東京のメガギャラリーに聞く“東京 × アート”の行方 | Numero TOKYO
Art / Feature

東京のメガギャラリーに聞く“東京×アート”の行方

国際情勢に政治・経済と、社会を映すアートのトレンド。その未来を占う上で、注目の存在が「メガギャラリー」。世界的な影響力を持つ、屈指の有力ギャラリーだ。東京に拠点を置く3軒に、日本アートシーンの動向と注目する日本人アーティストを挙げてもらった。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2025年1・2月合併号掲載)

メガギャラリーとは?

所属するアーティストの展覧会を開き、作品を美術館やコレクターに販売し、長きにわたり成長をサポートするのがアートギャラリー。なかでも活動規模が大きく、世界各地にスペースを展開し、アートマーケットへの影響力も桁違いの存在をメガギャラリーと呼ぶ(年間の売上額を5千万ドル以上とする定義もあり)。その代表格がガゴシアン、ペース、ハウザー&ワース、デイヴィッド・ツヴィルナーで、これらを世界四大メガギャラリーと称する。メガギャラリー取り扱い作家になると、それだけで作品価格が上昇することも。

【Pace ギャラリー】
日本上陸を果たしたメガギャラリーの雄

グループ展の展示風景より(2024年)  Photo: Nacasa & Partners, courtesy Pace Gallery
グループ展の展示風景より(2024年) Photo: Nacasa & Partners, courtesy Pace Gallery

1960年にアメリカ・ボストンで創設。近年は香港、ソウルとアジアで立て続けにスペースを設け、2024年7月に東京で拠点を開業。「日本そして東京という場所は、世界のアーティストやコレクターにとって魅力が多く、アジアの重要なハブとなる可能性を備えています」。

日本のアートシーンの現状については「海外から日本に進出するギャラリーが増えているだけでなく、内外のギャラリーとコレクターが交わる機会も充実し、市場が活性化している」ので、今後もコレクターの増加や市場の伸長に期待大と見ている。注目すべき日本人作家には、批評家としても造形作家としても高質な活動を続けてきた岡﨑乾二郎を挙げる。ペースでは24年より岡崎作品の取り扱いを開始。「日本の作家に多大な影響を与えてきた存在です。国内にとどまらず海外での評価につなげられるよう、積極的に各国で作品展示の機会を設けていきます」

注目の作家

岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう)
1955年生まれ。平面、立体、建築、批評など多様な表現を展開。作品に長く詩的なタイトルを付けることでも知られる。

『陸と海が不均等に分布していることは一見して明らかです。この分布は偶然に支配されているように見えるかもしれませんが、よりよく観察すると、地球の固体表面と流体表面の間に存在する関係の基盤に整合的な秩序があることが洞察できます。波が四方八方から飛び、クジラが向かう方向は、尾が水面を激しく打ってできた幅1竿ほどの白い泡の道に示されています。彼は再び船の下を通り、風下に去りました。風向きが変化していない朝8時頃、ボートに水がすごい勢いで浸水してくるのに気づきました。数分のうちにみるみる水量は増え、もはやボートは安全ではありません。船はミルクの中を航行しているようだった。水面を泳ぐ無数の小さな白い動物が水の色合いに混じって起こす現象である。紅海とよばれる海の独特な色は、海面に浮かぶ微細な藻類の存在による。美しい赤い色の印象はその驚異的な繁殖力をも隠す。』(2024年) © Kenjiro Okazaki, Courtesy Pace Gallery.
『陸と海が不均等に分布していることは一見して明らかです。この分布は偶然に支配されているように見えるかもしれませんが、よりよく観察すると、地球の固体表面と流体表面の間に存在する関係の基盤に整合的な秩序があることが洞察できます。波が四方八方から飛び、クジラが向かう方向は、尾が水面を激しく打ってできた幅1竿ほどの白い泡の道に示されています。彼は再び船の下を通り、風下に去りました。風向きが変化していない朝8時頃、ボートに水がすごい勢いで浸水してくるのに気づきました。数分のうちにみるみる水量は増え、もはやボートは安全ではありません。船はミルクの中を航行しているようだった。水面を泳ぐ無数の小さな白い動物が水の色合いに混じって起こす現象である。紅海とよばれる海の独特な色は、海面に浮かぶ微細な藻類の存在による。美しい赤い色の印象はその驚異的な繁殖力をも隠す。』(2024年) © Kenjiro Okazaki, Courtesy Pace Gallery.

ペース ギャラリー
2024年9月、麻布台ヒルズにグランドオープン。3フロアからなる空間は総面積510平方メートル超、建築家の藤本壮介が手がけた空間デザインにも注目。

住所/東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA
TEL/03-6681-9400
営業時間/11:00〜20:00
定休日/月
URL/www.pacegallery.com/

【BLUM東京】
日本の戦後美術を世界へ紹介、批評眼が光る実力派ギャラリー

グループ展「Thirty Years: Written with a Splash of Blood」展示風景(2024年)Photo: Hayato Wakabayashi Courtesy of the artists and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York
グループ展「Thirty Years: Written with a Splash of Blood」展示風景(2024年)Photo: Hayato Wakabayashi Courtesy of the artists and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York

1994年、アメリカ・カリフォルニアで設立。マーク・グロッチャンら西海岸の作家を積極的に紹介するとともに、戦後ヨーロッパの「CoBrA」や日本の「もの派」など、美術史の重要な動向をフォローしてきた。明治神宮の緑を望む絶好の立地に東京店を開いたのは2014年のこと。

「創設者ティム・ブラムは90年代に東京を拠点に活動。日本のアートシーンと深い関わりを持ち、90年代より奈良美智や村上隆を、10年代からは菅木志雄や岡﨑乾二郎といった作家を紹介してきました」。インバウンドの活発化は、日本のアート市場拡大にも寄与すると見ている。今後注目の作家は24年にブラム所属となった西條茜。「古代から続く焼き物の要素をベースに持ちながら、現代彫刻やパフォーマーとのコラボレーションなど多領域での取り組みが魅力です」

注目の作家

西條茜(さいじょう・あかね)
1989年生まれ。陶による造形や、作品内部に声を吹き込むパフォーマンスなどを展開。2025年1月より香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館にて初の美術館個展が開催される。

高さ66センチの中型作品『Waiting Room』(2024年) ©2024 Akane Saijo; Courtesy of the artist and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York Photo: Takeru Kuroda
高さ66センチの中型作品『Waiting Room』(2024年) ©2024 Akane Saijo; Courtesy of the artist and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York Photo: Takeru Kuroda

『Until the Moonrise』(2024年) ©2024 Akane Saijo; Courtesy of the artist and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York Photo: Takeru Kuroda
『Until the Moonrise』(2024年) ©2024 Akane Saijo; Courtesy of the artist and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York Photo: Takeru Kuroda

ブラムトウキョウ
2014年に開廊、23年に「BLUM & POE」から改称。この秋に10周年を迎え、奈良美智の個展「I Draw the Line」を開催中(2025年1月11日(土)まで)。

住所/東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森5F
TEL/03-3475-1631
営業時間/12:00〜18:00
定休日/日・月・祝
URL/https://blum-gallery.com/

   

【ペロタン東京】
新スペースもオープン、世界と東京をつなぐ発信源

グループ展「Head in the Clouds」展示風景(2022年) Photo: Keizo Kioku Courtesy Perrotin
グループ展「Head in the Clouds」展示風景(2022年) Photo: Keizo Kioku Courtesy Perrotin

1990年、フランス・パリで創設。ファウンダーのエマニュエル・ペロタンは92年の初来日以降、村上隆らアーティストや日本のアート関係者との絆を深め、2017年に東京でギャラリーをオープン。アートへのタッチポイントを作るため隣接してブックストアを、別フロアにはサロンも開設した。

「日本のアートシーンでは近年、環境、宇宙論、生態系など普遍的なテーマが注目されています。長い伝統を持ち、自然への深い敬愛と愛着に根ざした日本文化は、これら喫緊の課題に対する貴重な視点と、潜在的な解決策を提供し得るでしょう」。現在注目の日本人作家はAYA TAKANO。「画家、漫画家、SF愛好家、自然保護活動家と多才なアーティストです。3.11以降は地方や自然への理解を深め、根源的な世界を神話的な美しさとスケールで描いています」

注目の作家

AYA TAKANO
1976年生まれ。村上隆が率いるカイカイキキに所属し、少女を主なモチーフとした幻想的な作品世界で知られる。2024年11月にカイカイキキギャラリーで個展を、Hidari Zingaroでは新境地となる自身初のキュレーション展を開催したばかり。

『動物園は絶対になくす』(2024年) © 2024 AYA TAKANO/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
『動物園は絶対になくす』(2024年) © 2024 AYA TAKANO/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ペロタントウキョウ
有力ギャラリーが多数入居する六本木のピラミデビル1階にギャラリーとストアを構え、2024年7月には2階にサロンをオープン。

住所/東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
TEL/03-6721-0687
営業時間/12:00〜18:00
定休日/日・月・祝
URL/www.perrotin.com

   

Text : Hiroyasu Yamauchi Edit : Keita Fukasawa

Profile

山内 宏泰Hiroyasu Yamauchi 1972年、愛知県生まれ。出版社勤務を経てフリーランスライターに。アート、写真、文学、教育、伝記などのテーマを扱う。著書に『文学とワイン』(青幻舎)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)ほか。「文学ワイン会 本の音夜話」「写真を読む夜」などのイベントも主宰。

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