2024年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.3 KD(tenbin O) | Numero TOKYO
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2024年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.3 KD(tenbin O)

2024年いちばん聞いたのはどの楽曲? 音楽をこよなく愛するヌメロ注目のアーティストに、その人だけの“超偏愛”ベスト・ミュージックを聞いた。第3回目は、ポストパンクからモダンソウルまでジャンルを縦横無尽に横断するサウンドで音楽ファンを唸らせるバンド、tenbin Oのベース&ヴォーカルを務めるKDが登場。

左からKD(Ba,Vo)、石井さやか (Gt, Ch)、松浦空洋(Dr, Ch)
左からKD(Ba,Vo)、石井さやか (Gt, Ch)、松浦空洋(Dr, Ch)

1「Hold Me Up(Thank you)」Khruangbin

KDが1曲目に挙げたのは「2019年のFUJIROCK FESTIVALでの公演以来、ずっとチェックしている」というKhruangbin(クルアンビン)の楽曲。

「2024年にリリースされたアルバム『A LA SALA』は洗練された至極のサウンドを存分に楽しむことができます。その一曲『Hold Me Up(Thank you)』はアレンジの素晴らしさ、メロディの豊かさにとても感銘を受けワクワクしました。ベースラインがとにかく良い。そして美しく楽しい展開。印象的で一度しか出てこないセクション。爽やかな余韻を残して去っていく潔い終わり方も素晴らしい。体を通り抜ける、良い香りの風のようなグルーヴが心地よい一曲です。この曲のMVもツボですね。チンチラが世界を旅している。最高にかっこいい楽曲に、このファニーでシュールな可愛らしさを合わせるセンスは抜群です」

2「Better Hate」Jessica Pratt

「その佇まいもさることながら、耳を奪われてしまう唯一無二の美しい歌声。メロディアスで懐かしいような、自由な旋律がとても魅力的。この曲を満たす歌というものの存在と密度がすごいです。歌の旋律が世界を引き連れ、疑うことなく切り開いていく感じ。ずっと声がある、詩がある、こころのハミングがある…。一体となったそれらが連なって舞い上がっていくような印象が美しいと思いました」

KDがそう絶賛するのはサンフランシスコのシンガーソングライター、ジェシカ・プラットが2024年5月にリリースしたアルバム『Here in the Pitch』より「Better Hate」。

「思い出の中に差し込む陽の光のような、川面を揺蕩う落ち葉のような。じっと横たわった体に馴染むとても良い作品ですので、アルバムを通してぜひ聴いてみてください」

3「Side Quest」Pearl & The Oysters


「Khruangbinのメンバー、ローラ・リーがおすすめしていて彼らを知った」というPearl & The Oystersはフランスのサイケデリック・ポップデュオ。

「2024年9月にリリースされたアルバム『Planet Pearl』は本当に良い曲が多い。『Side Quest』はあどけなさもある素直な歌声とメロディが気分を高揚させてくれます。アルバムの始まりにぴったりの多幸感、アレンジも彩り豊かで、楽しい気持ちになる曲です。詩のはまり方も何処か不思議でキュート。各楽器のフレーズが際立つように考えられていて素晴らしいです」

『Together, Alone』のようなゆったりとした楽曲も魅力的。普段あまり洋楽を聴かない人も好きになれるような、良い意味で誰にでもおすすめできる素敵な一枚です。インタビュー等でも、ある年代の日本の音楽から影響を受けたとあるのですが、たしかに共通するムードを感じます。彼らのカバーした細野晴臣氏の『恋は桃色』も素敵でした」

4「Missing」Bnny

Bnnyはジェシカ・ヴィシャスが率いるシカゴを拠点とする4人組のインディー・ロック・バンド。「tenbin Oを結成した始まりの頃、エンジニアの飯塚晃弘さんに教えてもらいました。前作の『Everything』を聴いたときから、ジェシカ・ヴィシャスは類稀なセンスを持った人だなと思っていました。『Missing』は短く、美しい詩のような一曲。彼女の音楽と人生に欠かすことのできない存在が、前作のままそこにある。太陽が動いて、影のあった場所が光へと変わっていくような、静かな感動を覚えます」

「この曲が収録されたアルバム『One Million Love Songs』は前作『Everything』よりもプラスのエネルギーが流れ込んだような、希望を感じることができる作品でした。そのグラデーションのような変化が、良かったなと思ったんです。『Missing』からの『Good Stuff』の流れも素敵なので、ぜひ全体を通して聴いてみてください」

5「Starting to fall」Duster


Dusterは、1996年にデビューしたものの2000年に活動休止。18年に再始動したカリフォルニアのインディーロックバンド。
Numero Groupという素晴らしいレーベルがあるのですが、そのプレイリストからDusterを知りました・24年の夏に出たアルバム『In Dreams』に収録されている『Starting to fall』は再生した瞬間、Dusterのサウンドが広がる。ゆっくり落ちていくようなメロディが素晴らしいです」

「好きなバンドのおすすめから知ったEiafuawnの『Birds In The Ground』はDusterのメンバー、クレイ・パートンによるソロ作品だったし、Numero Groupのプレイリストで、やたら気になるなーと思っていた良い曲たちは、後々調べたらDusterのメンバーによる別名義バンドValium Aggeleinの作品だったんです。これもそうなんだ、と驚きました(笑)。まだ知らない彼らの隠れプロジェクトがあって、偶然に出合えたら面白いですね」

「Waste Of Time」tenbin O

tenbin Oは24年11月に2ndアルバム『illegal positive』をリリース。なかでも「Waste Of Time」はキャッチーで踊りたくなる一曲だ。

この曲ができたきっかけについて「帰り道に自然と口ずさんでいました。嫌なことがあったから、その思い出から早く遠ざかりたくて、『かっこよくならないと』と思ったんです」とKD。「ダンサブルでかっこいい。でもちょっとおかしみがある感じを残せるよう仕上げていきました。キメキメにするんじゃなくて、パーカッションでファニーな要素を足したり。踊りたくなるようなノリを重視しつつ、いなたい風味もあるサウンドになっていると思います。どんどん多くの人に伝わって、自由に楽しんでもらえる楽曲になるといいなと思います。ライブではぜひ踊ってほしいです」

『illegal positive』tenbin O
https://ssm.lnk.to/illegalpositive

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Text:KD Edit & Text:Mariko Kimbara

Profile

tenbin Oテンビン・オー 2022年1月結成。KD(Ba,Vo)、石井さやか(Gt)、松浦空洋(Dr)で構成される3ピースバンド。23年、欧米のインディ/サッドコアにも通じる美しいメロディーとシュプレヒゲザングのような歌唱が同居する 1st アルバム『Lack Of Heroism』をリリース。24年、2nd アルバム『illegal positive』をリリース。

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