と意味のあいだの境界を曖昧にしていることも多いから、意味内容を論理で読み解こうとするとうまくいかない場合がある。

“希望 左脳 意味の子供 可動 未読 闇夜おいでよ”
/「Mad Hope(feat. Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wikes)」

“問いだすイルカ 留め具に目玉 壊れても自我 病みがくれた”
/「Glitch」

“窓から陽が射して滲む”
“今”は過去と未来の先にあるんだ”
/「Eureka」

言葉だけ引用しても伝わらないものがあるのだが。

短歌の57577という定型は、長い歴史のなかでさまざまな扱い方をされてきたが、歌人としての私にとって『Gen』は、メロディというある種の〈定型〉と言葉との関係、意味と音との関係、音としての言葉、などについていくつかの示唆を与えてくれるアルバムでもあった。

短歌集『恋のすべて』くどうれいん、染野太朗/著


作家くどうれいんと歌人の染野太朗がタッグを組み、恋の短歌に挑んだ雑誌『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』の短歌連載「恋」に書き下ろしを加え書籍化。誰も置き去りにしないシンプルな言葉から驚くほど深い情景が浮かび上がる。音や匂い、湿度まで感じられるような体験はまるで映画を観ているかのよう。短歌初心者でも大丈夫。椅子に座り、それを眺めるだけであなたの恋のことを想うはず。

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Photo:Wataru Hoshi Text:Taro Someno Edit:Mariko Kimbara

Profile

染野太朗 Taro Someno 1977年、茨城県生まれ。大阪府在住。歌人。高校生のときに短歌結社「まひる野」に入会。第一歌集『あの日の海』(本阿弥書店)で第18回日本歌人クラブ新人賞を受賞。2015年度Eテレ『NHK短歌』選者。16年に第二歌集『人魚』(KADOKAWA)、21年に現代短歌クラシックス『あの日の海』、23年に第三歌集『初恋』(ともに書肆侃侃房)を出版。最新作にくどうれいんとの短歌集『恋のすべて』(扶桑社)。短歌同人誌「外出」「西瓜」同人。「まひる野」編集委員。
 

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