直感的な服作りに共感し、纏う。いま語りたい、女性デザイナーたち | Numero TOKYO
Fashion / Feature

直感的な服作りに共感し、纏う。いま語りたい、女性デザイナーたち

フィーリングがダイレクトに伝わり「こんな服を待っていた」と直感的に惹かれる。そんな女性デザイナーたちの感性、服作りについて、ライターの栗山愛以とバイヤーの柴田麻衣子が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年11月号掲載)

圧巻!蘇ったクロエウーマン


Chloé 2024ウィンターキャンペーンより  Photos:David Sims シェミナ・カマリ初のランウェイコレクションをフィーチャーしたヴィジュアルについて、本人は「これらのイメージで、私は映画のような親密さを捉えたかったのです」と語る。彼女が確立した、新しいアイコンとなるクロエ ウーマンの女性像を表現した。
Chloé 2024ウィンターキャンペーンより Photos:David Sims シェミナ・カマリ初のランウェイコレクションをフィーチャーしたヴィジュアルについて、本人は「これらのイメージで、私は映画のような親密さを捉えたかったのです」と語る。彼女が確立した、新しいアイコンとなるクロエ ウーマンの女性像を表現した。

柴田「今季の大きなトピックといえば、デザイナーがシェミナ・カマリに変わったクロエ。これまで新たなクロエ像を模索していたけど、ここでいわゆる“ザ・クロエ”に戻ってきた。ちょうどフェミニンなブランドの層が薄かったこともあり、タイミングも良く、フィービー・ファイロやクレア・ワイト・ケラーがデザイナーだったときに熱狂した世代、クロエファンの盛り上がりがすごいんです」

栗山「サスティナブルを前面に打ち出した前任のガブリエラ・ハーストとうって変わって、70年代のクラシックかつフレンチアイコン的なスタイルへの原点回帰が印象的。ヒッピー風の大ぶりなシフォンのフリルやフリンジを大胆に使っていました」

柴田「過去のアイコニックなブレスレッドバッグやカメラバッグなども登場し、デザインを再解釈してアップデート。洋服は、一時サンローランのアンソニー・バカレロの下で働いていた経験からなのか、これまでより官能的なエッセンスが程よく入っている。この奔放な感じの肌の見せ方が今っぽいのかなと。まさに直感的なさじ加減ですよね」

栗山「軽やかな素材が戻ってきた感じはありますね。ただ、ちょっと日本人にはハードルが高いのかなと思ったりもしましたが…」

柴田「ボーホーと謳いながら、ロゴが目立たない上品な仕上がりのアイテムも充実しています。シルクの涼やかなブラウスやスカートも仕立てが良く、着るだけでビシッと決まるので、日本ではファッションフリーク以外にもファンが広がりそうな予感。間近で見ると刺繍も凝っていて、ニットの編み目一つ一つにパールが編み込まれているという凝りよう。あえてTシャツと合わせて着たい気分です。プレのスコートも店頭では人気で、よく動いていますよ」

栗山「元クロエのデザイナーたちは各々大活躍。彼女たちと一緒に働いたシェミナだからこそなせる技」

柴田「イメージの打ち出しは正解だと思いますが、70年代のスタイルよりも、もっとシェミナのクロエが見たいという気持ちが高まっています」

自分の核となる女性デザイナーとは

courtesy of Phoebe Philo. 時代を超越したものを作りたいというデザイナーの意向から、コレクションを「A1」「A2」「A3」と独自にナンバリングしたエディットとし、一度に150アイテムをリリース。「A2」では、映画『落下の解剖学』『関心領域』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラーをキャンペーンに起用。新しい女性像を築く個性派として注目されている。
courtesy of Phoebe Philo. 時代を超越したものを作りたいというデザイナーの意向から、コレクションを「A1」「A2」「A3」と独自にナンバリングしたエディットとし、一度に150アイテムをリリース。「A2」では、映画『落下の解剖学』『関心領域』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラーをキャンペーンに起用。新しい女性像を築く個性派として注目されている。

栗山「気になっているのがフィービー・ファイロ。私の中に確固たる存在として川久保玲、ミウッチャ・プラダがいて、彼女たちと同じ系譜にいるという意味で好きなんです。3人の共通点は、圧倒的なカリスマ性と強さを追求しているところ」

柴田「自分が着る服としては今でこそテイストが違うのですが、ステラ・マッカートニーはキャリアの中で外せない人物。初めて見たショーが、彼女の2シーズン目で。今は珍しくないですが、当時はサビルロウ仕込みのテーラリングジャケットを女性に着せてもいいんだという衝撃がありました。あとは、本革を使わない動物愛護の姿勢と、いち早くハイブランドでサステナビリティを掲げた先駆者。時代を先取りしたステラの直感と手腕を尊敬します」

栗山「普段はデザイナーをあまり性別で判断しないのですが、やはり男女で身体やフィーリングに対するアプローチが違うと思います。よく言われることだけど、男性デザイナーは女性に自分の理想像を、女性デザイナーは自分のカラー、ライフスタイルや着心地を重視する。フィービーはセリーヌ時代から強いものを作っているし、自身の名を冠したブランドでもパワーが増していると思います。使いやすさより、とにかくかっこよさにこだわる。ただ実際に着てみると、女性がスタイリッシュに見えるよう計算しているとわかるんです。個人的に服選びは、ブランドとしての思想や物の強さが最も大事」

柴田「初期のセリーヌ時代のフィービーを振り返ると、シンプルなシャツでも着ると戦闘服っぽさがあった。それまではユニフォーム的なアイテムといえばプラダという感じだったけど、全く異なるアプローチでした」

栗山「今のフィービーが打ち出しているヴィジュアルのかっこよさにやられてしまって。年齢を重ねた人がモデルで、肌を見せても媚びる姿勢が1ミリもない、着る人の自分本位な態度の世界観なんです」

柴田「肩掛けできるバッグを手で持つ、『カバ』を担ぐのもフィービーならでは(笑)。“エフォートレス”といわれていた彼女の影響力は計り知れない。デザイナーが語らず、前に出ないスタンスですが、ザ・ロウの人気も続いている」

栗山「誇張したシルエット、アンバランスなサイズ感。どれもフィービーが始めたんじゃないかなと思っています」

柴田セシリー・バンセンにも強さを感じます。ふんわりしたものを提案しているのに芯がある。ボリューム感に対して、ステッチなど細部の作り込みまで、ほぼ生地屋の域のテキスタイルへのこだわり。オートクチュール的なものを日常的に着ようというアプローチも新しい。ドレスにスニーカーで自転車に乗ろうというのだから、だいぶ感覚的。私の場合はポジティブで自由に、メンタル的な部分で解放してくれる女性デザイナーの服に心躍るのかもしれません」

クワイエットラグジュアリーのその先へ


カルヴェン2024-2025FWルックブックより スタイリングを手がけたスザンヌ・コラーは、パリが拠点のスタイリスト兼アートディレクター。インディペンデントファッション誌『Self Service Magazine』の共同創立者で、『Vogue Paris』のファッションディレクターを経て、現在はフランスの新聞「Le Monde」が発刊する 『Mマガジン』を手がける。A.P.C.などファッションブランドとのコラボレーション、出版物への寄稿も行う。
カルヴェン2024-2025FWルックブックより スタイリングを手がけたスザンヌ・コラーは、パリが拠点のスタイリスト兼アートディレクター。インディペンデントファッション誌『Self Service Magazine』の共同創立者で、『Vogue Paris』のファッションディレクターを経て、現在はフランスの新聞「Le Monde」が発刊する 『Mマガジン』を手がける。A.P.C.などファッションブランドとのコラボレーション、出版物への寄稿も行う。

栗山「あと今季注目されたのが、カルヴェンラコステやアパレルブランドでのキャリアが長いルイーズ・トロッターがデザイナーに就任して、初めての秋冬。ラコステ時代に一度ルイーズを取材したことがあるのですが、家族がいる地に足を着けた、シックでセンスのいい人という印象。彼女はラコステ時代から変わらず、バランス感覚がいいんだと思います。地道に仕事をしてきたことが評価されての抜擢だったんでしょうか。あとは、今回もヴィジュアル作りを一緒にしているスタイリストのスザンヌ・コラーの見せ方が上手ですよね。彼女の抜群のセンスが光っていると思います」

柴田「ルックがかわいい! トレンチコートとシアー素材のミックス、ニュアンスがある色使いなど。ちょうどいいさりげなさは、日本人や韓国人のファッション好きが好むムードかもしれない。このゾーンって今や、一番人口が多い気がしています」

栗山「エフォートレスからクワイエットラグジュアリーの流れですね。ただ、フィービーは決してクワイエットではないと思うんです。攻めてるデザインが多いので。ビジネス面でも、シーズンレスで、当初はオンラインでのみ販売し、徐々に店舗での取り扱いを増やしてきた。今のところ欧米のみの展開なのが残念ですが。新たな動向に目が離せません」

編集部注:フィービー・ファイロは、2024年11月よりオーストラリア、香港、日本、シンガポール、韓国への発送を開始。詳細はこちら

柴田「確かに全然大人しくない(笑)。他の追随を許さない、ギリギリを攻めています。シェミナとルイーズも、まだ始まったばかり。今後どう展開していくか気になりますね」

Edit & Text: Aika Kawada

Profile

栗山 愛以Itoi Kuriyama 早稲田大学卒。コム デ ギャルソンで広報を務めたほか、大阪大学大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションを考察。2013年、ライターに。
柴田 麻衣子Maiko Shibata RESTIRクリエイティブディレクター兼取締役。大学卒業後、ルシェルブルーに入社。リステアで販売とVMDを経験したのち、現職に。2023年にThe BoF 500に選出された。

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