ソムリエ店長がそっと教える「ボジョレー・ヌーボー」のちょっとマニアックな基本 | Numero TOKYO
Life / Feature

ソムリエ店長がそっと教える「ボジョレー・ヌーボー」のちょっとマニアックな基本

今さら聞けない!? ボジョレー・ヌーボーの魅力を再確認しよう

こんにちは、ワインブロガーのヒマワインです! さて本日2024年11月21日はフランスで造られる新酒、ボジョレー・ヌーボーの解禁日です! ……とはいえ一時期は国民的行事と言ってもいいくらいの盛り上がりを見せていたこのイベントも、最近ではちょっぴり下火。若い方の中には、ボジョレー・ヌーボーってそもそも何? という方も多いのではないでしょうか。

そこで、東京・恵比寿のワインショップ、ワインマーケット・パーティの沼田英之店長に、ボジョレー・ヌーボーの“楽しみ方”を解禁日当日に教えてもらいましたよ! さっそく、私との対談形式で、ボジョレー・ヌーボーの魅力を再確認していきましょう!

【目次】
ボジョレー・ヌーボー、昔日の栄光
ボジョレー・ヌーボーはどう楽しむ?
ボジョレー・ヌーボーと合わせたい料理
ボジョレー・ヌーボー2024の出来は?

ボジョレー・ヌーボー、昔日の栄光

沼田店長。「ボジョレー・ヌーボーは、『ボジョレ・ヌボ』と伸ばさずに発音すると“それっぽい”ですよ」とちょっとマニアックにアドバイス
沼田店長。「ボジョレー・ヌーボーは、『ボジョレ・ヌボ』と伸ばさずに発音すると“それっぽい”ですよ」とちょっとマニアックにアドバイス

ヒマワイン(以下、ヒマ)「今日はボジョレー・ヌーボーについて教えてください。昔に比べて、ちょっと盛り上がってない気がしていますが……」

沼田店長(以下、店長)「2004年には100万ケース以上が輸入されてましたからね。その時期に比べると、ブームがかなり落ち着いたのは事実です」

ヒマ「そもそもなんでそんなに盛り上がっていたんでしたっけ?」

店長「赤ワインブームの影響だったり、時差の関係で日本がもっとも早く解禁日を迎えることも大きかったんですよ。解禁日の深夜0時に栓を開けてみんなで飲む! といった楽しみ方も普及していました」

2024年に収穫したばかりのワインで造るワイン、それが「ヌーボー」。フランスのボジョレー地方で造るヌーボーだから「ボジョレー・ヌーボー」
2024年に収穫したばかりのワインで造るワイン、それが「ヌーボー」。フランスのボジョレー地方で造るヌーボーだから「ボジョレー・ヌーボー」

ヒマ「おお、それは楽しそうですね!」

店長「ボジョレー・ヌーボーの7割が日本に来るなんて言われていました。ただ、やっぱり新型コロナウイルスの影響は大きかったですよね。さらに、近年の国際情勢や円安の影響で価格が上がってしまったこともマイナスに働いて、近年下火になっているのは事実です。ただ、私は好きなんですよ、ボジョレー・ヌーボー」

ヒマ「どういった点がお好きなんでしょう?」

店長「もともとボジョレー・ヌーボーって、生産者がワイン商の人に『今年のワインはこんな出来だよ』って試してもらうためのものだったんです。同じように、ヌーボーを飲むことで、その年のぶどうの出来や、フランスの天候を想像する、その時間が好きなんですよ」

ヒマ「おお、なるほど」

店長「それに、ボジョレー・ヌーボーの盛り上がりって、僕たちソムリエの先輩方が作ってくれた文化なんですよね。11月の第3木曜日だけは、普段ビールやチューハイを飲んでる人もワインを飲む。それってすごい嬉しいことじゃないですか」

ヒマ「たしかに」

店長「無理にヌーボーを飲む必要はありません」みたいに言うソムリエさんも中にはいますが、『先人が築いてくれた伝統を何だと思ってるんだ!』と私は言いたいんです(笑)」

ヒマ「でもなんで解禁日が木曜日なんですかね。土曜日とか、せめて金曜日だともっと盛り上がる気がしますが……」

店長「聞いた話ですが、フランスの人が『土日は必ず休むから』みたいですよ。週末は休むから、木曜日に売る。我々日本人は『お客様の多い土日に売らせてくれ!』って感じなんですけどね(笑)」

ボジョレー・ヌーボーはどう楽しむ?

ヒマ「お国柄ですね! では、このヌーボーをどう楽しめばいいのでしょうか?」

店長「私のオススメの使い方は、ズバリ『みんなで集まる口実作り』です。『ボジョレー・ヌーボーみんなで飲まない?』って、誘いやすいじゃないですか。『クリスマスに集まろう』みたいな感じで、仲間と集まるきっかけづくりに最適だと思うんですよ。解禁日にこだわらなければ、土日に集まろうでいいですし、なんなら来週でも再来週でもいいわけです」

ヒマ「ああ、それはたしかにそうですね。11月から12月にかけてのこの時期だと忘年会っぽくもできますしね」

店長「そうなんですよ。たとえば最近ちょっと会話が減ってきた奥様と飲む、なんていうのもいいですね」

ヒマ「たしかに『ブルゴーニュを飲もう』『ボルドーを飲もう』って言われてもピンとこない人でも、『ボジョレー・ヌーボーを飲もうよ』って誘われたら、ちょっと興味を持ってもらえそうです」

店長「『ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンを飲まない?』って言われても『なにそれ?』ってなる方でも、ボジョレー・ヌーボーなら知っている。それってすごいことですよね。だから、まだ飲んだことのない方にはぜひ一度試していただきたいんです」

ボジョレー・ヌーボーと合わせたい料理

ヒマ「味わいとか、飲み方のヒントはありますか?」

店長「まずはっきり言いたいのは『ボジョレー・ヌーボーはおいしい』ということです。最初に述べたようにその年によって出来の良さは変わりますが、一部で言われるようにおいしくないなんてことはまったくありません」

ヒマ「一言一句、100%同意です。おいしいですよね、ボジョレー・ヌーボー。フレッシュで、果実味がたっぷり感じられて。普段ワインを飲みつけない方にはむしろ刺さる味わいだと思います」

ワインマーケット・パーティで販売中の「テロワール・エ・タラン ボージョレ・ヌーヴォー・ノン・フィルター 2024」
ワインマーケット・パーティで販売中の「テロワール・エ・タラン ボージョレ・ヌーヴォー・ノン・フィルター 2024」

店長「ちょっとマニアックな情報をお伝えすると、現地ではボジョレー・ヌーボーに生牡蠣を合わせたりするんですよ。味わいがフレッシュだから、赤だけど牡蠣に合うんです」

ヒマ「生牡蠣とボジョレー・ヌーボー! これは試したくなるペアリングですね。この季節は牡蠣も旬ですしね」

店長「生牡蠣にはレモンを絞って白ワインを合わせるのが定番ですが、レモンじゃなくて赤ワインビネガーや、バルサミコ酢を合わせるんです。ボジョレー・ヌーボーのタンニンが牡蠣の旨味であるコハク酸と同調して、これが絶妙。あとは、ウチのスタッフに教えてもらったのですが、コンビニで売ってる『肉まん』とも相性抜群です」

ヒマ「肉まんもいいですね。ところで、大事なことを聞き忘れていましたが今年、すなわち2024年の“出来”はどうなんでしょう? ボジョレー・ヌーボーといえば、毎年『100年に1度の出来!』みたいに宣伝されるのがある意味定番となっていますが…」

ボジョレー・ヌーボー2024の出来は?

店長「なんていうか、今でいうとちょっと炎上商法っぽいですが、あの大袈裟なキャッチコピーもボジョレーブームの要素のひとつでしたよね。それはさておき、今年は夏に雨が多く降り、カビが広がったやや難しい年だったようです」

ヒマ「ありゃ、じゃあワインの出来も今ひとつなんですかね」

店長「それがそうじゃないのが面白いところなんですよ。最近は気候変動の影響で、例外的な気候の2021年を除けば暑い年ばかり。ボジョレー・ヌーボーも年々濃くなっていたのですが、2024年ものは今言った気候の影響もあり、アルコール度数も低めでエレガントな仕上がりになっているようなんです」

ヒマ「ワイン界には『暑い土地は涼しい年が当たり説』ありますもんね。じゃあ最後に、この記事を読んで『ボジョレー・ヌーボー、1本買ってみようかな』と思ってくれた方向けに、選び方のコツを教えてもらえますか?」

店長「基本的には、ご近所のスーパーやコンビニで売っているものを手に取っていただければいいと思います。最近は輸入量も減ってあまり種類も選べなくなっていますし、予約販売のみという店舗もありますから」

ボジョレー・ヌーボーの選び方

ヒマ「もし複数種類が売られている場合はどう選べばいいですか?」

店長「そうですね、ボジョレー・ヌーボーには、『Beaujolais Nouveau』『Beaujolais Village Nouveau』と書かれたものの2種類があるんですが、後者の『ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー』のほうが実は格上で、いい畑のブドウを使う分、値段も高いんです」

ヒマ「じゃあ、『ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー』のほうがおいしいわけですか」

店長「おいしいというか『濃い』という感じですね。ヌーボーらしいフレッシュな味わいが良ければ通常の『ボジョレー・ヌーボー』がいいと思いますが、普段飲んでる赤ワインに近い味わいなのはヴィラージュのほうというイメージです。あとはお好みですね」

「Village」という文言が入っているものはちょっぴり格上。余談だが、ボジョレー・ヌーボーは1年から数年熟成させてもおいしい
「Village」という文言が入っているものはちょっぴり格上。余談だが、ボジョレー・ヌーボーは1年から数年熟成させてもおいしい

ヒマ「沼田店長がいるワインマーケット・パーティではどんなボジョレー・ヌーボーを売られるんですか?」

店長「ウチはこれ(テロワール・エ・タラン ボージョレ・ヌーヴォー・ノン・フィルター 2024、記事途中に写真あり)です。ポイントはノンフィルターな点。自然派ワインの造り手さんがよく使う手法ですが、フィルターをあえてかけないことで、複雑味を残した造りなんです。せっかくの解禁日当日ですし、開けて飲んでみましょうか」

ヒマ「流行りの自然派ワインっぽいボジョレー・ヌーボー、いいですね。ぜひぜひ!」

店長「私も初めて飲みますが、やはり天候の影響か、色は薄めですね。そしてアルコール度数も12%と低め。そして味わいは……これ、私めちゃくちゃ好きな味です」

ヒマ「うまいっすね、これ! 渋味は少なく、フレッシュな酸味とサクランボみたいな可愛い果実味があって、それでいてドライ。スルスル飲めちゃいます」

店長「紅茶のようなニュアンスも感じられますね。暑い年だった23年とはまったくキャラクターが異なる、24年の天候が想像できる味わいです。雨が降って苦労もしたけど、収穫時には好天に恵まれた結果、このワインが生まれてきたのかな? そんなふうに想像できます」

ヒマ「今年もワインが生まれたことに感謝、みたいな気持ちに自然になりますね」

店長「まだ1本しか飲んでいないので断言はできませんが、今年のボジョレー・ヌーボーは期待して良さそう。読者のみなさんも、ぜひ一度試してみてくださいね!」

ワインマーケット・パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜20:00
TEL/03-5424-2580
winemart.jp

「ソムリエ店長が教えるちょっとマニアックな基本」シリーズをもっと読む


Photos & Text: Hima_Wine

Profile

沼田英之Hideyuki Numata ソムリエ、1978年生まれ。ホテルやレストラン勤務後、イタリア・トスカーナに留学。帰国後、レストランにソムリエとして勤務し、その後フランスワイン専門店ラ・ヴィネに入社。現在は姉妹店である都内屈指の大型店、ワインマーケット・パーティの店長を務める。
ヒマワインHima_wine ワイン大好きワインブロガー。ブログ「ヒマだしワインのむ。」運営
https://himawine.hatenablog.com/
YouTube「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。Channel」共同運営
https://www.youtube.com/@nagi-himawine
Twitter:@hima_wine

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する