あくせく動かずにその土地を満喫する “欲張りすぎない”大人の奈良旅 | Numero TOKYO
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あくせく動かずにその土地を満喫する “欲張りすぎない”大人の奈良旅

遅い夏休みというか、秋休みに奈良に行くことにした。魅力的なデスティネーションはいくらだってあるが、1、2泊で行ける場所をと考えたとき、「鹿に会いたい」と思ってしまった筆者は疲れているのだろうか(笑)。市街地で野生の鹿とふれあえる、世界でもレアなデスティネーション奈良へ、愛くるしい鹿たちに癒されに行くことを決めた。

実は今回の旅にはちょっとした裏テーマ(?)がある。Booking.comのポイントを利用したかったのだ。仕組みを簡単に説明すると、Booking.comには、利用に応じてレベルがアップする「Genius」というロイヤルティプログラム(登録・費用は無料)があり、ランクに応じて、最大20%の宿泊費の割引など、さまざまな特典が得られる。また、会員は、Booking.comを使ってホテルを予約し宿泊するなどするとポイントが付与され、そのポイントは1ポイント=1円相当として、宿泊施設の予約やアクティビティ、前払いのタクシーなどに利用できる。その貯まったポイントを消費することが今回の旅の目的のひとつだ。
往路は伊丹空港まで飛行機を利用。これまで、「東京から奈良に行くのに飛行機を使う」という選択肢はなかったが、伊丹空港から奈良駅まではバスで1時間30分足らずと知り、飛行機を使ってみることにした。Booking.comでも航空券を予約することができ、ポイントの利用も可能だ。

大切なことなので、繰り返すが、この奈良旅の目的は「癒し」である、というかそれに尽きる(笑)。言わずもがな、奈良にはたくさんの見どころがある。100体以上の仏像が常設展示されている「奈良国立博物館」はミュージアムグッズのかわいらしさでも有名だ。せっかく奈良にいくなら、奈良が誇る大スター、東大寺の大仏にも挨拶をしたい。奈良市内から足をのばせば、橿原神宮や三輪明神 大神神社などのパワースポットもある。気になるところばかりだが、今回はのんびり過ごすことが最大の目的だ。あえてあまり予定は詰め込まないことにした。そんなわけで1泊目はビジネスホテルに素泊まりし、夜の奈良の街を楽しんだが、2泊目は、友人から「オールインクルーシブでのんびりできるよ。場所も最高!」と勧められていた、「SETRE NARAMACHI(セトレならまち)」を予約した。多少、値が張るが、今回はある程度ポイントでまかなえるので気持ちが大きくなっている。

まずは荷物をホテルに預け、早速、奈良公園エリアに鹿ちゃんに会いに行く。鹿の注目を一気に集めることができる鹿せんべいも購入。予想をはるかに上回る自分の人気ぶりに、戸惑いを禁じ得ない(笑)。筆者の人生、かつて、これほど情熱的に求められたことがあっただろうか。なお、小麦粉と米ぬかでできた鹿せんべいは、実はサステナブルなおやつ。一般財団法人奈良の鹿愛護会の登録商標で売り上げの一部は鹿の保護に充てられている。なんだかいいことをしている気分になる。石燈籠の横でくつろぐ鹿ちゃんを愛でながら、奈良の人々が親しみを込めて「春日さん」と呼ぶ春日大社へ向かう。

お参りを済ませたら、そろそろ喉が渇いてきた。地元の人にも観光客にも人気の「酒処 蔵」へと急ぐ。予約を取らない店なので、開店の時間を目指す。店名のとおり、蔵を改装して造られた酒場で、薄明りが灯る障子張りの引き戸をあけると、そこはパラダイス。長めのコの字カウンターに酒飲み心がくすぐられる。おでん槽からは関西風の甘い出汁の香りが漂っていた。到着したのは、開店から数分を回ったくらいだったが、平日にもかかわらずすでに7割の入りだ。筆者の手元に、ハートランドの生ビールが到着した頃には満席になっていた。関西風の出汁がじゅわっとしみ込んだおでんが、アラフィフの体に染みる。

あっという間にビールは蒸発してしまい、次は日本酒をいただくことにした。おでんの追加に、卵を注文すると「よく染みたのがいいかい? それともあまり染みてないのがいい?」と聞いてくれる。なるほど、卵の染み具合には好みがあるので、聞いてくれるのはうれしい。お刺身も美味しい、まっとうな居酒屋だ。近所に住む人が心底うらやましい。

何時間でも飲み続けていたいところだが、長尻は粋じゃない。それに、ほかにも行きたい店がある。会計を済ませ、気になっていた店のひとつである「豐樂」(とよのあかり)に向かった。奈良県産の地元食材と奈良の地酒が楽しめる和食料理屋だ。以前、テレビで見た「草鍋」が気になっていて、奈良に行ったら絶対に食べようと決めていた。大和野菜と呼ばれる、奈良県産の野菜をふんだんに使用した鍋で一人前でも注文できる(ありがたい)。どどーんと山盛りの葉っぱが登場した時は多少たじろいだが、大和野菜と、さつま知覧鶏で取ったスープ(日によっては塩梅スープという選択肢もあるようだ)との相性も絶妙でペロリ。罪悪感がないのもいい(笑)。草鍋に使用される野菜は、季節や仕入れによって異なるが、この日は大和まな、ずいきなどが幅をきかせていた。なお、「草鍋」を食べたい時は予約がマストだ。最後はオーセンティックなバーへ。奈良には個性的なバーがいくつもあり、選択肢にはこと欠かない。

翌日は、前述の「セトレならまち」に宿泊した。今回の旅のハイライトである。2018年12月に、興福寺にほど近く、また、奈良の街のランドマークのひとつでもある猿沢池のほとりにオープンした宿泊施設だ。友人の勧めと共に、Booking.comでの評価がやたらと高く、気になっていたのだ。館内は奈良へのリスペクトにあふれていて、宿泊施設の外に出なくても、「奈良」という街を満喫できる。たとえば、建材には、吉野の杉や檜、和紙、月ヶ瀬の土などといった奈良県の素材を積極的に使用。吉野杉の香りに包まれてぐっすり眠ることができた。

夕食は大和野菜や大和赤牛など、奈良の生産者から仕入れた食材を多用している。朝食は100%有機肥料で育った曽爾米を奈良吉野の美吉野醸造の日本酒を加えて炊き上げたごはんを使ったおむすびだ。「片上醤油の焼きむすび」「大和牛しぐれ煮」「さかもと養鶏場白鳳卵と鮭マヨネーズ」など、具材も魅力的で、朝からつい食べ過ぎてしまう。中庭では大和肉鶏が元気いっぱいに走り回っていた。自然の力で発熱した醗酵温熱木浴ドームもあり、サステナブルな温活もできる。

酒飲みにうれしいのは、宿泊客専用のラウンジで、ビール、ワイン、日本酒など、さまざまなドリンクが無料で楽しめるということ(利用時間15:00~23:00)。夕食後、街のバーに繰り出そうと思ったが、施設内で筆者の酒心は存分に満たされた。筆者が宿泊した夜はどしゃぶりだったが(笑)、屋上には興福寺の五重塔が眺められるテラスもあり、ここで一杯やるのもいいと思う。

言わずもがな、奈良にはたくさんの魅惑的な観光スポットがあり、精力的に動くのももちろん楽しいが、その土地ならではの食に舌鼓を打ち、宿泊施設でも奈良という唯一無二の街をのんびりと満喫する──、そんな旅も悪くないなあと実感した。

酒処 蔵
住所/奈良県奈良市光明院町16

豐樂
住所/奈良県奈良市餅飯殿町35-1
TEL/0742-31-8343
URL/http://toyono-akari.com/

SETRE NARAMACHI(セトレならまち)
住所/奈良県奈良市高畑町1118
TEL/0742-23-2226
URL/https://www.booking.com/hotel/jp/setorenaramati.ja.html

Text:Aya Hasegawa

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